コラム:FROM HOLLYWOOD CAFE - 第188回
2012年7月10日更新
第188回:IMAXフィルムならではのトラブルとは?
「ダークナイト ライジング」は、今年もっとも楽しみにしている映画のひとつだ。もともとクリストファー・ノーラン監督のファンだし、今回は3部作の完結編だからどんな落とし前が用意されているのか、一刻も早く確認したかった。
だから、7月6日にプレス向けの最初の試写に参加する機会が訪れたとき、他の予定をキャンセルして駆けつけた。場所はユニバーサル・シティウォーク内にあるIMAX映画館。入場に際しては、「7月16日までいかなるメディアにも映画評を公表しません」という旨が書かれた宣誓書への署名を要求され、盗撮防止のために空港並みのセキュリティチェックをくぐらなくてはならなかった。IMAXの大きな劇場のいたるところに暗視メガネをかけた警備員が配置するというものものしい雰囲気のなかで、午後7時すぎに上映が始まった。
なんの予備知識もなかったので、驚きばかりの展開であっというまに物語世界に没頭してしまった。
しかし、1時間を経過したあたりで、事故が発生する。突然、映像と音響がシンクロしなくなったのだ。音のほうが数秒先に進み、映像が遅れてくる。体験したことがない人は想像しづらいかもしれないけれど、役者の口の動きと台詞が合わないとものすごく変な感じで、とても物語に集中していられない。
すぐに劇場がざわつきはじめ、数人が映写技師にクレームをつけに行った。間もなく、上映がストップし、館内照明が灯った。IMAXの品質管理の人が現れ、フィルムと音をシンクロさせるコンピューターに問題が発生したため、すこし時間が欲しいと説明する。しかし、事態は改善しない。20分後、同じ責任者が登場し、コンピューターを新品に取り替える必要あるため、今夜の上映は打ち切りになる、と告げた。
長く映画ファンをやっているので、映像と音がシンクロしない事態に直面したことは何度もある。ただ、デジタル上映が一般的になってからは初めてだった。IMAXフィルムでの撮影と上映にこだわったノーラン作品だからこそ発生したトラブルと言えるかもしれない。
結局、再上映は翌朝行われることになった。ため息をついた人も少なくなかったけれど、僕は構わなかった。「ダークナイト ライジング」のためなら、早起きくらいなんでもない。
再上映は、翌朝8時にスタートした。劇場側が徹夜で修理してくれたおかげで、上映はつつがなく進行した。クライマックスになると、涙があふれてきた。上映終了後、車で帰路についたものの、まともに運転が出来ず、路肩に停車して気分を落ち着けなくてはならなかったほどだ。
くわしい内容については来週お伝えします。
「ダークナイト ライジング」は、7月28日から全国で公開。
筆者紹介
小西未来(こにし・みらい)。1971年生まれ。ゴールデングローブ賞を運営するゴールデングローブ協会に所属する、米LA在住のフィルムメイカー/映画ジャーナリスト。「ガール・クレイジー」(ジェン・バンブリィ著)、「ウォールフラワー」(スティーブン・チョボウスキー著)、「ピクサー流マネジメント術 天才集団はいかにしてヒットを生み出してきたのか」(エド・キャットマル著)などの翻訳を担当。2015年に日本酒ドキュメンタリー「カンパイ!世界が恋する日本酒」を監督、16年7月に日本公開された。ブログ「STOLEN MOMENTS」では、最新のハリウッド映画やお気に入りの海外ドラマ、取材の裏話などを紹介。
Twitter:@miraikonishi