コラム:FROM HOLLYWOOD CAFE - 第108回
2008年12月2日更新
第108回:オバマ次期大統領はハリウッドに楽観主義をもたらすか?
ここ最近のハリウッドは暗いニュースばかりだ。金融危機の影響で各スタジオはコストの削減に躍起になっているし、今秋シーズン2に突入したドラマは視聴率ダウンが原因で軒並み放送終了に追い込まれている(大好きな「Pushing Daisies」もついにキャンセルされてしまいそうだ)。おまけにスタジオ側との契約更改交渉が完全に決裂した米俳優組合(SAG)は、年内にもストライキ決議投票をしようとしている。もし、12万人いるSAG会員の75%が賛成票を投じれば、昨年の米脚本家組合(WGA)に続いて、ハリウッドは2度目のストライキ突入となる。そうなれば、来年1月のゴールデングローブ賞がまたもや中止に追い込まれるし、カリフォルニア経済に与える損害も甚大になる。
唯一の明るい話題といえば、やはりバラック・オバマ大統領の誕生だろう。黒人大統領の実現なんて、「24」や「ディープ・インパクト」のようなハリウッド製フィクションのなかだけの出来事だと思われていたから、アメリカ国民の多くが驚きを持って歓迎している。
気になるハリウッドへの影響だが、新政権には早急に対処すべき重要課題を大量に抱えているので、テレビのわいせつ描写の取り締まりにご執心の連邦通信委員会(FCC)の会長をクビにするくらいで、直接的な関与はないだろうと見られている。ただし、オバマ政権で首席補佐官を務めるラーム・エマニュエル氏は、ハリウッドの辣腕エージェント、アリ・エマニュエル(「アントラージュ★おれたちのハリウッド」に登場するスーパーエージェントのモデル)の兄なので、ひょっとするとハリウッド改革の秘策を用意しているかもしれない。
むしろ、ハリウッドが気にしなくてはならないのは、オバマ新大統領がもたらす社会的変化のほうだ。たとえば、今夏、ダークで内省的な「ダークナイト」が全米で5億ドルを超える爆発的ヒットとなったのは、アメリカを覆うブッシュ政権下の閉塞感を見事に汲み取ったからだ、との声がある。この分析が正しいならば、オバマ新政権になり、アメリカ全土に楽観的なムードが漂うことになれば、彼らが求める映画もポジティブなものに変わることになる。来年夏公開予定の超大作「スター・トレック」を準備中のJ・J・エイブラムス監督は、エンターテインメント・ウィークリー誌のインタビューで、「楽観主義をもう一度クールにすることがぼくの使命だ」と、あえて希望に満ちた明るい作品を目指したことを明かしている。「スター・トレック」が大ヒットするかどうかで、今後のハリウッド映画の方向性が決まりそうだ。
筆者紹介
小西未来(こにし・みらい)。1971年生まれ。ゴールデングローブ賞を運営するゴールデングローブ協会に所属する、米LA在住のフィルムメイカー/映画ジャーナリスト。「ガール・クレイジー」(ジェン・バンブリィ著)、「ウォールフラワー」(スティーブン・チョボウスキー著)、「ピクサー流マネジメント術 天才集団はいかにしてヒットを生み出してきたのか」(エド・キャットマル著)などの翻訳を担当。2015年に日本酒ドキュメンタリー「カンパイ!世界が恋する日本酒」を監督、16年7月に日本公開された。ブログ「STOLEN MOMENTS」では、最新のハリウッド映画やお気に入りの海外ドラマ、取材の裏話などを紹介。
Twitter:@miraikonishi