コラム:細野真宏の試写室日記 - 第44回
2020年6月12日更新
映画はコケた、大ヒット、など、経済的な視点からも面白いコンテンツが少なくない。そこで「映画の経済的な意味を考えるコラム」を書く。それがこの日記の核です。
また、クリエイター目線で「さすがだな~」と感心する映画も、毎日見ていれば1~2週間に1本くらいは見つかる。本音で薦めたい作品があれば随時紹介します。
更新がないときは、別分野の仕事で忙しいときなのか、あるいは……?(笑)
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第44回「ジェミニマン」。果たして映画は、どこまで進化をし続けるのか?
2019年10月4日@TOHOシネマズ 六本木ヒルズ
配給元:東和ピクチャーズ
洋画の実写が「ジョーカー」で復活してきています。本来であれば、当初から興行収入は20億円程度は十分に狙えた快作でしたが、これまで日本ではなかなか実現しなかった「アメコミ」ファン層と、「アカデミー賞」狙いのような本格的な映画ファン層の両方から支持される状況が生まれました! そして、主人公のアーサー(ジョーカー)は妄想癖があるので、トリック的な映像もあって、2回目でようやく全容が分かるようになっていることもあり、作品のクオリティーからリピーターも多く出てきていると思います。さらに「週末動員ランキング3週連続1位」という結果から一般層にも広がっていて、もしも今週末公開の作品に勝てれば、4週連続1位となって興行収入40億円も十分に射程圏内に入りそうな快挙になりそうです!
さて、その「ジョーカー」の最大の敵になりそうなのは、今週末の10月25日(金)から公開されるウィル・スミス主演の「ジェミニマン」でしょうか。
この「ジェミニマン」は、アメリカでは公開2週目の「ジョーカー」との戦いに敗れてしまいましたが、日本ではどうなるのか注目したいと思います。
まず、日本での強みは、ウィル・スミスの人気の高さでしょう。
個人的に面白いのは、ウィル・スミスは、ここ数年はあまり脚光を浴びるような活躍をしていなかったのですが、ディズニー作品の「アラジン」でジーニーに抜擢され、来日もして、日本の興行収入が100億円を突破したりと、いまだに日本での人気は侮れないと思っています。
そんなウィル・スミスが「アラジン」に続いて、本作「ジェミニマン」でもまた来日を果たしたので、日本の興行収入がどうなるのか注目されるわけです。
「ジェミニマン」という超大作映画で注目したいのは、とにかく「映像がスゴイ!」ということがあります。
これまでの映画史で「映像革命」を起こした作品にジェームズ・キャメロン監督の2009年の「アバター」などがありますが、本作「ジェミニマン」は、「3D」ではその衝撃を超えています!
本作はアン・リー監督作品ですが、アン・リー監督と言えば、2005年の「ブロークバック・マウンテン」と2012年の「ライフ・オブ・パイ トラと漂流した227日」でアカデミー賞の監督賞を2度も受賞しています。
特に後者の「ライフ・オブ・パイ トラと漂流した227日」では、なかなか斬新な映像を作り上げていましたが、まさかアン・リー監督が今後のスタンダードになり得るような新しい映像技術を生み出すとまでは思っていませんでした。
まず、本作で「3D+ イン ハイ・フレーム・レート」という技術を作り出したわけですが、通常の映像は「1秒間に24コマ」というのが、実写でもアニメでも「常識」となっています。
ところが、その常識を覆し「1秒間に60コマ」という、文字通り「250%も映像の情報量を増加させた」のです!
つまり「3D+」というのは、従来の「3D」と比べると「250%も映像が増えている」ので、「アバター」以降の「3D」とは比較にならないほどの「奥行」に加えて、「本物のような立体感」や「人間の目で見える世界と極めて近い明るさ」など自然な臨場感が実現できているのです。
しかも、これまでの「3D」というと、ちょっと目が慣れない面がありましたが、「3D+」の場合は、かなり普通の感覚に近いところまで技術を進化させていて、これまでの「3Dメガネ」とは違ってメガネをかけていることをそれほど気にしなくて済むようにもなっています。
近年では、「IMAX」や「ドルビーシネマ」や「4D」など、どんどん映画館が進化していますが、さらに本作で「撮影をする際の映像面で全く新しい技術革新」が生まれたわけです!
思えば、1997年の「タイタニック」の際に、終盤でタイタニックから人がどんどん落ちていく映像を見た時に、「うわ~、このスタントマンの人たちは痛そうだな…」と思っていたら、ジェームズ・キャメロン監督が「あれはすべてCGで、将来的には映画は俳優がいなくても作れる」といった言葉が象徴的でしたが、まさに20年後の現在では「ライオンキング」などでも、それが実現つつあるわけですね。
本作「ジェミニマン」では、ウィル・スミスが現在の50代のそのままの姿で登場するのは当然のこととして、20代のウィル・スミスもメインで出てきて、2人が壮絶に戦います。
しかも、これまでのハリウッド映画では、「20代のウィル・スミス」は当然のごとく本人が演じてCGによる単純な「若返りの技術」で作られていたはずですが、本作では「20代のウィル・スミス」はウィル・スミスが自身の過去の映像を参考に演じてはいるものの、それらのデータを基に過去の映像を参考に新規に100%「“本人不要”でも成立するような究極の技術革新」によって作られた映像なのです!
私の本作の一番大きな感想は、「今後の映画業界が物凄い勢いで変化しそうな、何かとんでもないものを見てしまった」というものでしたが、是非とも劇場で「3D+ イン ハイ・フレーム・レート」という最新技術を体感してみてほしいです。
ちなみに、Rotten Tomatoesでは、批評家の評価は25%で、一般層の評価は84%と、批評家と一般層の評価は真っ二つに割れています。(10月23日時点)
確かに内容は、映像の技術革新ほどの衝撃はないですが、「史上最強のスナイパー」VS「23歳の自分自身」と斬新で、内容も面白い部類の作品だと思います。
恐らく、この「ジェミニマン」以降にハリウッド映画を中心とした映画は変わっていくと思われるくらいの作品なので、まずは劇場でその可能性を確かめてみてほしいです。
興行収入は、まずは10億円は行ってほしいと思っていますが、果たして日本のマーケットではどういう評価になるのか注目です!
筆者紹介
細野真宏(ほその・まさひろ)。経済のニュースをわかりやすく解説した「経済のニュースがよくわかる本『日本経済編』」(小学館)が経済本で日本初のミリオンセラーとなり、ビジネス書のベストセラーランキングで「123週ベスト10入り」(日販調べ)を記録。
首相直轄の「社会保障国民会議」などの委員も務め、「『未納が増えると年金が破綻する』って誰が言った?」(扶桑社新書) はAmazon.co.jpの年間ベストセラーランキング新書部門1位を獲得。映画と興行収入の関係を解説した「『ONE PIECE』と『相棒』でわかる!細野真宏の世界一わかりやすい投資講座」(文春新書)など累計800万部突破。エンタメ業界に造詣も深く「年間300本以上の試写を見る」を10年以上続けている。
発売以来15年連続で完売を記録している『家計ノート2025』(小学館)がバージョンアップし遂に発売! 2025年版では「全世代の年金額を初公開し、老後資金問題」を徹底解説!
Twitter:@masahi_hosono