コラム:FROM HOLLYWOOD CAFE - 第133回
2011年1月25日更新
第133回:R・ジャーベイスの毒で凍り付いた今年のゴールデングローブ賞
授賞式からすでに一週間が経過したにも関わらず、ゴールデングローブ賞騒動の余波が続いている。
ゴールデングローブ賞といえば、昨年12月にノミネートが発表されたときには、「ツーリスト」や「バーレスク」を偏重する一方で、「トゥルー・グリット」を完全にスルーしたことで、同賞を選考するハリウッド外国人記者協会(HFPA)の鑑識眼を疑う声が噴出したものだった。しかし、1月16日に行われた授賞式では、「ソーシャル・ネットワーク」が作品賞を含む4冠に輝くなど順当な結果となり、アカデミー賞を占う重要な映画賞としての役割を無事果たしたことになる。
それでも、今年のゴールデングローブ賞授賞式が全米のマスコミを騒然とさせたのは、ひとえにリッキー・ジャーベイスのせいだ。「The Office」や「エキストラ」などで知られる英コメディアンの彼は、好評だった昨年に引き続きゴールデングローブ賞の司会を担当したものの、今年は何かが違っていた。冒頭から辛辣で過激なジョークを連発した彼は、プレゼンターとして壇上に登場するセレブリティにも容赦なく毒舌を浴びせていったのだ。
ゴールデングローブ賞といえば、伝統と格式のあるアカデミー賞と違って、その雰囲気はむしろディナーパーティーに近い。年に一度、セレブリティが一堂に会し、酒をくみ交わしながら互いの成果を讃え合うという、華やかで楽しい宴なのだ。しかし、ジャーベイスは、自らの毒で会場の雰囲気を凍りつかせてしまった。たった3時間のあいだに彼が侮辱したセレブリティは数え切れず、自分の雇用主であるはずのHFPAやその会長にまで噛みつく有り様だった。
当然、マスコミ各紙はジャーベイスの司会術をこき下ろしたが、有名人にまったく媚びない姿勢は、一部の視聴者からは絶賛されることになる。日頃からセレブリティに反感を抱いている人ほど、彼を高く評価しているようだ。
ぼく自身はというと、今回のパフォーマンスにはあまり感心しなかった。これまでジャーベイスが愛されてきたのは、他人をこきおろしつつも、たまに自分を卑下してみせる器用さがあったからだと思う。悪口の裏には憧れや嫉妬が隠れていることをちらりと披露することで、上手にバランスを取っていたわけだ。でも、この晩のジャーベイスにはそんな態度はいっさい見られなかった。その結果、生放送でマイクを握った彼が、セレブリティを一方的にいじめているように映ってしまったのだ。
この結果はジャーベイスにとっても不本意だろうから、ぜひとも来年のゴールデングローブ賞で再度挑戦して欲しいと思う。再び司会に起用される可能性は限りなくゼロに近いだろうけれど。
筆者紹介
小西未来(こにし・みらい)。1971年生まれ。ゴールデングローブ賞を運営するゴールデングローブ協会に所属する、米LA在住のフィルムメイカー/映画ジャーナリスト。「ガール・クレイジー」(ジェン・バンブリィ著)、「ウォールフラワー」(スティーブン・チョボウスキー著)、「ピクサー流マネジメント術 天才集団はいかにしてヒットを生み出してきたのか」(エド・キャットマル著)などの翻訳を担当。2015年に日本酒ドキュメンタリー「カンパイ!世界が恋する日本酒」を監督、16年7月に日本公開された。ブログ「STOLEN MOMENTS」では、最新のハリウッド映画やお気に入りの海外ドラマ、取材の裏話などを紹介。
Twitter:@miraikonishi