コラム:FROM HOLLYWOOD CAFE - 第119回
2009年11月17日更新
第119回:批評家絶賛の低予算ホラー「パラノーマル・アクティビティ」
「パラノーマル・アクティビティ」というホラー映画の名前を初めて聞いたのは、限定公開がスタートした9月下旬のことだった。全編家庭用のビデオカメラで撮影された超低予算映画で、ロケーションは監督の自宅のみ、出演俳優は無名で、製作費はわずか1万1000ドル(約100万円)だという。08年のスラムダンス映画祭で公開された際に、ドリームワークスが獲得。もともとはリメイク目的で買い付けたものの、同社のスピルバーグ監督が気に入ったため、そのまま劇場公開されることになった(スピルバーグ監督の提案に基づいて、エンディングに変更が加えられた。追加撮影に4000ドルかかっている)。
同作を手がけたのは、ゲームプログラマーのオーレン・ペリという男だ。自宅で原因不明の音に悩まされたことがきっかけで、ストーリーを思いついた彼は、ポケットマネーでホームムービーを製作。それが、アメリカ全土で公開されることになったのだから、たいしたサクセスストーリーである。
しかし、ぼくはとくに興味を惹かれなかった。ホラーは苦手だし、「ブレア・ウィッチ・プロジェクト」で騙された苦い経験もある。そもそも、ホラー映画に「超常現象」なんて直球のタイトルをつけるなんて、センスがなさすぎる。
しかし、10月下旬の拡大公開と同時に、「パラノーマル・アクティビティ」が全米ナンバーワンを獲得してしまうと、ついに重い腰を上げなくてはならなくなった。驚くべきは、映画に対する評価の高さだ。こうしたジャンルの映画の場合、ボックスオフィス成績と批評家の評価は必ずしも比例しないものだが、辛口の批評家までもが絶賛しているのである。
ストーリーは至ってシンプルだ。サンディエゴにある一軒家で暮らす若いカップルは、奇妙な音に悩まされていた。そこで、ビデオカメラを設置し、原因を究明するアイデアを思いつく。「パラノーマル・アクティビティ」は、彼らが原因究明のために撮影したフッテージという設定となっており、「ブレア・ウィッチ・プロジェクト」や「クローバーフィールド/HAKAISHA」と同じである。
「呪われた家」という古典的な設定を、疑似ドキュメンタリー方式で描いたことにこの映画のうまさがある。有名俳優は出ていないし、豪華なセットも、派手なVFXもない。そのかわり、恐ろしいほどのリアリティがあるのだ。
また、ミニマルな演出もいい。サプライズを連発するのではなく、ネタを小出しにすることで、なにかが起きそうな緊張感を持続させることに成功している。観客の想像力に委ねる演出を得意とするスピルバーグ監督が気に入るのも納得だ。
「パラノーマル・アクティビティ」は、すでに全米で1億ドルを超える収益を生み出している。アイデア次第でヒットを生み出すことができることを証明した形だ。
筆者紹介
小西未来(こにし・みらい)。1971年生まれ。ゴールデングローブ賞を運営するゴールデングローブ協会に所属する、米LA在住のフィルムメイカー/映画ジャーナリスト。「ガール・クレイジー」(ジェン・バンブリィ著)、「ウォールフラワー」(スティーブン・チョボウスキー著)、「ピクサー流マネジメント術 天才集団はいかにしてヒットを生み出してきたのか」(エド・キャットマル著)などの翻訳を担当。2015年に日本酒ドキュメンタリー「カンパイ!世界が恋する日本酒」を監督、16年7月に日本公開された。ブログ「STOLEN MOMENTS」では、最新のハリウッド映画やお気に入りの海外ドラマ、取材の裏話などを紹介。
Twitter:@miraikonishi