コラム:佐藤久理子 Paris, je t'aime - 第138回
2024年12月24日更新
ゴールデングローブ賞最多10部門ノミネート「エミリア・ペレス」など、2024年フランス映画界を振り返り&2025年上半期の期待作
今年も残すところあとわずか。このページをご覧になっている方のなかには、すでに新年を迎えている方もいるかもしれない。というわけで2024年のフランス映画界を振り返るとともに、2025年上半期の期待作をご紹介したい。
2024年のフランス映画界を彩った作品といえばまず、カンヌで審査員賞と、4人の主演俳優たちに女優賞が与えられたジャック・オーディアール監督のミュージカル・コメディ「エミリア・ペレス(原題)」と、フランスで900万人を超える動員を記録したピエール・ニネ主演の「Le Comte de Monte-Cristo」だ。
ゴールデングローブ賞でも最多10部門ノミネートを果たした前者は、ゾーイ・サルダナ、セレーナ・ゴメスら、ハリウッドスターの出演とメキシコが舞台という設定ゆえ、アメリカ映画の印象があるかもしれないが、メインの製作国はフランスなのでフランス映画といえる。アカデミー賞の国際長編映画賞でもフランスの代表として選出された。
メキシコの麻薬組織のボス(カルラ・ソフィア・ガスコン)が弁護士(サルダナ)を雇い、秘密裏に性別適合手術を受け女性として新たな人生を歩みはじめるも、子供のことが忘れられず、正体を偽って家族に再接近する。突拍子も無い物語がエネルギッシュな歌とダンス、流麗なカメラワーク、俳優陣の演技力により、パワフルなエンターテインメントに昇華されている。フランスのシンガー、カミーユの音楽も独創的で耳に残る。
後者はアレクサンドル・デュマの古典文学を、新世代の実力派俳優たち(ニネ、アナイス・ドゥムースティエ、アナマリア・バルトロメイ、バスティアン・ブイヨンら)を起用しつつ、壮麗なセットやドローン撮影による見応えのある映像で大作感あふれるコスチューム劇に仕立て、制作サイドも予測していなかったほどの成功に至った。
もっとも、興行成績ベスト1に輝いた作品はこのどちらでもない。フランスの人気コメディアン、アルテュス監督、脚本、主演のコメディ「Un P’tit truc en plus」で、なんと動員1000万人を突破した。人生を見失った父と息子(といっても立派な大人)が、ひょんなきっかけでハンディキャップを負った人々の林間学校に紛れ込んだことから、再生のきっかけをもたらされる。ただしアルテュスのネームバリューに拠る成功というよりは、むしろ万人向けの笑いとフィールグッド感が口コミ効果をもたらしたと思われる。クオリティ自体はテレビドラマのような映像とご都合主義的なシナリオゆえ、日本に配給される見込みは低いかもしれないが。
他には、俳優ジル・ルルーシュが監督し、70年代のニュー・アメリカン・シネマからタランティーノまでさまざまな影響を感じさせるラブストーリー「L’Amour ouf」、タハール・ラヒムがシャルル・アズナブールに扮した伝記映画「Monsieur Aznavour」、11月末に公開になったエマニュエル・クールコルの「En Fanfare」などが人気を博している。
一方、批評家の評価の高い作品には、アラン・ギロディの「ミゼリコルディア」(カイエ・デュ・シネマ誌の2024年ベスト1)、パヤル・カパディアの「All We Imagine as Light」(インドが舞台だが、こちらもフランス映画扱い)、ボリス・ロジュキヌが素人を起用したドキュフィクション「L’Histoire de Souleymane」、ラリュー兄弟の「Le Roman de Jim」、フランソワ・オゾンの新作「Quand vient l’automne」などがある。
では2025年はどんな作品が待機しているのか。目下の注目作は、「三銃士は女だった」という大胆なプロットのもと、カンヌでカメラドールを受賞した「ディヴァイン」のウーダ・ベニャミナが描くアクション映画「Toutes pour une」、ベネチア国際映画祭でバンサン・ランドンに男優賞をもたらした「Jouer avec le feu」、「ウルフズ・コール」のアントナン・ボードリーがド・ゴール大統領(演じるのはシモン・アブカ)を描く2部構成の「De Gaulle」、リュック・ベッソンが「DOGMAN ドッグマン」のケイレブ・ランドリー・ジョーンズと再タッグを組むドラキュラもの「Dracula: A Love Tale」、ヤン・クーネンがジャン・デュジャルダン主演でハリウッド50年代のカルト映画「縮みゆく人間」(1957)をリメイクする「L’Homme qui rétrécit」など。2025年も多彩なフランス映画が揃いそうだ。(佐藤久理子)
筆者紹介
佐藤久理子(さとう・くりこ)。パリ在住。編集者を経て、現在フリージャーナリスト。映画だけでなく、ファッション、アート等の分野でも筆を振るう。「CUT」「キネマ旬報」「ふらんす」などでその活躍を披露している。著書に「映画で歩くパリ」(スペースシャワーネットワーク)。
Twitter:@KurikoSato