コラム:大高宏雄の映画カルテ 興行の表と裏 - 第1回

2011年9月2日更新

大高宏雄の映画カルテ 興行の表と裏
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東日本大震災の影響は多大 前年対比82%の興行

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今年2011年の夏興行が良くない。その前に、これまでの今年の興行景況を大まかに記しておこう。この7月までの7カ月では、国内の大手、中堅の邦画、洋画配給会社12社の累計興行収入が979億9717万円で、この成績は昨年の82%ほどであった。

これは、3月11日に起こった東日本大震災の影響も大きい。劇場損傷、計画停電などにより、東北・関東圏の多くの劇場が休館や上映の制限を余儀なくされたからである。米映画の期待の大作の数本が、公開延期になったことも興行の逆風になった。

ただ、再開する劇場が増えてきてもなお、それほど興行の盛り上がりが見えなかった。もちろん東北、関東を中心に、いまだ続く余震の影響も確実にあるだろう。映画館へ出かける環境は、まだまだ改善されてはいないのが現実である。

そうした事情を押さえつつ、一方で昨年ブームとなった3D映画の多くが目標を下回ったことも、興行の低迷感に拍車をかけた。とともに、近年の映画興行を牽引してきた邦画の興行に、はっきりと陰りが見えてきた。この2つの要素が絡み合ったのが、この7カ月あまりの映画興行であったと言える。

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3Dのシェアで明暗わかれた「ハリポタ」と「トランスフォーマー」

トランスフォーマー ダークサイド・ムーン
トランスフォーマー ダークサイド・ムーン
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夏興行は、この流れを大きく断ち切ることができなかった。3D映画に関しては、「ハリー・ポッターと死の秘宝 PART2」と「トランスフォーマー ダークサイド・ムーン」で明暗が分かれた。3D効果がはっきりと見えたのが後者。それほどではなかったのが前者であった。

「ハリー・ポッター」は、最終興収で95~100億円と見られる。100億円が難しく、95億円に届かないとの見方もある。もちろん、この数字だけを見れば大ヒットであり及第点であろう。しかし、1作目「ハリー・ポッターと賢者の石」が200億円を超え、2000年代で最もハイアベレージの興収を記録し続けてきたシリーズの最終作なのだから、さらなる上の成績を実現しても良かったのである。

突破できなかった理由のひとつが、3D版のシェアがそれほど高くなかったことだ。本作の3D版の興収は、全体の64%。これは、昨年の「アバター」や「トイ・ストーリー3」が80%台を占めていたことを考えれば、かなり低い。3D版への関心がもっと高ければ、100億円は楽々超えることができた。

逆に「トランスフォーマー」は、3D版の興収シェアが85%前後まで伸びた。最終的には42億円前後と見られているが、これは前作「トランスフォーマー リベンジ」(最終約23億円)の83%増である。

3D映画であっても、3D版で積極的に見たい作品、それほどではない作品の2つに、観客の嗜好がはっきりと分かれてきたと言っていい。「ハリー・ポッター」は3Dが大きな魅力にならず、「トランスフォーマー」は明らかにそれが魅力的に映った。

昨年のブーム時に比べ、観客の選別が厳しくなったのである。そうした傾向が、この夏興行にも明確に現れた。とくに、3Dが魅力的に映る作品が減ってきたのが重要だろう。「カーズ2」もその1本に入る。

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>>次のページ:テレビ局製作映画には反省材料多き夏興行

筆者紹介

大高宏雄のコラム

大高宏雄(映画ジャーナリスト、文化通信社特別編集委員)。
1954年浜松市生まれ。明治大学文学部仏文科卒業後、文化通信社に入社。現在に至る。1992年より日本映画プロフェッショナル大賞を主催。現在、キネマ旬報「大高宏雄のファイト・シネクラブ」、毎日新聞「チャートの裏側」などを連載。著書は「興行価値―商品としての映画論」(鹿砦社)、「仁義なき映画列伝」(鹿砦社)、「映画賞を一人で作った男 日プロ大賞の18年」(愛育社)など多数。

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