コラム:FROM HOLLYWOOD CAFE - 第222回
2013年4月25日更新
第222回:マット・デイモン、ボストン爆破事件について語る
ボストンで起きた爆破テロ事件には、いまだにショックを受けている。罪のない人たちが犠牲になったことはもちろん、よりによってマラソン会場をターゲットにされたことに憤りを覚えている。市民ランナーにとってマラソン大会は日頃のトレーニングの成果を発揮する場であるのと同時に、年齢も職業も人種も異なる人たちと苦楽を共有する特別な機会なのだ。なかでも、1897年開始のボストン・マラソンはもっとも長い伝統と歴史を誇る。資格タイムをクリアしないと参加出来ず、僕の年齢だと、3時間15分以内にマラソンを完走した記録を持っていなくてはならない。つまり上級ランナーのみを対象にした大会なのだが、だからこそいつかは走ってみたいとぼんやり考えていた。そんな憧れの大会に、犯人の連中はとんでもないことをしてくれたものだ。快適だった空の旅が9・11以後に変わってしまったように、今後はすべてのマラソン大会の警備が厳しくなるだろう。人生を謳歌するための祭典に暗い影を落とされたことが、なによりも悔しい。
先日、メキシコのカンクンでマット・デイモンに取材したときも、当然この話題になった。デイモンといえば、親友のベン・アフレックとともにボストンで生まれ育ったことで知られている。デイモンによれば犯行を行ったとされる兄弟の弟が通っていた高校は、彼の母校だというのだ。
「台所にいたら、テレビから高校時代の歴史の先生の声が聞こえてびっくりしたよ。あわててテレビを見たら、ラリー・アーロンソン先生がCNNの取材に答えていたんだ」
デイモン自身、今回の事件にひどく心を掻き乱されているという。
「あの街で育った人間にとって、マラソン・マンデー(ボストン・マラソンは、4月の第3月曜日に実施される)は一大イベントなんだ。学校が休みで、だれもが応援に行く。ボストン市民にとって伝統となっているんだよ。よりによってあの連中はそのど真ん中に爆弾を仕掛けた。連中もコミュニティの一員であるにも関わらずにね。この点がもっとも理解に苦しむところだ。だって、あんな場所に爆弾を仕掛けて、子どもを一人も殺さないことなんてありえないから。あの場所には、ランナーの家族や、応援のために集まった人たちしかいないんだから」
ショックを受けたまま、ニール・ブロムカンプ監督の新作「エリジウム」取材のためにカンクン入りしたデイモンだが、幸い同郷人に会うことができたという。デンゼル・ワシントンと共演した「2 Guns」のプロモーションのために、ボストン出身のマーク・ウォールバーグもやってきていたのだ。この取材が行われる前夜、二人は事件について語り明かしたという。
ちなみに、二人が同時期にメキシコの同じホテルに宿泊していたのは、「サマー・オブ・ソニー」という取材イベントに参加していたからだ。次回はこの詳細をご報告します。
筆者紹介
小西未来(こにし・みらい)。1971年生まれ。ゴールデングローブ賞を運営するゴールデングローブ協会に所属する、米LA在住のフィルムメイカー/映画ジャーナリスト。「ガール・クレイジー」(ジェン・バンブリィ著)、「ウォールフラワー」(スティーブン・チョボウスキー著)、「ピクサー流マネジメント術 天才集団はいかにしてヒットを生み出してきたのか」(エド・キャットマル著)などの翻訳を担当。2015年に日本酒ドキュメンタリー「カンパイ!世界が恋する日本酒」を監督、16年7月に日本公開された。ブログ「STOLEN MOMENTS」では、最新のハリウッド映画やお気に入りの海外ドラマ、取材の裏話などを紹介。
Twitter:@miraikonishi