コラム:佐藤久理子 Paris, je t'aime - 第93回
2021年3月25日更新
3度目ロックダウンのフランス、映画業界は暗中模索 女優は首相に文化施設再開を全裸で訴え
3月12日に開催された、フランスのアカデミー賞にあたるセザール賞授賞式。度重なるロックダウンのせいで、昨年公開された映画の本数が少ない中、アルベール・デュポンテルの「Adieu les cons」が、作品賞、監督賞を含む最多7部門を受賞した。だが、賞の結果よりもどちらかといえば舞台上のサプライズの方が話題になった印象だ。各受賞者がスピーチで口々に映画館の再開を訴えるなか、賞のプレゼンターとして登場した女優コリーヌ・マジエロ(「君と歩く世界」)が、示威行為としてその場で服を脱ぎ始め、全裸になったためである。
マジエロは当初ジャック・ドゥミの「ロバと王女」を真似て、ロバの着ぐるみ姿で踊りながら登場。だが、その後おもむろに着ぐるみを脱ぐと、「キャリー」のシシー・スペイセクのような血だらけのドレス姿となり、さらにそれも脱ぎ捨てると、ボディには「No Culture, No Future」の文字が。「いまのわたしたちはこういう(瀕死の)状態よ」と語った。背中には、「わたしたちに芸術を返して、ジャン!」と、ジャン・カステックス首相に宛てたメッセージが書かれていた。会場は一瞬しんとなったが、次の瞬間拍手と笑いがわき起こった。
彼女のセンセーショナルな行為には、後日何人かの議員が法的に処罰すべきだと意見したが、結局訴えは通らなかった。マジエロがそこまでしてアピールしたかったのは、コロナ禍ですでに4カ月以上も閉鎖したままの、映画館など文化施設の再開だ。文化業界では、劇場内の衛生管理を厳しくしたにもかかわららず、遊園地などの娯楽施設と十把一絡げに営業を禁止している政府に対する、批判の声が大きくなっている。
また時期を同じくして、フランス国内の20の映画館が政府の決定に逆らって、週末に試験的に開館。「マニフェスト20」と銘打って、安全性をアピールしながら再開措置を訴えると、これに賛同する映画人が後を絶たず、ジュリエット・ビノシュやマチュー・アマルリックをはじめ2000人以上の署名が集まった。
だが、あまりにタイミングが悪いと言うべきか。セザール賞に出席した数日後、文化大臣のロズリーヌ・バシュロのコロナ陽性が発覚。さらにエリザベット・ボルヌ労働・雇用・社会復帰大臣もコロナ陽性で入院し、マクロン内閣は政府内のコロナ対策に追われる事態となってしまった。
そんななか、カンヌ国際映画祭は今年7月上旬に時期を移して開催することを発表した。すでに審査員長は、昨年担当する予定だったスパイク・リーが務めることが決定し、リー自身も「絶対カンヌに行く」と、やる気満々だ。アメリカはワクチンが猛スピードで普及しているだけに、おそらく不可能ではないという読みなのだろう。フランスも、遅れを取りつつも夏までには希望者に行き渡らせることを目標としているからか、今のところ映画祭側はレッドカーペットなどもおこなうつもりらしい。
もっとも、オリンピック同様に世界中からゲストが集まる映画祭が、果たして本当に通常通りの形で開催できるのか。貧しい国はワクチンを普及させられないだろうし、感染率が下がらない国からは入国禁止となる可能性も十分にある。結果的に、かなり不公平な形の開催となってしまうこともあるかもしれない(映画の場合、作品だけ上映することはもちろん可能だが)。
現在、パリを含む16地域が3度目のロックダウンを迎えているフランス。映画業界も暗中模索が続くなかで、なんとか少しでも早く事態が改善に向かうことを祈る他はない。(佐藤久理子)
筆者紹介
佐藤久理子(さとう・くりこ)。パリ在住。編集者を経て、現在フリージャーナリスト。映画だけでなく、ファッション、アート等の分野でも筆を振るう。「CUT」「キネマ旬報」「ふらんす」などでその活躍を披露している。著書に「映画で歩くパリ」(スペースシャワーネットワーク)。
Twitter:@KurikoSato