コラム:FROM HOLLYWOOD CAFE - 第276回
2016年10月11日更新
第276回:日本上陸が待ち遠しい!今秋デビューの米テレビシリーズ「ディス・イズ・アス」の魅力とは
今秋もアメリカで新ドラマがつぎつぎとデビューを飾っているが、ネットワーク局が放送するドラマのなかでもっとも注目を集めているのが、「ディス・イズ・アス(原題)」という群像劇だ。エンターテインメント・ウィークリー誌は「Fall's Best New Show(この秋最高の新番組)」と紹介しているし、早くもフルシーズン化が決定している。個人的にも気に入っているので、ぜひとも紹介したいと思う。
「ディス・イズ・アス」は、複数のキャラクターが織りなすヒューマンドラマだ。身重の妻を持つジャック、ぽっちゃり体型で自尊心の低いケイト、テレビ俳優としての立場にうんざりしている演技派志向のケビン、置き去りにされた子で生みの親を探しているビジネスマンのランダル。職業も生活環境も異なる彼らが日常で葛藤する姿が、コミカルかつハートウォーミングに描かれていく。
かつては「LOST」や「ブレイキング・バッド」、最近では「FARGO ファーゴ」や「ストレンジャー・シングス 未知の世界」が好きな僕からすると、ありきたりの日常を丁寧に描く「ディス・イズ・アス」はストライクゾーンを大きくはずれている。実際、同系の「ペアレントフッド(原題)」や「ブラザーズ&シスターズ」も得意ではなかった。でも、このドラマは途中でやめることができなかった。それぞれのキャラクターが魅力に溢れているからつい応援したくなってしまうし、シニシズムのかけらもない温かな雰囲気もいい。彼らが直面する問題はさまざまで、人の死といった重たい受難もある。だが、いたずらに不幸を描くのではなく、そうした経験すらも人生の糧になるという力強いメッセージがある。悲劇を体験したキャラクターに、老医師は「どんなに酸っぱくても、レモネードにできないレモンはない」とやさしく慰める。
唯一の不満は、それぞれのキャラクターに関連性を見いだすことができなかったことだ。共通点は、全員がおなじ日に誕生日を迎えた36歳であることだけで、それぞれが魅力的ではあるけれど、この組み合わせで群像劇を描く必然性が見えなかった。
実は、第1話のエンディングであっと驚くサプライズがあって、彼らの関係性がきちんと明かされる。ネタバレになるのでここでは控えるけれど、「ディス・イズ・アス」は普通の群像劇のようでいて、実は周到な仕掛けが組み込まれていたのだ。
笑いと感動があって、おまけに斬新な構成になっている。企画・製作総指揮がダン・フォーゲルマンだと知って、すべてが腑に落ちた。彼は「Dearダニー 君へのうた」の監督として知られているけれど、もともとは「カーズ」や「塔の上のラプンツェル」などのアニメ作品を担当した脚本家で、スティーブ・カレルやジュリアン・ムーア、エマ・ストーン、ライアン・ゴズリングと豪華キャスト出演のロマンティックコメディ「ラブ・アゲイン」も手掛けている。ぼくはこの作品が好きで、実際「ディス・イズ・アス」とよく似ている。調べてみたら、去年の個人的ベスト「ぼくとアールと彼女のさよなら」のプロデューサーも手掛けていて、つくづく好みが合っていると思う。
フォーゲルマンは女性初のメジャーリーガーを描く新ドラマ「ピッチ(原題)」も手掛けていて、こちらも好評だ。かつてミステリードラマで一世を風靡したJ・J・エイブラムスのように、感動ドラマで米テレビ界を制していくかもしれない。
筆者紹介
小西未来(こにし・みらい)。1971年生まれ。ゴールデングローブ賞を運営するゴールデングローブ協会に所属する、米LA在住のフィルムメイカー/映画ジャーナリスト。「ガール・クレイジー」(ジェン・バンブリィ著)、「ウォールフラワー」(スティーブン・チョボウスキー著)、「ピクサー流マネジメント術 天才集団はいかにしてヒットを生み出してきたのか」(エド・キャットマル著)などの翻訳を担当。2015年に日本酒ドキュメンタリー「カンパイ!世界が恋する日本酒」を監督、16年7月に日本公開された。ブログ「STOLEN MOMENTS」では、最新のハリウッド映画やお気に入りの海外ドラマ、取材の裏話などを紹介。
Twitter:@miraikonishi