コラム:FROM HOLLYWOOD CAFE - 第229回
2013年6月26日更新
第229回:ジョニー・デップ主演「ローン・レンジャー」取材でサンタフェ初訪問!
「パイレーツ・オブ・カリビアン」のチームが手がけた「ローン・レンジャー」を観た。もともとはラジオドラマとして誕生して、その後、テレビドラマや映画となったお馴染みの西部劇の映画版だ。西部劇というと、ハリウッドではほとんど廃れてしまったジャンルだけれど、「パイレーツ」で海賊映画を復活させたチームが手がけているだけあって、娯楽大作に仕上がっている。ジャンルでの決まり事を守りつつ、アクションと笑いをたっぷり盛り込んでいるところは同じだし、ジョニー・デップが愛すべき奇人を演じているところも一緒。むしろ、ストーリーがより練られていて、シリアス度も高いこっちのほうが、僕の好みだった。最近の大作映画の例に漏れず、長すぎるのがたまにきずだけれど(上映時間は2時間20分)。
その「ローン・レンジャー」の取材が、ニューメキシコ州のサンタフェで行われることになった。サンタフェというのは、アメリカでもっとも古い歴史を持つ街のひとつで、歴史的な街並みを残していることで知られている。どうしてここで取材が行われることになったのか知らないけれど、この近くで映画が撮影されたことや、ネイティブ・アメリカンの文化が残っているためじゃないかと思う。
僕はアメリカ生活が長いわりには大陸沿岸にある都市しか知らず、もちろんサンタフェにも行ったことがない。だから、今回はジョニー・デップに1年ぶりに会えるのはもちろん、人気の観光名所に行けるのが楽しみだった。最近は旅先ではランニングをしながら観光することにしているので、キャリーケースにシューズをしっかり詰め込んだ。日干しレンガで出来た古い街並みを駆けたら、きっと楽しいだろうと思って。
しかし、アルバカーキ国際空港から車で1時間ほどの移動のあいだに、高揚感がみるみるしぼんでいった。フリーウェイの両側に砂漠が広がり、肉眼で見るのは初めての光景なのに、気分が盛り上がらないのだ。きっと、30度を超える気温と旅行疲れのせいだと自分に言い聞かせて、空調の効いたホテルでさっさと就寝しようとするのだが、なかなか寝付けない。脱水症状になったときのように頭が痛くて、体がだるい。脈拍もあがっているような気がする。
高山病にかかっていると気づいたのは、翌朝のことだ。取材場所のビショップズ・ロッジ・リゾート&スパに移動すると、同じ症状を訴えている記者がたくさんいて、なかには、ソファーで寝込んでいる人もいたのだ。地元の人に聞いたところによると、サンタフェは海抜2000メートルの場所にあるから、到着したときには水分をたっぷりとったり、アルコールを控えたりしないと、高山病になるリスクがあるという。眠れないからとビールやワインをあおっていた僕は、症状を悪化させていたのだ。
というわけで、頭痛と吐き気に悩まされながら、「ローン・レンジャー」の取材をすることになった。幸い、出演者の人たちのなかに体調の悪そうな人は誰もいなかったので、インタビュー自体はうまくいった。ジョニーも、ベックスのビールを煽りながら陽気に答えてくれた。
その後、飛行機の出発まで時間の余裕があったので、みんなは乗馬を楽しんだり、観光に繰り出していった。でも、僕はまっさきに空港へと向かった。空港は400メートルほど標高が低い場所にあるためで、実際、車に乗っているあいだにすこしずつ症状が軽くなっていった。バンの窓ガラスに頭を預けながら、今回の旅行ではランニングシューズを取り出してすらいないことに気づいた。風景写真も1枚も撮っていない。
今度来るときは準備を怠らないようにしよう。そう心に誓いながら、眠りに落ちていった。
「ローン・レンジャー」は、8月2日から全国で公開。
筆者紹介
小西未来(こにし・みらい)。1971年生まれ。ゴールデングローブ賞を運営するゴールデングローブ協会に所属する、米LA在住のフィルムメイカー/映画ジャーナリスト。「ガール・クレイジー」(ジェン・バンブリィ著)、「ウォールフラワー」(スティーブン・チョボウスキー著)、「ピクサー流マネジメント術 天才集団はいかにしてヒットを生み出してきたのか」(エド・キャットマル著)などの翻訳を担当。2015年に日本酒ドキュメンタリー「カンパイ!世界が恋する日本酒」を監督、16年7月に日本公開された。ブログ「STOLEN MOMENTS」では、最新のハリウッド映画やお気に入りの海外ドラマ、取材の裏話などを紹介。
Twitter:@miraikonishi