コラム:第三の革命 立体3D映画の時代 - 第2回

2008年2月29日更新

第三の革命 立体3D映画の時代

第2回:過去の立体映画ブームとの違い

現在、第3次立体映画ブームが到来しつつあることは、連載第1回でも述べたとおり。今回は、過去の立体映画ブームを振り返り、現在のそれとの違いを検証してみよう。

■第1次立体映画ブーム

立体映画のブームというのは、これまでにも何度も起きている。だが、いずれも2~4年ほどで鎮静化してしまった。

50年代に続々登場した立体映画 (左上から)「恐怖の街」「肉の蝋人形」 「タイコンデロガの砦」「フェザー河の襲撃」
50年代に続々登場した立体映画 (左上から)「恐怖の街」「肉の蝋人形」 「タイコンデロガの砦」「フェザー河の襲撃」

例えばアメリカでは、1950年ごろから急速に家庭にテレビが普及し、それに反比例するように映画館への入場者は減っていった。ハリウッドのスタジオはこの状況に危機感を感じ、対抗策の1つとして立体映画が選ばれた(観客の減少に歯止めを掛けるための処置という点では、今回の第3次ブームと同様のアイデアと言える)。

そして、1953年には「恐怖の街」「肉の蝋人形」「タイコンデロガの砦」「フェザー河の襲撃」「第二の機会」「ホンドー」など、世界中で長編35本・短編51本。54年は「謎のモルグ街」「フランス航路」など、長編22本・短編5本の立体映画が制作された。しかし、55年になると長編3本・短編1本と一気に減少し、ブームは急速に終焉を向かえてしまった。

失敗の原因として考えられるのは、「やたらとカメラに向って棒を突き出す、石を投げつけるといった、立体感を強調する演出が陳腐」「立体効果に頼って、ストーリーがおろそかになっている作品が多い」「作品の内容上、立体効果に必要性がなく、むしろ作品鑑賞の邪魔になる」といった内容的な問題と、「長時間の立体視が疲労をもたらす」「眼鏡が煩わしい」などといったシステム上の問題があった。また、使い回しの立体眼鏡でトラコーマが伝るという噂が流れたり、メキシコ政府が健康上の理由で上映を禁止させたりということも影響した。

■ワイドスクリーンという強敵

帝劇で公開された 「これがシネラマだ」
帝劇で公開された 「これがシネラマだ」

しかし当時の興行界の状況を調べてみると、もう1つの大きな理由があったことに気付く。それは、シネラマ(1952年)、シネマスコープ(53年)、ビスタビジョン(54年)などといったワイドスクリーンの存在である。ワイドスクリーン自体は、1920年代に一度各映画会社が取り組んだものの、定着することはなかった。しかし、立体映画に注目が集まったのと同じ理由で復活したのである。

当時の興行界は、ワイドスクリーンのことを「眼鏡無し立体映画」とか「パノラマ式立体映画」などと呼んで、「ステレオ式立体映画(本当の3D映像)」と比較していた。ワイドスクリーンと3Dの開発に二重投資を強いられる映画会社や劇場は、どちらか一方を選択する必要に迫られ、結果として立体映画は競争に負けてしまった。

■第2次立体映画ブーム

その後立体映画は、小さな流行を何度か経験するが、大きな潮流になることはなかった。だが80年代に入ると、米国の家庭にケーブルテレビが普及し始める。そして、一気に増えた放送時間とチャンネルを埋めるために、古い映画がどんどん放送されていった。

80年代の第2次ブームに公開された (左から)「13日の金曜日」「ジョーズ」3D版
80年代の第2次ブームに公開された (左から)「13日の金曜日」「ジョーズ」3D版

その中で、80年にロサンゼルスのSelecTVというケーブル局が、「雨に濡れた欲情」(1953年)という立体映画を、視聴者に赤青眼鏡を配布してアナグリフで放送した。するとこれが話題になり、次々と古い立体映画が放送された。こういった流行にハリウッドは新たな可能性を感じ、1981~1984年にかけて新作の立体映画を立て続けに制作していった。しかし、「13日の金曜日 Part3」(82年)や「超立体映画 ジョーズ3」(83年)のように気の抜けた“Part3”だったり、「悪魔の寄生虫・パラサイト」(82年)や「メタルストーム」(83年)といった中身の薄い低予算映画ばかりで、結局自滅する形で第2次ブームも終焉を迎えた。

このように立体映像は、一般の映画館向けへの安定した普及には成功しなかったのである。第3次ブームとも言える今回の動きも、過去の失敗の経験から問題点を洗い出し、これを解決しない限り、またしても一時的な流行に終わってしまう可能性がある。

■2D→3D変換技術の登場

ハリウッドは「今回のブームは過去の流行とは異なるものだ。失敗は繰り返さない」と自信を持っている。その背景には、いくつかの新技術の登場がある。まず、映画の内容的な問題に関しては、すでに名作として広く認められている作品を、2D→3D変換処理で立体化してしまうという手法で対応する。これならば作品の品質は保証されている上、コンテンツとしての知名度も高い。

07年に公開された「ナイトメアー・ビフォア・クリスマス /ディズニーデジタル3D」
07年に公開された「ナイトメアー・ビフォア・クリスマス /ディズニーデジタル3D」

そして実際に、93年の人形アニメーション作品「ティム・バートンのナイトメアー・ビフォア・クリスマス」が、ILMが手掛けた2D→3D変換処理によって立体化され、06年と07年に再公開された。

ドキュメンタリー作品では、ライオンの生態を記録した「カラハリのライオン」という映画が作られている。この作品は、03年に2Dの大型フィルム映像作品として公開されていたものだが、これをナショナル・ジオグラフィック社が買い上げ、サスーン・フィルム・デザイン社が2D→3D変換作業を行い、IMAX(R) 3D館とデジタル劇場向けに立体映画として再配給した。

さらに現在、ピクサー・アニメーション・スタジオにおいて制作中の「トイ・ストーリー3D」(2010年全米公開)に先立って、「トイ・ストーリー」(09年10月全米公開)と「トイ・ストーリー2」(10年2月全米公開)の2D→3D変換バージョンが公開される予定である。

>>「スター・ウォーズ」も立体化する!次のページ

筆者紹介

大口孝之のコラム

大口孝之(おおぐち・たかゆき)。立体映画研究家。59年岐阜市生まれ。日本初のCGプロダクションJCGLのディレクター、世界初のフルカラードーム3D映像「ユニバース2~太陽の響~」のヘッドデザイナーなどを経てフリー。NHKスペシャル「生命・40億年はるかな旅」のCGでエミー賞受賞。「映画テレビ技術」等に執筆。代表的著作「コンピュータ・グラフィックスの歴史」(フィルムアート社)。

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