コラム:細野真宏の試写室日記 - 第46回
2019年11月5日更新
映画はコケた、大ヒット、など、経済的な視点からも面白いコンテンツが少なくない。そこで「映画の経済的な意味を考えるコラム」を書く。それがこの日記の核です。
また、クリエイター目線で「さすがだな~」と感心する映画も、毎日見ていれば1~2週間に1本くらいは見つかる。本音で薦めたい作品があれば随時紹介します。
更新がないときは、別分野の仕事で忙しいときなのか、あるいは……?(笑)
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第46回 「ITイット THE END “それ”が見えたら、終わり。」「閉鎖病棟 それぞれの朝」。11月2週目の動員ランキング1位はどうなる?
2019年10月16日@東映試写室、21日@ワーナー試写室
先週末の11月1日(金) の“ファーストデイ”に公開された注目作品は「マチネの終わりに」に加えて、「ITイット THE END “それ”が見えたら、終わり。」と「閉鎖病棟 それぞれの朝」もあったので、今回はまとめて考察してみます。
先週末の新作の公開規模の大きさは、「ITイット THE END “それ”が見えたら、終わり。」が352館、「マチネの終わりに」が323館、「閉鎖病棟 それぞれの朝」が278館となっていて、「ITイット THE END “それ”が見えたら、終わり。」の業界期待値の高さがわかります。
「ITイット THE END “それ”が見えたら、終わり。」の期待が高いのには理由があります。それは、2017年に公開された前作「ITイット “それ”が見えたら、終わり。」が、衝撃的なサプライズを生み出したからです!
当初は、「R15+」指定のホラー映画なので、それほど需要がないと業界では思っていて、公開館数も200館規模でした。ところが、公開後に口コミで広まっていき右肩上がりの興行になって「公開3週目で週末動員ランキング1位」を獲得したのです。そして、最終的には興行収入22億円という記録をたたき出しました!
その続編で、最終章となる「ITイット THE END “それ”が見えたら、終わり。」ですから、期待が高まるのは当然だと思われます。
まず、作品の出来などに関しては、私はジェームズ・マカヴォイとジェシカ・チャステインという2人のお気に入りの俳優が出てる時点で良かったですが(笑)、出来も前作と同様な感じだと思います。
ただ、今回の興行がどうなるのかは、前作が異例過ぎたので考察が難しくなっています。
前作では想定以上に高校生などの学生が反応してくれましたが、それは恐らく同世代くらいの登場人物だったからで、本作は27年後の大人になった彼らを描いているため、果たして同じ層が同様の反応をしてくれるのか、という心配があります。
でも実は、それぞれの登場人物に合った大人の俳優が選ばれていたり、前作の子供時代の映像もたびたび出てくるので、シンクロはしやすいと思います。
一方で、続編にはプラスとマイナスの両面があって、本作では前作を見ていることが前提となっているので、そのハードルが心配でもあります。
ただ、前作「ITイット “それ”が見えたら、終わり。」が今週の8日の金曜ロードSHOW!で放送されるので、その地上波での援護射撃の効果が期待できそうです。
あとは、169分という上映時間の長さに集中力を持続し続けられるのか、ということでしょうか。
この点は、最終章のため内容が充実しているからであって、アクション的なシーンに加えて、考察をし出すと止まらないくらい「謎」が多くあり、ホラー映画としての「謎解き」の楽しみがあるので集中力は持続しやすいと思われます。その「謎解き」に関してはホラー映画に強い映画.comの特集記事に任せたいと思います。
次に「閉鎖病棟 それぞれの朝」ですが、こちらも意外と良作でした。
実話に基づく原作をベースにしているので、リアリティーがあります。
この作品の、今だからこその見方を提案するなら、「日本版の“ジョーカー”になれなかった男の話」という視点で見ると、いろんな考察が深まるのではと思っています。
「ジョーカー」が「R指定作品の累計興行収入記録を塗り替え歴代1位」になるほど世界的に大ヒットしているのは、「今の世界」に通じるものがあるからだと思います。
そこで、「誰もがジョーカーになってしまうリスクがある」という声をよく聞きますが、実は「そう簡単に“ジョーカー”にはなれない」という現実を、この「閉鎖病棟 それぞれの朝」が教えてくれます。
ちなみに「閉鎖病棟」というのは、一般的には管理の厳しい精神科病棟のことを指します。
また、世界の精神医療は「脱・施設化」を進めていて、日本での現状も本作では見せてくれています。
個人的には、予告編でも使われている綾野剛が扮するチュウさんの「事情を抱えていない人間なんていないからね」というセリフは、どんな立場の人にも当てはまる本質的な言葉で、使われるシーンも含めて好きですね。本作の役作りで減量して臨んだ笑福亭鶴瓶や、小松菜奈の演技も非常に良かったと思います。
本作「閉鎖病棟 それぞれの朝」は医療系のヒューマンドラマですが、なぜか医療系の映画はそんなにヒットしない、という傾向があります。
唯一の成功例と言えるのが、第7回で紹介した「劇場版コード・ブルー ドクターヘリ緊急救命」でしょうか。
「コード・ブルー」は、連ドラの展開やキャストの年齢層、作品のクオリティーも大きな成功を生み出す要因になったわけですが、なかなか第2の「コード・ブルー」が出ない現実もあります。
日本では、これから高齢化社会のもと、もっと医療系の関心が高くなっていくはずなのですが、「ドクターX 外科医・大門未知子」のような大ヒットの「ドラマ」にとどまっています。
本作「閉鎖病棟 それぞれの朝」は、「コード・ブルー」や「ドクターX 外科医・大門未知子」のようなダイナミックな医療シーンのある作品ではありませんが、「社会」を理解し考えるために大切な映画だと思っています。
さて、先週末は、「ITイット THE END “それ”が見えたら、終わり。」が期待通りの強さを見せ、まだまだ好調だった「ジョーカー」を遂に抜き、4日間の興行収入は早くも5億円を突破しました。一方の「ジョーカー」も好調を維持でき興行収入40億円の突破は確実で、最終的には興行収入50億円にも届きそうな勢いです。
今週末11月2週目の注目作は、やはり「ターミネーター ニュー・フェイト」で、「ITイット THE END “それ”が見えたら、終わり。」との対決の行方が焦点でしょうか。
「ターミネーター ニュー・フェイト」に関しては、第47回で改めて紹介します。
また、「ITイット THE END “それ”が見えたら、終わり。」は、アメリカでは前作から落ち込みましたが、日本ではこのまま好調を続け、前作の興行収入22億円にどこまで迫れるのかにも注目です!
筆者紹介
細野真宏(ほその・まさひろ)。経済のニュースをわかりやすく解説した「経済のニュースがよくわかる本『日本経済編』」(小学館)が経済本で日本初のミリオンセラーとなり、ビジネス書のベストセラーランキングで「123週ベスト10入り」(日販調べ)を記録。
首相直轄の「社会保障国民会議」などの委員も務め、「『未納が増えると年金が破綻する』って誰が言った?」(扶桑社新書) はAmazon.co.jpの年間ベストセラーランキング新書部門1位を獲得。映画と興行収入の関係を解説した「『ONE PIECE』と『相棒』でわかる!細野真宏の世界一わかりやすい投資講座」(文春新書)など累計800万部突破。エンタメ業界に造詣も深く「年間300本以上の試写を見る」を10年以上続けている。
発売以来15年連続で完売を記録している『家計ノート2025』(小学館)がバージョンアップし遂に発売! 2025年版では「全世代の年金額を初公開し、老後資金問題」を徹底解説!
Twitter:@masahi_hosono