コラム:FROM HOLLYWOOD CAFE - 第156回
2011年10月24日更新
第156回:IMAXカメラで描く地上160階の“ミッション”「M:i:IV」フッテージ上映
「ミッション:インポッシブル ゴースト・プロトコル」に対する僕の期待度はかなり高い。前作で監督を務めたJ・J・エイブラムスがプロデューサーとして企画開発に関わっているうえに、「Mr.インクレディブル」や「レミーのおいしいレストラン」のブラッド・バード監督の実写映画デビュー作である。大好きなクリエイター2人がタッグを組んでいるのだから、期待するなというのが無理な話だ。先週、本編の一部を見せてもらったのだが、これが圧巻の仕上がりだったのだ。
公開されたのは、トム・クルーズ演じるイーサン・ハントが仲間を引き連れて、ドバイで作戦を実行する場面だ。今回、イーサンはクレムリン爆破事件の容疑者となっているため、極秘スパイ組織IMFの協力を得られないまま、過酷なミッションに立ち向かわなくてはならない。世界一高い超高層ビル、ブルジュ・ハリーファを舞台にした作戦もそのひとつで、イーサンが160階建ての超高層ビルの外壁を這い上るスリリングな場面と、強烈な砂嵐のなかでの追跡場面が上映された。
驚くことに、今回上映された約20分間はすべてIMAXカメラで撮影されていた。
IMAXといえば、その巨大スクリーンと大音響で迫力の映画体験を提供する劇場として人気があるけれど、上映される映像のほとんどは通常の35ミリフィルムやデジタル映像を引き延ばしたものだ。IMAXカメラは、大きい・重い・騒々しいという欠点を抱えているため、鮮明で迫力のある映像を得られることがわかっていても、通常の映画撮影ではほとんど使われていない。唯一の例外がクリストファー・ノーラン監督で、「ダークナイト」と現在撮影中の続編「ダークナイト・ライジング」の一部でIMAXカメラを採用している。そして、ブラッド・バード監督も、ノーラン監督に続いてIMAXカメラの採用を決定したのだ。
IMAXには3D映像のような立体感はないものの、画面があまりにも大きいために、その世界に入ってしまったかのような錯覚を与えてくれる。ブルジュ・ハリーファでのシーンで、僕の足はすくみっぱなしだった。スタントマンなしで挑戦するトム・クルーズもすごいが、これだけの映像を収めることができたカメラクルーもすごい。これだけでも入場料を払う価値があると思う。
ストーリー的には、J・J・エイブラムスが盟友アレックス・カーツマンとロベルト・オーチーと作り上げた「M:i:III」が最高だと思っているけれど、あえてケチをつけるならば、前2作にあったスケール感が欠けていたように思う。J・Jの初映画作品ということもあって、構図やリズムがテレビドラマ的だった。
でも、今回はそんな心配は不要だ。IMAXカメラを積極的に使用しているうえに、ブラッド・バード監督が実写初挑戦とは思えないほど堂々とした演出を披露している。とくに、サスペンスのなかにユーモアを織りこむ塩梅が素晴らしく、ロッククライミングやカーチェイスなど、ありきたりの展開を描きながらも、サプライズに満ちた20分間を提供してくれた。
今、ブラッド・バード監督は仕上げの真っ最中で、近日中に取材できることになっている。インタビューが実現したら、この場でご報告しますね。
筆者紹介
小西未来(こにし・みらい)。1971年生まれ。ゴールデングローブ賞を運営するゴールデングローブ協会に所属する、米LA在住のフィルムメイカー/映画ジャーナリスト。「ガール・クレイジー」(ジェン・バンブリィ著)、「ウォールフラワー」(スティーブン・チョボウスキー著)、「ピクサー流マネジメント術 天才集団はいかにしてヒットを生み出してきたのか」(エド・キャットマル著)などの翻訳を担当。2015年に日本酒ドキュメンタリー「カンパイ!世界が恋する日本酒」を監督、16年7月に日本公開された。ブログ「STOLEN MOMENTS」では、最新のハリウッド映画やお気に入りの海外ドラマ、取材の裏話などを紹介。
Twitter:@miraikonishi