コラム:佐藤久理子 Paris, je t'aime - 第95回
2021年5月27日更新
6カ月半ぶりに映画館再開のフランス 「鬼滅」など日本アニメ3本封切り、「音楽」は批評家から高評価
フランスは5月19日からようやく映画館が再開した。昨年秋の2度目のロックダウン以来、6カ月半ぶりである。映画館で映画を観る行為が娯楽として定着しているこの国で、いったいどれだけの人がこの日を待っていたことか。ただでさえ不要不急のショップやレストランが閉まり、外出しても行くところがない状態が続いていたのだ。しかもワクチンが急ピッチで普及していることもあり(5月31日からは18歳以上のすべての大人にワクチン接種が可能となる)、映画館を怖がるどころか、再開初日は昼間から人が繰り出していた。
わたしもまず午前中にローカルなシネコンに行ってみたところ、朝10時の回でアニメ作品の「カラミティ」が満席だった。さらに午後にパリの中心地、レ・アールのシネコンを覗くと、満席の作品が続出していた。ロックダウン中は多くの人がストリーミングに慣れすぎて、もはや再開しても映画館に客足が戻らないのではないか、と危惧する声があったものの、杞憂に終わった印象だ。
とはいえ、まだすべてが完全に復活したわけではない。映画館の定員は通常の35パーセントに限られ、夜間外出も21時以降は禁止。飲食店はテラスのみの営業である。次に制限が緩和されるのは6月9日で、映画館の定員は65パーセントとなり、夜間外出禁止は23時以降に。飲食店も完全営業となる。さらに6月末には夜間外出制限が外れる予定だ。
ある映画館のマネージャーの話では、現状35パーセントの定員では、たとえ満席になっても人件費などをカバーできずに赤字なのだという。とりあえず再開を祝うため、そしてこの半年で溜まりに溜まった公開延期作品を回していくために開けているとか。
公式な発表ではこの半年間に公開延期となった作品は、フランス映画と国外の作品を足して450本にも及ぶという。これが続々と封切りになるのだから、入りが悪ければ打ち切り、あるいは一週間に限られた数しか上映されない作品も出てくるだろう。作品にとっては決して恵まれた状況とは言えないが、それでも直接ストリーミングやDVDに回されるよりは有難いといったところか。
ではどんな作品が公開になったかといえば、フランス映画ではアルペンスキー競技界のセクハラを描き、昨年の「カンヌ・レーベル」作品に選ばれた新鋭シャルレーヌ・ファビエ監督の「Slalom」、同じく「カンヌ・レーベル」に選出された、個性派俳優として注目を集めるニコラ・モリーが監督、主演を果たした「Garcon Chiffon」、エマニュエル・ベアール久々の主演作である「L’Etreinte」、2020年ベネチア映画祭で招待上映されたクエンティン・デュピュー監督のオフビートなコメディ「Mandibules」、「コーラス」のクリストフ・バラティエ監督がジャン=ポール・ベルモンドの息子ビクトール・ベルモンドと組んだ「Envole-moi」などがある。
ちなみに日本のアニメは「劇場版『鬼滅の刃』無限列車編」「劇場版 ヴァイオレット・エヴァーガーデン」「音楽」と3本が同時公開となった。なかでも「鬼滅」はフランスでもファンが多いため劇場公開を待っていた、という趣の熱気溢れる若い観客が多く、上映中は笑いや大きなリアクションがあり、最後には拍手が沸き起こるほどだった。一方「音楽」は、パリでは2館と小規模な公開ながら、批評家から高い評価を受けている。
活気あふれる映画館の再開を祝いつつ、今後なんとか順調に通常の状態に戻っていくことを願うばかりだ。(佐藤久理子)
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佐藤久理子(さとう・くりこ)。パリ在住。編集者を経て、現在フリージャーナリスト。映画だけでなく、ファッション、アート等の分野でも筆を振るう。「CUT」「キネマ旬報」「ふらんす」などでその活躍を披露している。著書に「映画で歩くパリ」(スペースシャワーネットワーク)。
Twitter:@KurikoSato