コラム:(大人向け)タイトルが気になる昭和のお色気映画 - 第3回

2021年4月23日更新

(大人向け)タイトルが気になる昭和のお色気映画

動画配信サービスの普及により、これまでなかなか見る機会のなかったジャンルの作品が、気軽に鑑賞できるようになりました。こちらではタイトルが気になりすぎて、筆者が思わずクリックしてしまった昭和のお色気映画の鑑賞レポートをお届けします。

※紹介する作品はすべてR15+もしくはR18+指定で、今日の観点からすると不適切な表現も含まれます。紹介作品をご鑑賞の際は、その旨ご理解ください。また、配信が終了することもあります。


<第3回>「驚異のドキュメント 日本浴場物語」(R18+)(1971/東映/中島貞夫監督)

みなさんこんにちは。もうじき大型連休がスタートです。が、なかなかコロナ感染が収束せず、今年も遠方へのレジャーに出かけるのは難しい状況にある方も多いことと思います。そこで、今回、このコラムを覗いてくださった大人な貴方にオススメするのがこの作品「驚異のドキュメント 日本浴場物語」(1971/東映/中島貞夫監督)です。

タイトルだけ見ると、お色気満載な温泉地レポで、懐かしの水戸黄門や「きゃー! のび太さんのエッチ!」的シーンが繰り広げられるのでは……という下心を胸にこの作品をクリックする人がほとんどでしょう、もちろん、私もそのひとりでした。しかし、この作品の魅力は、湯けむり美女を愛でるだけのライトなものではないのです。自宅に居ながらにしてワンコインで日本津々浦々の温泉旅行気分を味わえ、そして驚くべき非日常体験をもたらしてくれた、本作の見どころを紹介します。

当時の最先端技術を用いた様々な風呂も紹介
当時の最先端技術を用いた様々な風呂も紹介

映画は、おなじみ東映の「荒磯に波」にかぶさる形で、なぜかベートーベン「運命」のジャジャジャジャーン!から始まります。地味にびっくりします(その理由は本編を見終わるとしみじみわかるような気もするのですが)。そして、発泡スチロール製の日本列島が浮かんだ混浴風呂。「1970年、日本列島はどっぷりとぬるま湯にひたりきっていた」とのナレーションとともに、荒木一郎氏による心地よいボサノバ調の楽曲で「何の気なしに生きているのね~♪」と歌われ、「又の題名 日本列島’71 いい湯だな」とのテロップが。タイトル決定時に何か迷いがあったのかもしれません。

その後、1970年の大阪万博の映像に切り替わり「なぜ万博に来たの?」と、問うレポーターに、「やっぱり、みんな来てるからね。ただそれだけ」「死ぬまでに一度見ておかないと」「なんとなくね」と答える来場者たち。筆者が生まれる前なので、当時のことは詳しくわかりませんが、このやりとりを見る限り、50年前から日本人の心のありようはそれほど変化していないような気がします。「繁栄と平和、たとえその実態が希薄であろうとも、人々はギャンブル、レジャーに狂奔する。そのレジャーの中で目を引くのが“入浴”である。まさにぬるま湯日本列島」とナレーターが伝えます。日本社会と時代への批評性を含んだ、社会派ドキュメントのようです。

風呂に取りつかれた男、野々村一平
風呂に取りつかれた男、野々村一平

そして、ようやく温泉地、三重県長島温泉のレジャー施設が登場します。大宴会場や遊園地を併設した広大な施設を映しながら、カメラは巨大浴槽の片隅にいる、ひげ面の不思議な男にクローズアップ。「我々は奇妙な男と遭遇した。野々村一平、風呂に取りつかれた男である」と、この映画のキーパーソンを紹介、そして、「一平が生まれた時、母親はひどい難産であった」と。すると……唐突にリアルな帝王切開のシーンが挿入されるのです。これにはびっくり仰天です。実際の開腹手術をモザイクなしで映しているので、血に弱い方はお気を付けください。温泉映画のために病院がなぜこのシーンの撮影をOKしたのか謎は深まるばかりですが、とにかく無事に生まれてよかったよ、赤ちゃん……と感動必至。

続いて「一平を産み落とすと母親は死んだ……」と、今度は再現ドラマが展開。ナレーションが本作のテーマを全て説明してくれるので、書き起こします。「一平の産湯と母親の湯灌(かん)は同時に行われたのだという。その日以来、湯は一平の人生を決めるテーマとなった。時間と金の許す限り、一平は日本全国を駆け巡り、湯と風呂の研究に没入しているのである。いつか理想の湯を作ることが一平の人生だという。我々もこの男をまねて、日本列島風呂行脚の旅に出てみるか? だが待てよ、しばし……」と続き「風呂とは何か?」と書かれた教育テレビ風テロップがドーン。各地の秘湯、名湯の映像とともに、古事記の時代から宗教的側面、江戸の混浴禁止令まで日本人と風呂の歴史講座がスタートします。

文化人類学や医学からの考察、日本の名湯、一平の人生、時折挟み込まれる(仕込み)ヌードと、それぞれの映像と語りに力がありすぎて、観客は否応なくこの映画のペースに振り回されます。また、当時の万博に出品された巨大スーパーコンピュータを映し、「我々はコンピュータに理想の風呂を尋ねた。一平の行脚が終わるまでには答えを出していてくれるだろう」と「OK Google」を先取りした最新テクノロジーへの期待も。リアルと虚構がないまぜになっており、いったい我々は何を見せられているのかわからなくなるようなフリーダムさを持った作品なのです。

サウナ&湯けむり美女も登場
サウナ&湯けむり美女も登場

ここで、野々村一平が訪れた温泉の一部を抜粋します。すでに閉鎖している施設もあるので、ぜひ本編でその魅力を確認してみてください。

▽和歌山 南紀勝浦 ホテル浦島の洞穴の温泉。
▽和歌山 熊野本宮温泉 一平が自ら川辺に穴を掘って温泉を楽しむ。
▽北海道知床半島 セセキ温泉 干潮時にしか入れない、国後の島影を望む海に面した絶景温泉。
▽青森 恐山 一平が温泉で在りし日の母の若き裸体を妄想する。
▽秋田 蒸ノ湯 土着的な湯治小屋、木彫りの男根を湯の中で抱くと子宝に恵まれる。
▽岩手 夏油温泉 川辺に温泉があり、一平はサンカ風呂の研究に没入。尻をやけど。
▽和歌山 有田温泉ホテル どこよりも変わったものを作ってみたいという店主が考案したオリジナリティあふれる風呂の数々。空中ロープウェイ風呂。
▽山梨 上野原中山温泉 温泉での精力アップを謳う経営者が性器でふすまに穴をあけたり、一升瓶を吊るというパフォーマンスを披露。

さて、お待たせしました。肝心のお色気部門では、みちのく木彫り巨大男根の後方で一平が母親と……という禁断の妄想シーン、日本が世界に誇るアニメ「千と千尋の神隠し」でも扱われた湯女の歴史から、際どい温泉芸者遊びに潜入など、今では見ることのできない貴重な映像がこれでもか、と続きます。ドリフでおなじみ、「ババンバ、バンバンバン♪」のメロディに乗せ、ロープウェイの湯船で空中入浴を楽しむマダムたちを一平が見上げるなんともシュールな映像は必見です。

そして、クライマックスは特殊浴場への潜入モキュメント。性倒錯プレイの再現シーンもありますので、こちらも耐性のない方の鑑賞はお気を付けください。そんなハードな映像の後、一平が再び登場します。混浴文化から性風俗の場に転換した浴場の実態を知り「もはや風呂ではない!」と憤慨。そして行き着いた理想の風呂は……なんと! ものすごいオチなので、もう、ここまで読んでくださった方はラストまで見てください、どうかお願いします。

日本の混浴文化、湯女の歴史をたどる
日本の混浴文化、湯女の歴史をたどる

最後までお付き合いいただき、ありがとうございます。こちら、実はあの巨匠中島貞夫監督の作品です。「新・極道の妻たち」「木枯し紋次郎」など任侠ものや時代劇で、日本映画史に刻まれた数々の傑作フィルモグラフィーを残し、2019年に20年ぶりに発表した「多十郎殉愛記」も記憶に新しいですね。そして東大卒というインテリでいらっしゃいます。そんな中島監督が若き日に手掛けた本作は、生と性、エロスと知性の源泉かけ流し、正に“驚異”の奇作。今年の連休の思い出づくりに、ぜひご覧くださいませ。

「Amazon JUNK FILM by TOEI」で配信中。(2021年4月23日現在)

筆者紹介

今田カミーユのコラム

今田カミーユ(いまだ・かみーゆ)。映画.com編集部員。ニュータイプに憧れる昭和生まれ。

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