コラム:佐藤久理子 Paris, je t'aime - 第43回
2017年1月26日更新
「君の名は。」フランスでも絶好調 アニメファン以外も注目
昨年日本での興行収入ベスト1に輝いた「君の名は。」が、フランスでも12月28から公開され、大きな話題を集めている。
もともとフランスには日本のアニメファンが多いが、新海誠監督の作品が劇場公開されたのは本作が初めて。これまではDVDリリースのみゆえ、一部の熱狂的なファンを除いては、監督はほぼ無名に近かったと言える。それだけに配給会社も反応が読めなかったと聞くが、蓋を明けてみれば多くの日刊紙や映画誌に取り上げられ、そのほとんどが称賛または好意的な批評を寄せている。ル・モンド紙は「類い稀なすれ違いの物語を通して思春期の若者の心を描写。見逃せない」と絶賛、カイエ・デュ・シネマ誌は「『君の名は。』は、これまで知られていなかったシネアストにやっと正統的な認知をもたらす」と記した。細田守、原恵一に続き日本アニメ新世代としてフランスで認められた格好だ。
今回プロモーションのためフランスを訪れた監督は、フランス最大の映画ウェブサイトallocineや紙媒体のインタビューに加え、地上派のテレビ局TF1の20時のニュース枠で紹介されたほか、(日本映画が取り上げられることはとても稀)、カナルプリュス、M6などの番組、またラジオ局フランスキュルチュールでも取材を受けたという。また監督が登壇したパリの中心にあるシネコン、UGCレアールのプレミア上映は、500人と300人収容のシアター2つで上映したものの、チケットが即刻完売した。この人気の理由は「昨年日本でもっとも当たった邦画」「『千と千尋の神隠し』に続く日本映画界歴代2位の成績」という話題が伝わって来たということもあるが、やはり作品自体がマスコミに圧倒的に支持された、ということが大きいようだ。ちなみに公開4週目に入ったいまこの原稿を書いている前日も、平日の夜だというのにUGCレアールの上映が満席になっていた。
では実際に一般の反応はどうなのか。そのダイレクトな感想を聞くために、公開週に劇場を訪れた。観客層はかなり幅広く、家族連れはもちろん、10代から40代ぐらいまでの印象で、ティーンよりはむしろ20代以上が目立つ。意外だったのは、それほど熱狂的なアニメオタクは少なく、むしろ日本のアニメはそれほど見ていないという観客が少なくなかったことだ。20代の男女のグループは、「日本でのヒットの噂や、こちらのメディアの評価を耳にして見にきた。男女の中身が入れ替わるというユニークなストーリーにひかれた」「とても感動した。奇想天外なストーリーにぐいぐいと引き込まれた」という反応。30代の男性は、「前半のライトでユーモラスなトーンも楽しめたが、後半の時を遡るドラマにはアニメだということを忘れるほどに引き込まれ、心を揺さぶられた」と語ってくれた。
一方、宮崎アニメファンでパリの郊外からわざわざ見に来たという40代の女性は、「プロットは面白いが、宮崎の作品に比べると深みがない。社会的なメッセージが感じられないのが原因」といささか辛口。同じく40代の女性は、「わかりにくいということはなかったが、あまりに話しがいろいろと飛びすぎて、ここまで複雑にしなくてもいいのではと思った。福島の惨事を連想させる部分もあったが、全体的には娯楽性ということに焦点が置かれていたので、せっかくこういうドラマを描くならもう少し社会的な要素も掘り下げてほしかった」と語った。観客の年齢が上がるほど、作品の評価が厳しくなったように思う。
ともあれ、現在もフランス国内約120館で上映され数字を更新中なだけに、今後どこまで伸びるか見守りたい。(佐藤久理子)
筆者紹介
佐藤久理子(さとう・くりこ)。パリ在住。編集者を経て、現在フリージャーナリスト。映画だけでなく、ファッション、アート等の分野でも筆を振るう。「CUT」「キネマ旬報」「ふらんす」などでその活躍を披露している。著書に「映画で歩くパリ」(スペースシャワーネットワーク)。
Twitter:@KurikoSato