女性スパイを主人公にしたら…スパイものの新境地にして傑作なドラマが誕生! : FROM HOLLYWOOD CAFE

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コラム:FROM HOLLYWOOD CAFE - 第294回

2018年6月20日更新 小西未来

第294回:女性スパイを主人公にしたら…スパイものの新境地にして傑作なドラマが誕生!

BBCアメリカの新ドラマ「Killing Eve(原題)」 BBCアメリカの新ドラマ「Killing Eve(原題)」

信じられないかもしれないが、つい最近までハリウッドでは女性が主人公のスーパーヒーロー映画はヒットしないと思われていた。スーパーヒーロー映画を好むのは主に男性の観客だから、彼らが女性キャラに共感できるわけがない、というのがその根拠で、「キャットウーマン」や「エレクトラ」、「イーオン・フラックス」などの駄作がコケたことも手伝って、既成概念が形成されていった。

だが、世界興収8億ドルを超える大ヒットを記録した「ワンダーウーマン」によって、それが単なる迷信に過ぎないことが証明された。良質な映画であればキャラクターの性別など関係ないし、むしろ新鮮な驚きを与え、観客層を広げてくれる。そもそもアクション映画の主人公を女性に変更してもヒット作となりえることは、「フォースの覚醒」から始まった「スター・ウォーズ」でも立証されていた。いったん金になることがわかれば、ハリウッドに躊躇する理由はない。すでに続編の「ワンダーウーマン1984(原題)」や、「キャプテン・マーベル(原題)」など、女性を主人公にした複数のスーパーヒーロー映画が製作中だ。

それでは、スパイものはどうだろうか? ジェームズ・ボンドやジェイソン・ボーン、イーサン・ハント、ジャック・ライアンなど、スパイアクションものの主人公は決まって男だ。これを大胆にも女性に変更することで、新たな可能性を切り開いたのがBBCアメリカの新ドラマ「Killing Eve(原題)」である。

女性スパイ×女性殺し屋の運命が交錯するスパイスリラー 女性スパイ×女性殺し屋の運命が交錯するスパイスリラー

主人公のイヴ・ポラストリ(サンドラ・オー)は、イギリスのMI5で働くアナリストだ。諜報機関に勤めているものの、デスクワークのみの仕事に退屈しきっている。そんな彼女はヨーロッパ各地で起きた殺人が同一人物によるものであることを突き止めたことをきっかけに、極秘捜査班のリーダーに抜擢(ばってき)されることになる。

主人公が悪者を追いかけるというよくあるパターンなのだが、まずキャラクター設定がユニークだ。「グレイズ・アナトミー」のサンドラ・オー演じるヒロインは、頭が切れるものの、身体能力は普通のアラフィフ女性となにも変わらない。仕事にも家庭にも恵まれているはずの平凡な彼女は、いつしかスリルと危険に満ちた世界に引き込まれていく。

そして、イヴが追う殺し屋ヴィラネル(ジョディ・カマー)もまた女性だ。こちらはイヴと正反対の若い女性で、美貌と色気を武器に狙った標的を惨殺していく。得てしてこういった悪者は、強制的に仕事をさせられていたり、罪悪感に苛まれたりすることがあるものだが、ヴィネラルは違う。どんな殺しにも良心の呵責を覚えないし、好きなだけ買い物をして、パリのマンションで暮らすいまのライフスタイルを愛している。残忍なサイコパスというより、道徳心が欠落した無邪気な少女に近い。 そのヴィネラルが、自分を追うイヴに興味を抱いたことから、2人の運命が複雑に絡みあっていくことになる。

主人公イヴが追う殺し屋のヴィラネル 主人公イヴが追う殺し屋のヴィラネル

「Killing Eve」の魅力を一言で言えば、こちらの期待を気持ち良く裏切りつづけてくれることだ。これまでのスパイスリラーになかった展開だらけで、スリリングなのにコミカル、残虐なのにスタイリッシュというスタイルも新鮮だ。いったい誰がこんな斬新なドラマを作ったんだろうと思ったら、Amazonのオリジナルドラマ「Fleabag フリーバッグ」で企画・制作総指揮・主演を務めたフィービー・ウォーラー=ブリッジだった。「Fleabag フリーバッグ」は、アラサー女性を主人公にしたよくあるお下劣コメディのようでいて、根底には鋭い洞察と深い絶望があって、カメラ目線による語りや大胆な編集スタイルも含めて、画期的なコメディだった。あのドラマを手がけた女性クリエイターがスパイものに挑戦したからこそ、「Killing Eve」のような傑作が生まれたのだと納得。

ちなみに、ウォーラー=ブリッジは役者として「ハン・ソロ スター・ウォーズ・ストーリー」に出演している。ランド・カルリジアン(ドナルド・グローバー)とともにミレニアム・ファルコン号を操縦するL3-37というドロイド役だ。あいにくその姿はVFXで置き換えられているが、彼女が演じた知的な皮肉屋は、他の人間キャラクターよりも魅力的だったと思う。今後、ますます活躍することになりそうだ。

[筆者紹介]

小西未来

小西未来(こにし・みらい)。1971年生まれ。ゴールデングローブ賞を選考するハリウッド外国人記者協会(HFPA)に所属する、米LA在住のフィルムメイカー/映画ジャーナリスト。「ガール・クレイジー」(ジェン・バンブリィ著)、「ウォールフラワー」(スティーブン・チョボウスキー著)、「ピクサー流マネジメント術 天才集団はいかにしてヒットを生み出してきたのか」(エド・キャットマル著)などの翻訳を担当。2015年に日本酒ドキュメンタリー「カンパイ!世界が恋する日本酒」を監督、16年7月に日本公開された。ブログ「STOLEN MOMENTS」(http://www.miraikonishi.com)では、最新のハリウッド映画やお気に入りの海外ドラマ、取材の裏話などを紹介。

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