コラム:FROM HOLLYWOOD CAFE - 第175回

2012年3月29日更新

FROM HOLLYWOOD CAFE

第175回:10代女子が夢中になるサバイバル映画「ハンガー・ゲーム」とは?

画像1

日本での人気はいまひとつながら、アメリカで絶大な人気を誇る作品がある。たとえば、「トワイライト・サーガ」がそうだ。ステファニー・メイヤーのヤングアダルト小説を映画化した同シリーズは、これまで発表された4作品の全米興行収益が10億ドルを突破しているほどだ。今年公開される「トワイライト・サーガ ブレイキング・ドーン Part2」で完結となるが、その次のヒットシリーズとして大きく注目されている作品がある。スーザン・コリンズのベストセラー小説「ハンガー・ゲーム」の映画化がそれで、いよいよ今週末、第1弾が全米公開されることになる。

ハンガー・ゲーム」の舞台は、独裁国家が支配する近未来。キャピトルと呼ばれる大都市が富と権力を掌握し、12地区に分けられた残りの地域で暮らす人々は貧困生活を強いられている。主人公キャットニスは、母と妹を養うために森で狩りをする健気な16才の少女で、“ハンガー・ゲーム”と呼ばれる国を挙げてのイベントに参加する羽目になる。“ハンガー・ゲーム”とは、各地区から少年と少女1名ずつが参加し、最後のひとりになるまで殺し合いをするという、年に1度のテレビ中継イベントだ。誰も殺したくないし、残してきた家族のためにも殺されるわけにいかないキャットニスは、壮絶なサバイバルを繰り広げることになる――。

画像3

このあらすじを聞いて、「バトル・ロワイアル」を連想するなと言うほうが無理だろう。ただ、ゲームの設定自体は酷似しているけれど、ストーリーにおける役割はちょっと違う。“ハンガー・ゲーム”で頭角を現したキャットニスは虐げられた市民に希望を与え、レジスタンス活動のきっかけを与えるのだ。原作は三部作で、独裁国家が転覆するまでが描かれている。

さて、肝心の映画版だが、共同脚本と監督が「シービスケット」のゲイリー・ロスなので、ショッキングなバイオレンス描写に頼らず、暗示でサスペンスを盛り上げることに成功している(暴動場面は、親友のスティーブン・ソダーバーグが二班監督としてメガホンを握っている)。SF映画だから、固有のルールや名称があって、原作に馴染みのない観客はいろいろ学習しなければならないのだが、主人公の成長ストーリーに軸が置かれているため、すんなりと頭に入るようになっている。ゲーム部分がちょっと長すぎるように感じたけれど(全体で144分ある)、原作がベストセラー小説だから省略できなかったのかもしれない。

実は僕は、「ハンガー・ゲーム」がどうしてここまで10代の女の子に支持されるのか分からなかった。暴力的だし、SFだし、恋愛の要素はいちおうあるけれど、基本的にはサバイバルものである。

画像4

でも、映画版を見たらすぐに理解できた。ジェニファー・ローレンス演じる等身大の女の子が、絶望的な状況のなかでも、自らの信念を曲げずにタフに生き抜いていくというストーリーは、若い観客層に勇気を与えるものだ。また、この物語で描かれる格差社会は、極端ではあるけれど、現代社会のメタファーと捉えることもできる。僕も多感な時期に出合っていたら、はまっていたかもしれないと思う。アメリカで「トワイライト」に匹敵する大ヒットシリーズになるのは確実で、果たして日本でどう受けとめられるのかとても興味がある。

筆者紹介

小西未来のコラム

小西未来(こにし・みらい)。1971年生まれ。ゴールデングローブ賞を運営するゴールデングローブ協会に所属する、米LA在住のフィルムメイカー/映画ジャーナリスト。「ガール・クレイジー」(ジェン・バンブリィ著)、「ウォールフラワー」(スティーブン・チョボウスキー著)、「ピクサー流マネジメント術 天才集団はいかにしてヒットを生み出してきたのか」(エド・キャットマル著)などの翻訳を担当。2015年に日本酒ドキュメンタリー「カンパイ!世界が恋する日本酒」を監督、16年7月に日本公開された。ブログ「STOLEN MOMENTS」では、最新のハリウッド映画やお気に入りの海外ドラマ、取材の裏話などを紹介。

Twitter:@miraikonishi

Amazonで今すぐ購入

映画ニュースアクセスランキング

本日

  1. 「相棒」舞台挨拶イベントに水谷豊&寺脇康文が登壇 杉下右京&亀山薫として丸の内TOEIに17年ぶり“再凱旋”

    1

    「相棒」舞台挨拶イベントに水谷豊&寺脇康文が登壇 杉下右京&亀山薫として丸の内TOEIに17年ぶり“再凱旋”

    2025年6月23日 18:00
  2. 「国宝」V3、新作「28年後...」が5位、「ルノワール」は6位にランクイン【映画.comアクセスランキング】

    2

    「国宝」V3、新作「28年後...」が5位、「ルノワール」は6位にランクイン【映画.comアクセスランキング】

    2025年6月23日 14:00
  3. 【入場特典リスト 6月最新版】「ガンダム ジークアクス」再上映は豪華冊子

    3

    【入場特典リスト 6月最新版】「ガンダム ジークアクス」再上映は豪華冊子

    2025年6月23日 16:00
  4. 舞台「チ。-地球の運動について-」メイン配役が発表 窪田正孝がオクジー役、森山未來がノヴァク役に

    4

    舞台「チ。-地球の運動について-」メイン配役が発表 窪田正孝がオクジー役、森山未來がノヴァク役に

    2025年6月23日 20:00
  5. 山内惠介&椎名林檎が高校の先輩後輩コラボ 「ゲゲゲの鬼太郎 私の愛した歴代ゲゲゲ」新EDテーマ担当

    5

    山内惠介&椎名林檎が高校の先輩後輩コラボ 「ゲゲゲの鬼太郎 私の愛した歴代ゲゲゲ」新EDテーマ担当

    2025年6月23日 13:30

今週