コラム:(大人向け)タイトルが気になる昭和のお色気映画 - 第5回

2021年12月10日更新

(大人向け)タイトルが気になる昭和のお色気映画

動画配信サービスの普及により、これまでなかなか見る機会のなかったジャンルの作品が、気軽に鑑賞できるようになりました。こちらではタイトルが気になりすぎて、筆者が思わずクリックしてしまった昭和のお色気映画の鑑賞レポートをお届けします。

※紹介する作品はすべてR15+もしくはR18+指定で、今日の観点からすると不適切な表現も含まれます。紹介作品をご鑑賞の際は、その旨ご理解ください。また、配信が終了することもあります。


<第5回>「怪猫トルコ風呂」(R15+)(1975/東映/山口和彦監督)

年の瀬を迎え、忙しい毎日を送るみなさん、気晴らしにとんでもない映画を見たくなることありませんか? 今回ご紹介するのは「怪猫トルコ風呂」です。何が起こるのか、全く想像がつかない不思議なタイトルですね。長年カルト作として知られていたものの、今年ようやく初DVD化され話題を集めた作品です。

本作、はっきり言うと現代のコンプラ的にアウトな表現ばかりです。まず、風俗産業なんてとんでもない、というお考えの方は見ない方がよいです。次に、暴力シーンが苦手な方もお勧めしません。もちろんすべて演技ですが、性描写や女性のヌードがたくさん出てきます。しかし、この映画の最大の見どころは、こういった社会道徳的にNGな表現ではないのです。一度見たら忘れられないラストが待ち受ける、ポルノ×ホラーの枠を超えた昭和の超珍作をご紹介します。

現在の吉原大門交差点の「見返り柳」。 遊廓で遊んだ男が、帰り道にこの柳を見て、名残を惜しんで後ろを振り返ったそう。
現在の吉原大門交差点の「見返り柳」。 遊廓で遊んだ男が、帰り道にこの柳を見て、名残を惜しんで後ろを振り返ったそう。

映画のはじまりは東京・吉原、赤線最後の日。吉原は「たけくらべ」などの文学作品、映画では「赤線地帯」「吉原炎上」といった名作が生まれていますが、最近は、大正時代を描いた大人気アニメ「鬼滅の刃」の舞台にもなっています。

このコラムを読むような大人のみなさんはどんな場所であるかは理解されていると思いますが、江戸時代から遊郭と呼ばれた場所は、時代の流れで規制され、戦後は売春防止法の施行により、一部の店舗は業種やサービス内容を転向して営業するようになりました。本作は、今では使われない呼称の特殊浴場「トルコ風呂」での物語です。

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この物語のキーパーソン、雪乃を演じるのは、谷ナオミさん。日活ロマンポルノなどでも活躍され、少し陰のある美貌と抜群のプロポーション、こんな方が身近にいたら、誰もが理性を失ってしまうのではないか……と思うほど妖艶なオーラを持った女優さんです。雪乃の婚約者・鹿内を演じるのが室田日出夫さん。雪乃は鹿内と結婚するため吉原での仕事を引退したのですが、鹿内の金銭問題で、トルコ風呂に鞍替えした新店舗で引き続き働くことになります。

さらっとあらすじを書きました。が、この鹿内が極悪非道、ここまでひどい人間は見たことないよ……と呆れるほど想像を絶するクズ男なのです。名優、室田さんの演技力に脱帽です。この男ともうひとりの悪女の策略で雪乃は騙され、殺されるんですね。そして、遺体は壁の裏に塗り隠されてしまいます。エドガー・アラン・ポーの怪奇小説「黒猫」へのオマージュを感じます。また、「トラック野郎」シリーズのファンである筆者は、長旅を終えた星桃次郎が癒しのひと時を過ごすあのセットが劇中で使われているのを発見し、心が躍りました。

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雪乃は早々に死んでしまい、映画の後半までは、同じく鹿内のせいで不幸な道を歩むことになった雪乃の妹、真弓(大原美佐さん)の物語になります。劇中、いわゆるSMや緊縛というジャンルに属するシーンが何度かあるので、暴力的なお芝居に耐性のない方は早送りしていいと思います。そして、極悪人たちの愛憎劇。おぞましい殺人を行った後にいきなり発情したりするので、ああ、同じ性癖同士がくっついたんだなあとついつい苦笑い。そんな陰惨なドラマの中にも、名バイプレイヤー殿山泰司さん、山城新伍さん、大泉滉さんらによる笑えるシーンも挟まれますので、飽きずにテンポよく鑑賞できます。そして、この欲望の館で何が起こったのかを、雪乃が可愛がっていた黒猫がすべて見ているのです……。

(※ここからネタバレです)

クライマックスに向けたラスト15分、ついに“怪猫”が登場です。殺されてしまった黒猫の怨念が、雪乃に乗り移り、谷ナオミさんの女優魂がさく裂します。アナログ感あふれる特撮とグルーヴ感溢れる音楽をバックに、白装束に白髪のかつら、当時は珍しかったであろうカラコンを装着し、ドラえもんもびっくりの真っ白なヒト型化け猫の誕生です。逆さ吊りになったりと、スーパー歌舞伎さながらの怪アクションを体当たりで演じる谷さん。怪猫モードの雪乃にセリフはなく、猫のうなり声だけなのがもうシュールすぎて、邪な心も吹っ飛びます。ラストの表情を見届けると、ああ、最後まで見て良かった…!と妙なカタルシスを得られることでしょう。

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巧みな脚本と見世物小屋的演出で観客の心を揺さぶり続けながら、女性の性や優しさを喰いものにしようとする悪人たちを成敗する、見事な復讐譚でした。

「Amazon JUNK FILM by TOEI」で配信中。(2021年12月現在)

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筆者紹介

今田カミーユのコラム

今田カミーユ(いまだ・かみーゆ)。映画.com編集部員。ニュータイプに憧れる昭和生まれ。

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