コラム:細野真宏の試写室日記 - 第72回
2020年5月14日更新
映画はコケた、大ヒット、など、経済的な視点からも面白いコンテンツが少なくない。そこで「映画の経済的な意味を考えるコラム」を書く。それがこの日記の核です。
また、クリエイター目線で「さすがだな~」と感心する映画も、毎日見ていれば1~2週間に1本くらいは見つかる。本音で薦めたい作品があれば随時紹介します。
更新がないときは、別分野の仕事で忙しいときなのか、あるいは……?(笑)
第72回 試写室日記 「ジョーカー」と「ダークナイト」。勝ったのはどっち?/【番外編】2019年作品でリアルに儲かった、あのメガヒット映画のお金事情 :第6回
日本の映画では、「個別の作品の利益など、具体的な数字は出さない」という風土が続いています。
その一方で、世界で展開をするハリウッド映画では、制作費などを詳細に公表するのが一般化しています。
昨年2019年作品は、大まかに世界で公開され、まさに今、配信などが行なわれているわけですが、話題作は最終的にどのくらいの利益が出たのでしょうか?
ハリウッドのDeadlineにて、それらのデータが出たので、それを基に今後の動向も合わせて紹介していきます!
そもそも「映画の儲けとは何なのか?」を簡単に解説すると、まず、大きなものに劇場公開で得られる「興行収入」があります。
そして、その後にネットで配信したり、DVD化などをしたり、テレビでの放送権も売ることで「2次使用料」が得られます。
その一方で、映画には制作費がありますし、宣伝やプリント代の「P&A費」もかかりますし、特にハリウッド映画の場合は、ヒットしたらボーナス的に監督や大物キャストに追加で支払われるギャラなどもあったりするので、それらの「プラス」と「マイナス」の結果が、最終的な映画会社の「儲け」となるわけです。
【なお、金額の規模感を分かりやすく示すため、キリの良い「1ドル=100円」として換算します】
≫第1回(第21位~第25位)はこちら
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●第4位
「ベスト4位」にランクインした作品は、なんとワーナー配給の「ジョーカー」でした!
日本では、DCコミックス作品の映画は苦戦することが多いので、出来はアカデミー賞級で非常に良かったにもかかわらず、それほど期待されていない雰囲気はありました。
ところが、本作「ジョーカー」では、アメコミ映画層と、アカデミー賞級の良質な作品を好む層が映画館に押し寄せました。
これは、2008年の「ダークナイト」が日本で徐々に評価され“ジョーカー”人気が高まったことと、マーベル作品の「アベンジャーズ」シリーズのメガヒットによりアメコミ映画への偏見が減ってきたことに関連していると思います。
また、本作「ジョーカー」はアメコミをベースにしているのに、公開前にベネチア国際映画祭で「金獅子賞」(最高賞)を受賞した“アメコミ作品初の快挙”というギャップも含めた前評判の高さも関連していると思われます。
日本で興味深かったのは、本作では、アメコミがベースであるにもかかわらず女性層を多く動員できていた点です。
圧巻の存在感と演技を見せたホアキン・フェニックスと(「ハングオーバー!」シリーズなどコメディ映画を得意とする)トッド・フィリップス監督との化学反応が見事に炸裂した本作。
「妄想」と「現実」が入り混じる仕掛けをしたり、主人公の人物描写を丹念に描いた深遠なヒューマンドラマは、現代でも起こり得る物語だと多くの人たちを魅了したようです。
その結果、「R15+指定」でありながら、日本での興行収入は50億円を突破する大ヒットを記録しました!
しかも、アカデミー賞では、主演男優賞は当然のことながら、作品賞、監督賞、脚色賞など「最多11部門ノミネート作品」にまでなったのです!
ちなみに、本作「ジョーカー」の制作費は 7000万ドル(70億円規模)となっていて、この規模の作品が制作費2億ドル(200億円規模)クラスの作品と張り合っていること自体が快挙なのです。
「ジョーカー」と「ダークナイト」は、一体どっちが勝ったのか?
この「ジョーカー」という作品を語る上で、やはりクリストファー・ノーラン監督を一気にメジャーにした傑作「ダークナイト」との勝負の行方は気になります。
「ダークナイト」で、道化師の如くポーカーフェイスでありながらも鬼気迫る悪役ジョーカーを演じ切って公開前に亡くなってしまったヒース・レジャーは、アカデミー賞で助演男優賞を受賞しています。
そして、「ジョーカー」では、ホアキン・フェニックスが“ジョーカー”になるまでの「共感」を求める人間らしい演技によってアカデミー賞で主演男優賞を受賞しています。
もはや、この2作品は“対の作品”として語り継がれていくのでしょう。
まず、「ダークナイト」の制作費は1億8500万ドル(185億円規模)と、「キャプテン・マーベル」よりも少し高くなっています。
そして、「ダークナイト」の世界興行収入は10億0304万ドル(1003億円規模)と、2019年の“第5位”の「キャプテン・マーベル」よりも低くなっているのです。
つまり、この時点で「ジョーカー」に負けていることが分かります。
では、「ジョーカー」はどのくらいの成績だったのでしょうか?
まず、制作費は7000万ドル(70億円規模)と、「ダークナイト」(185億円規模)とは比較にならないくらい安く済んでいます。
その一方で、世界興行収入は10億7425万ドル(1074億円規模)と、こちらでも「ダークナイト」(1003億円規模)に勝っているのです!
このように新旧の“ジョーカー対決”は、本作「ジョーカー」に軍配が上がっています。
ちなみに、「ダークナイト」の時より今の方が中国のマーケットの大きさが違いすぎるのでは、と考える人もいるでしょうが、「ジョーカー」は中国では公開されていないのです。
さて、これまでの「R指定映画」における世界興行収入歴代1位は「デッドプール2」の7億8500万ドル(785億円規模)でした。
ところが「ジョーカー」は、同じR指定(日本ではR15+指定)ながら、驚異の10億7425万ドル(1074億円規模)を記録してしまったので、当分、この記録は破られないような気がします。
そして、最終的な「ジョーカー」の利益は、4億3700万ドル(437億円規模)も稼ぎ出したのです。
これだけの利益が出た名作なので続編を多くの人たちが望んでいますが、あくまでトッド・フィリップス監督が「語るべきテーマ」を見つけ出し、それをホアキン・フェニックスが了承するかどうかで決まるようです。
この点もプロフェッショナルな姿勢が貫かれていて良いですね。
筆者紹介
細野真宏(ほその・まさひろ)。経済のニュースをわかりやすく解説した「経済のニュースがよくわかる本『日本経済編』」(小学館)が経済本で日本初のミリオンセラーとなり、ビジネス書のベストセラーランキングで「123週ベスト10入り」(日販調べ)を記録。
首相直轄の「社会保障国民会議」などの委員も務め、「『未納が増えると年金が破綻する』って誰が言った?」(扶桑社新書) はAmazon.co.jpの年間ベストセラーランキング新書部門1位を獲得。映画と興行収入の関係を解説した「『ONE PIECE』と『相棒』でわかる!細野真宏の世界一わかりやすい投資講座」(文春新書)など累計800万部突破。エンタメ業界に造詣も深く「年間300本以上の試写を見る」を10年以上続けている。
発売以来15年連続で完売を記録している『家計ノート2025』(小学館)がバージョンアップし遂に発売! 2025年版では「全世代の年金額を初公開し、老後資金問題」を徹底解説!
Twitter:@masahi_hosono