コラム:清水節のメディア・シンクタンク - 第10回

2014年9月12日更新

清水節のメディア・シンクタンク

第10回:厳選 ソードアクション十番勝負! 「るろうに剣心 京都大火編/伝説の最期編」の殺陣革命

■【清十郎vs剣心】は奥義を知る命懸けの師弟リアルバウト

第7位は、【剣心vs蒼紫】in城跡。「伝説の最期編」中盤の見せ場では、裏切られたという思いを引きずり、剣心を10年間探し続けた蒼紫=伊勢谷友介の情念が襲い掛かる。重厚感のある蒼紫の二刀流に対し、木々を楯として円を描くようにドリフト走りして翻弄する剣心の戦法に眼を見張る。“壁走り”や三角飛びしながら回転して剣を振り下ろす剣心のアクロバティックな動きとは対照的に、蒼紫は格闘技をも駆使して追い詰めていく。

第6位は、【清十郎vs剣心】at比古邸周辺。「伝説の最期編」の前半は、まるで「スター・ウォーズ/帝国の逆襲」におけるルークとヨーダの哲学問答を思わせる。「師匠、奥義をお教え願いたい」「それがお前の限界か。今のお前にかけているものは何なのか、分からぬならお前はここで命を落とすことになる」という師弟対決は、近くにある物なら何でも利用し、掴みや蹴りも飛び出す命懸けのリアルバウトだ。清十郎=福山雅治は、ブルース・リーを意識した仕草を見せる。そして、精神的な領域の戦いへと昇華していく美しき竹林での対決。この場面設定は、アン・リーも「グリーン・デスティニー」で引用した「侠女」名場面へのオマージュではないか。「必死に生きようとする意志」に目覚めるまでの自身との闘いは、本作テーマの根幹を成す場面として重要であり、「龍馬伝」の龍馬×以蔵のその後を思わせるキャスティングによる2人の対峙は、見事な効果を上げている。

(C)和月伸宏/集英社 (C)2014「るろうに剣心 京都大火/伝説の最期」製作委員会
(C)和月伸宏/集英社 (C)2014「るろうに剣心 京都大火/伝説の最期」製作委員会

■トンファー使いの史上最強の68歳に圧倒される【蒼紫vs翁】

第5位は、【剣心+斎藤+佐之助+操+薫etc. vs志々雄軍団】in京都。「京都大火編」のクライマックスは、バトル・ロワイヤル状態に入り乱れる。渦中、操=土屋太鳳は、ジャンプして上体をやや捻りながら左右の敵を同時に蹴る“ドニー・イェン=キック”を鮮やかに披露。最大の見せ場は、戦いが収束した直後、馬に乗った宗次郎が薫をさらっていく光景を目の当たりにした剣心が取る行動だ。剣心は猛烈ダッシュして、建物の屋根まで駆け上がる。武侠映画ならば高度な武芸の一環として舞い上がるところだろうが、剣心は引力に逆らわず、踏み台を利用して大股と速度によって上るのだ。そして屋根の瓦の上を一気に走り抜け、飛び降り、痛そうな着地を見せる。テレビ等でこのシーンのメイキングは何度か眼にしたことだろう。谷垣を始めアクション部と言われるスタッフが、ワイヤーで吊されながらキャメラを手にして、疾走する剣心を追う渾身のショットは絶品だ。

第4位は、【蒼紫vs翁】at料亭旅館葵屋。「京都大火編」のクライマックスで並行して描かれる場面だ。二刀流で理知的な殺陣を見せる蒼紫=伊勢谷友介は、“史上最強の68歳”翁=田中泯に終始圧倒され気味。立ち回りというよりはガチの喧嘩のよう。田中は攻め込まれると悔しがり、伊勢谷に本気で向かって行ったとか。翁の重みのある後ろ回し蹴りは痛快だ。上下左右、家屋を隅々まで立体的に活用した活劇設計に魅せられるが、果ては書斎の巻物の中に仕込んであったトンファーを繰り出す展開。本バトルは、前編後半を想像以上に盛り上げた。

■4対1の最終バトル【vs志々雄】は『プロジェクトA』を超えた!

第3位は【剣心vs宗次郎】in戦艦煉獄。前編で宗次郎に破れた剣心が、奥義を掴むことで如何に変わり、強くなったのかを示す「伝説の最期編」の敗者復活戦だ。疾走しながら戦い、対峙すれば低く構え、東南アジアの伝統武術シラットをも駆使して相手の体勢を崩す。新月村でのバトルよりも、動きも手数も倍になったのではないかと思えるほど、2人の立ち回りは息が合い、眼にも止まらぬ速度で展開する。ほぼ垂直の戦艦の壁をタタタと走り抜ける剣心は徐々に優勢となり、表情から笑みが消えていく宗次郎の内面は次第に壊れていく。

第2位は、【剣心vs志々雄軍団】in新月村。「京都大火編」の1対複数の集団バトル。多勢の中にズンズンと進撃しながら、逆刃刀で同じ相手に1度ならず2度強打して気絶させていく、痛い!速い!強い!活劇の真骨頂。最強の剣士の技と力を凄まじい速度で魅せまくり、観る者のアドレナリンも大量放出すること間違いなし。もし、「用心棒」の三船や「座頭市」の勝新が本バトルを観たならば、どんなコメントをしただろう。

(C)和月伸宏/集英社 (C)2014「るろうに剣心 京都大火/伝説の最期」製作委員会
(C)和月伸宏/集英社 (C)2014「るろうに剣心 京都大火/伝説の最期」製作委員会

そして極私的第1位は、【剣心+斎藤+蒼紫+佐之助vs志々雄】in戦艦煉獄。言うまでもなく「伝説の最期編」の最終決戦だ。剣心さえ刃が立たない志々雄の強さを表現するこの4対1バトルは、「プロジェクトA」におけるジェッキー・チェン+サモ・ハン・キンポーユン・ピョウが、ラスボスである海賊の親玉ディック・ウェイに立ち向かっていく四つ巴戦を彷彿とさせるが、本作では、それを遙かに凌駕する凄絶な死闘が繰り広げられる。東宝スタジオに建造された、志々雄の狂気を象徴する甲鉄艦煉獄。そこで8日間かけて撮影し、約7時間分のOK尺を、14分に凝縮。劇中の戦わざるを得ない悲しい運命の男たちの生き様にとってはもちろんのこと、「るろ剣」という壮大なプロジェクトに関わったスタッフ&キャストが、本作に決着を付けるという意味においても、ここまでの修羅場が必要だったのだ。戦いが終わったあとに訪れるカタルシスと虚しさは、筆舌に尽くしがたい。

サービス精神旺盛な2部作である。だがしかし、ただ単に活劇の快楽を追求する作品では終わらない。原作から自立し始めた物語は、ヒーローとは何か、正義とは何かと問いかける。アクションとドラマが有機的に絡まり合い、重厚なテーマにまで斬り込む「るろうに剣心 京都大火編/伝説の最期編」に、心して臨んでほしい。

筆者紹介

清水節のコラム

清水節(しみず・たかし)。1962年東京都生まれ。編集者・映画評論家・映画ジャーナリスト・クリエイティブディレクター。日藝映画学科中退後、映像制作会社や編プロ等を経て編集・文筆業。映画誌「PREMIERE」やSF映画誌「STARLOG」等で編集執筆。海外TVシリーズ「GALACTICA/ギャラクティカ」日本上陸を働きかけ、DVD企画制作。著書に「いつかギラギラする日/角川春樹の映画革命」、新潮新書「スター・ウォーズ学」(共著) 。WOWOWのノンフィクション番組「撮影監督ハリー三村のヒロシマ」企画制作でギャラクシー賞、民放連賞最優秀賞、国際エミー賞受賞。

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