コラム:FROM HOLLYWOOD CAFE - 第184回
2012年6月13日更新
第184回:アーロン・ソーキン、新ドラマ「The Newsroom」でテレビ界復帰!
新ドラマ「The Newsroom」をひっさげてアーロン・ソーキンがテレビに復帰した。最近のソーキンは、「ソーシャル・ネットワーク」でアカデミー賞を受賞したり、「マネーボール」を手がけたりと、映画での活躍が目立つ。でも、僕にとっては「ザ・ホワイトハウス」のクリエイターであり脚本家だ。彼が手がけたシーズン4までは非の打ち所がない仕上がりで、しかも、ほとんどのエピソードを単独で書いてしまっているのだから恐れ入る。
ソーキンはもともと劇作家で、自作劇「ア・フュー・グッドメン」の映画化にともない映画に進出。ロブ・ライナー監督の「アメリカン・プレジデント」を執筆したことがきっかけで、大統領側近を主人公にしたテレビドラマ「ザ・ホワイトハウス」を思いついたという経緯がある。
米有料チャンネルのHBOで6月下旬から放送開始となる「The Newsroom」は、ニュースの裏側を描くドラマだ。「Sports Night」や「Studio 60 on the Sunset Strip」など、ソーキンはテレビ番組の裏を描くドラマをすでに数本手がけており、今回はケーブル局のニュース番組が舞台。ジェフ・ダニエルズ演じるニュースキャスターは、自己主張を極力控え、八方美人な態度から、“ニュース界のジェイ・レノ”と揶揄されている。そんな彼の番組を型破りな女性プロデューサー(エミリー・モーティマー)が担当することになったことがきっかけで、ジャーナリストとしての真価が発揮されていくことになる、というストーリーだ。
偉大なリーダーと彼を支える優秀なスタッフたちという構図や、社会問題を題材にとりあげている点は、「ザ・ホワイトハウス」そっくり。もちろん、ソーキンのトレードマークでもある早口の長台詞もたっぷりある。でも、僕がもっともしびれるのは、ソーキン作品に一貫する理想主義だ。たとえば、「ザ・ホワイトハウス」は政治の世界を舞台にしつつも、冷笑的にはならず、与えられた環境下でベストを尽くす人々のドラマを描いた。
「The Newsroom」においてもその姿勢は同じで、商業的、政治的な制約のなかで、最高の報道番組をつくろうと努力する人々を描いている。こんなのは現実的じゃないと、批判する人がいるかもしれない。たしかに、ジェド・バートレット大統領のような偉大な指導者はこの世に存在しないし、クビ覚悟で自らの信条を貫くようなニュース番組のクルーもいないかもしれない。でも、視聴者の僕は、彼らの葛藤を見ると大いに勇気づけられる。1話ごとに、より良い自分になりたいと思わせてくれる。これこそが、ソーキンのドラマの真骨頂だと思う。
筆者紹介
小西未来(こにし・みらい)。1971年生まれ。ゴールデングローブ賞を運営するゴールデングローブ協会に所属する、米LA在住のフィルムメイカー/映画ジャーナリスト。「ガール・クレイジー」(ジェン・バンブリィ著)、「ウォールフラワー」(スティーブン・チョボウスキー著)、「ピクサー流マネジメント術 天才集団はいかにしてヒットを生み出してきたのか」(エド・キャットマル著)などの翻訳を担当。2015年に日本酒ドキュメンタリー「カンパイ!世界が恋する日本酒」を監督、16年7月に日本公開された。ブログ「STOLEN MOMENTS」では、最新のハリウッド映画やお気に入りの海外ドラマ、取材の裏話などを紹介。
Twitter:@miraikonishi