コラム:佐藤久理子 Paris, je t'aime - 第76回
2019年10月31日更新
ハロウィンよりも吸血鬼が人気? パリで盛況のバンパイア展
ヨーロッパ、特にフランスではハロウィンはあまり馴染みがないが、バンパイアは根強い人気がある、ということをあらためて確認させられたのが、現在パリのシネマテーク(www.cinematheque.fr)で開催中のバンパイア展「VAMPIRES de Dracula a Buffy」だ。ヨーロッパにおけるドラキュラ伝説の、映画のみならず文学、絵画、そして現代のポップカルチャーへの影響を追った展覧会は、大人から子供まで連日多くの観客で賑わっている。
本展ではテーマごとに、「歴史的」「詩的」「政治的」「官能的」「ポップ」という5つの観点に分けて作品や資料を展示。クラウス・キンスキーがベルナー・ヘルツォークの「ノスフェラトゥ」で被ったマスクや、石岡瑛子によるフランシス・フォード・コッポラ「ドラキュラ(1992)」の衣装やデザイン画、ニール・ジョーダンの「インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア」でトム・クルーズとキルステン・ダンスト(子供サイズ!)がつけたサンディ・パウエルによる衣装などの他、ゴヤの素描、バスキアやアンディ・ウォーホルの作品も。また「ポップ」のコーナーでは、丸尾末広の「笑う吸血鬼」など日本の漫画も紹介されている。
バンパイアが、ゾンビやフランケンシュタインと並んで映画の題材として普遍的な人気を保ち、古今東西監督たちを惹きつけてきた理由を、本展のキューレーションを務めたシネマテークのマチュー・オルレアン氏はこう分析する。
「神秘的で実態をもたないバンパイアにまつわる抽象的、観念的なイメージは、幻想を作り出す映画というメディアにとって打ってつけであり、監督にとっては演出という点でとても興味深い題材です。さまざまに姿形を変えたり、ときに霧のように消滅するバンパイアを映像としてどう表現するか。バンパイアの存在は映画のフォルムに多大な影響を及ぼす。そういう点で歴史的に、古くはF・W・ムルナウやカール・ドライヤーからコッポラ、ヘルツォーク、ティム・バートン、ジョン・カーペンター、ジム・ジャームッシュといった大監督たちが飽くことなくバンパイア映画に挑んできたのも、納得できます。いわば映画そのものが伝統的にバンパイアの餌食になってきたとも言えますね」
シネマテークでは展覧会と同時に、バンパイア映画特集も開催。このプログラムの豊富さがまた心憎い。先出の監督たちの作品や、ベラ・ルゴシ、ピーター・カッシング、クリストファー・リーといった歴代人気バンパイア俳優の作品はもちろん、最近HDに修復されたシャルル・マットンの「SPERMULA」、マイケル・アルメレイダの「NADJA」、そしてもちろんトニー・スコットの「ハンガー」などのカルト作も勢揃い。先日は、それほどレアではないコッポラの「ドラキュラ」が、413人収容のアンリ・ラングロワ・シアターをソールドアウトにした(わたしも入れませんでした)。さすがは“映画館”文化が根付くフランスである。
特集上映は11月までだが、展覧会は1月19日まで開催されている。(佐藤久理子)
筆者紹介
佐藤久理子(さとう・くりこ)。パリ在住。編集者を経て、現在フリージャーナリスト。映画だけでなく、ファッション、アート等の分野でも筆を振るう。「CUT」「キネマ旬報」「ふらんす」などでその活躍を披露している。著書に「映画で歩くパリ」(スペースシャワーネットワーク)。
Twitter:@KurikoSato