コラム:佐藤久理子 Paris, je t'aime - 第141回
2025年3月26日更新

日本巡回にも期待したい! 世界初、ウェス・アンダーソン展がパリで開幕

パリのシネマテーク(映画博物館)で、3月からウェス・アンダーソン展が開催になった。彼がキュレーションを務める展覧会などはこれまでにもあったものの、彼自身のキャリアを包括する展覧会は、意外にもこれが世界初である。
本展は7月27日までで、その後11月14日から2026年の7月26日までロンドンのザ・デザイン・ミュージアムで開催される予定で、両館のコラボレーションによるもの。ただし美術館の広さや設計が異なるため、まったく同じ内容ではないという。

今回の展示は初長編の「アンソニーのハッピー・モーテル」(1996)から最新作の「アステロイド・シティ」(2023)まで、11本の長編と短編作品を網羅し、各作品で使用されたコスチューム、小道具はもとより、アンダーソンが書き記したノート(全部本人が保管しているものとか)、素描、ストーリーボードなど詳細な資料も展示されている。さすがはアンダーソン、とにかく律儀で細かい彼のこだわりが伝わってくる。
さらにキュレーションを担当したシネマテークのマチュー・オルレアン氏によれば、デビューから年代順に展示しつつも、たとえば「旅」というテーマで「ダージリン急行」(2007)と「ムーンライズ・キングダム」(2012)を対比させたり、「ストップモーション・アニメ」という括りで「ファンタスティック Mr.Fox」(2009)と「犬ヶ島」(2018)を比べられるような会場設計を心がけたそうだ。

とくに本展でぜったいに見逃せないのが、VR短編ビデオ。これは「犬ヶ島」制作時における、ストップモーション・アニメや舞台美術の制作プロセスなどの舞台裏を紹介するもので、目の前に迫ってくる犬たちが語りかけてくるのを聞きながら、ぐるぐる頭を回転させるとスタッフたちのさまざまな制作風景が早回しで展開しているという仕掛けで、楽しい。ユニークなウェス・ワールドの片鱗を体験できる。

また展覧会と同時に、彼の全作品のレトロスペクティブが開催される他、アンダーソンをはじめ撮影監督のロバート・D・イェーマン、作曲家のアレクサンドル・デスプラらのマスタークラスも順次開催。さらにブティックでは関連グッズが多数販売され、シネマテークがカラフルなウェス色に染まっている。ロンドンに巡回した後は、詳細はまだ未定ながら世界各地を回る意向があるそうで、いつか日本でも観られる日が来るかもしれない。詳細はシネマテークの公式サイト(https://www.cinematheque.fr/)にて。
筆者紹介

佐藤久理子(さとう・くりこ)。パリ在住。編集者を経て、現在フリージャーナリスト。映画だけでなく、ファッション、アート等の分野でも筆を振るう。「CUT」「キネマ旬報」「ふらんす」などでその活躍を披露している。著書に「映画で歩くパリ」(スペースシャワーネットワーク)。
Twitter:@KurikoSato