コラム:佐藤久理子 パリは萌えているか - 第2回
2012年2月16日更新
第2回:「ヒューゴ」にも登場 映像の魔術師メリエス、フランスで人気再燃
パリのオルセー美術館周辺などでロケを敢行し、アカデミー賞の最多11部門にノミネートされた「ヒューゴの不思議な発明」。フランスでは昨年12月に公開になり、1カ月で100万人を超える動員を集めロングランを記録している。ヒットの理由は作品自体の出来が素晴らしいということはもちろん、3Dであること、スコセッシのネーム・バリュー、世界的に評価の高い原作等、いろいろ挙げられるが、フランスのレビューでもっとも取り上げられていたのが、ジョルジュ・メリエスに関するテーマだ。
1930年代が舞台の本作には、映画創成期の魔術師にして発明家、ジョルジュ・メリエスのキャラクターが登場する。さすがに映画愛にあふれたスコセッシ監督らしく、物語のなかでメリエスのドラマの比重が少年のそれに劣らないほどに大きく、“お宝映像”ともいえる彼の作品の抜粋まで披露されるのである。実際それらのフッテージは今観ても新鮮で、やんちゃな想像力に溢れ、見る者をわくわくさせるような興奮に誘ってくれる。それが劇中で映画に魅了されるヒューゴ(明らかにスコセッシ自身の投影でもある)の心情と重なり、観客の心に温かな共感を呼び起こすのだ。こうした点が、“映画の都”にしてメリエスの地元フランスで話題を呼んだのは当然だろう。
メリエス熱の再熱は、そもそも昨年のカンヌ映画祭から始まった。彼の「月世界旅行」(1902年)のカラー修復版が完成した記念に、カンヌ映画祭のオープニングで披露されたのだ。修復版にはフランスで人気のデュオ・グループ、AIRが音楽を付けた。AIRといえば、これまでソフィア・コッポラの映画に曲を提供したり、シャルロット・ゲンズブールのファースト・アルバムをプロデュースするなど、映画関係とも繋がりが深いが、彼ら自身もメリエスの大ファン。「以前からメリエスにオマージュを捧げたアルバムを作りたいと思っていた」そうで、サントラを担当したのが縁でその企画は自分たちのアルバム・プロジェクトに発展し、今年の2月6日にはニュー・アルバム、その名も「月世界旅行」(EMI)を発売した。
さらにメリエスの孫のマドレーヌ・マルテット=メリエスの回想本「Georges MELIES, L’Enchanteur」(La Tour Verte社)や、メリエスの短編29本を集めたDVDボックスセット(『Georges MELIES, A la conquête du cinématographe』Studio Canal社)も発売され、その周辺は再び盛り上がりを見せているのである。
スコセッシはメリエスについてこう語っている。「映画制作において彼はつねに新しいことを発明し、その可能性を広げようとしていた。当時すでに『Le cake-walk infernal』という作品で、彼は2シーンほど原始的な3Dで撮影している。彼が今日生きていたら、必ずや3D映画に挑戦していたはずだよ」
たしかに。だがここではむしろ、こう言いたい。彼が今日もし、「ヒューゴの不思議な発明」を見たなら、とても驚くとともに、必ずや感銘を受けたに違いないだろう、と。(佐藤久理子)
筆者紹介
佐藤久理子(さとう・くりこ)。パリ在住。編集者を経て、現在フリージャーナリスト。映画だけでなく、ファッション、アート等の分野でも筆を振るう。「CUT」「キネマ旬報」「ふらんす」などでその活躍を披露している。著書に「映画で歩くパリ」(スペースシャワーネットワーク)。
Twitter:@KurikoSato