コラム:佐藤久理子 Paris, je t'aime - 第114回
2022年12月28日更新
2022年のフランス映画界は苦境の年 「三銃士」映画化など来年の大作に期待
2022年はフランス映画界にとって、あまり良い年だったとは言い難い。コロナ禍の規制が完全になくなった後も、映画館には以前ほど客足が戻らなかったからだ。CNC(フランス国立映画、映像センター)の発表によれば、月単位で2021年と比較し、映画館の来場者数が増えたのは、わずか2カ月のみ。2021年の方がコロナ禍の規制が厳しかったことを考えれば、これは深刻な問題である。
ただし街頭でマスクをしている人がほとんどいないことや、飲食店が活気を取り戻していることを考えれば、コロナが怖くて映画館に来ないのがおもな理由ではないように思える。インフレも深刻な問題ではあるものの、映画観放題の会員カードが普及しているフランスの場合、経済事情もそれほど大きいとは思えない。むしろ映画館に行かないことに慣れてしまった人が多いのではないか。
もっとも、理由は単純にそれだけとも言えないようだ。この1年のボックスオフィスを振り返ると、フランス映画のヒット作が少ない。百万人の大台を超えたのは、ジャン・デュジャルダン主演で2015年のパリ同時多発テロを描いた「Novembre」(236万人)と、エルザ・ジルベルスタインが、政治家シモーヌ・ベイユに扮したオリビエ・ダアン監督の伝記映画「Simone, le voyage du siecle」(229万人)のみ。その他で目立ったものは、ジャン=ジャック・アノー監督がノートルダムの火災を題材にしたフィクション「Notre-Dame brule」(79万人)、無実の罪でロシアに拘留されたフランス人の実話をもとにした「Kompromat」(60万人)、オリビエ・ブルドーのベストセラー小説「ボージャングルを待ちながら」を映画化した「En attendant Bojangles」(55万人)、ジェラール・ドパルデューがメグレ警視に扮したパトリス・ルコントの「メグレ」(54万人)、パリ同時多発テロをアリス・ウィノクール監督が描いた「Revoir Paris」(51万人)など。
要は質と商業性を伴う作品が少ないこと、あるいは大衆向けで批評家にこき下ろされるような映画と、たとえばアルノー・デプレシャン、アリス・ディオップ、アルベール・セラといったシネフィルが支持する作品との乖離が激しく、その間を埋めるものが乏しいことなども、業界が活性化しない理由としてあげられるようだ。こうした傾向は今に始まったことではないが、コロナを機に映画人たちの意識も変わる必要があるのではないか、と思わずにはいられない。
では2023年にはどんな話題作が控えているか、見てみよう。まず業界全体の期待がかかる大作としては、ギョーム・カネがアステリクス役と監督を兼任する「Asterix et Obelix : L’empire du milieu」と、ロマン・デュリス、バンサン・カッセル、フランソワ・シビル共演で2部作となる、「三銃士」の映画化「Les Trois mousquetaires : D’Artagnan」および「Milady」、オマール・シーが戦争ドラマで父親役に扮する「Tirailleurs」、「マーティン・エデン」のピエトロ・マルチェロ監督がルイ・ガレルを起用しフランスを舞台にした「L’envol」、カトリーヌ・ドヌーブがシラク元大統領夫人ベルナデット・シラクに扮する「La Tortue」、ジュリエット・ビノシュとブノワ・マジメルが再タッグを組む、トラン・アン・ユン7年ぶりの新作「Le Pot-au-feu de Dodin Bouffant」などがある。
果たしてこれらの作品によって映画館に客足が戻るかどうか、祈るような気持ちで見守りたいと思う。(佐藤久理子)
筆者紹介
佐藤久理子(さとう・くりこ)。パリ在住。編集者を経て、現在フリージャーナリスト。映画だけでなく、ファッション、アート等の分野でも筆を振るう。「CUT」「キネマ旬報」「ふらんす」などでその活躍を披露している。著書に「映画で歩くパリ」(スペースシャワーネットワーク)。
Twitter:@KurikoSato