コラム:細野真宏の試写室日記 - 第33回
2019年7月24日更新
映画はコケた、大ヒット、など、経済的な視点からも面白いコンテンツが少なくない。そこで「映画の経済的な意味を考えるコラム」を書く。それがこの日記の核です。
また、クリエイター目線で「さすがだな~」と感心する映画も、毎日見ていれば1~2週間に1本くらいは見つかる。本音で薦めたい作品があれば随時紹介します。
更新がないときは、別分野の仕事で忙しいときなのか、あるいは……?(笑)
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第33回 「ペット2」。イルミネーション映画の日本での浸透具合が試されそうな作品
2019年6月13日(字幕版)@TOHOシネマズ日比谷、7月16日(吹替版)@東宝東和試写室
「アベンジャーズ エンドゲーム」は日本でも好調だったのに、日本では4月26日公開のわずか2か月後には劇場公開が終わってしまったりと、このところの映画のサイクルの速さに少しヒヤヒヤしていましたが、何とか世界では当初の目標の歴代2位だった「タイタニック」を抜いただけでなく、遂に歴代1位だった「アバター」も抜き、「令和元年に世界興行収入の歴代1位の作品が生まれる」という象徴的な年になりました!
そして同じく「10連休の注目作」だった「名探偵コナン 紺青の拳」ですが、こちらは4月12日公開であるにも関わらず、もはやイベント化し8月23日からは単価の高い「4Dアトラクション出国上映」が行なわれることになり、過去最高だった前作の91.8億円を超えそうです。「名探偵コナン」という作品については、かなり広いコア層が確認できたので、来年以降は出来の良い脚本に恵まれたら、おそらく「100億円コンテンツ」という驚異的な作品になりそうです。
さて、そんな好調が続く映画業界ですが、前回に書いた「トイ・ストーリー4」は、公開からわずか11日で興行収入が40億円を突破しました! 何とか興行収入80億円突破は行けそうで嬉しい限りですが、夏休み期間に入ったので上手くいけば前作同様に100億円突破もあり得るかもしれません。ただ、不安要素は、それこそ毎週のように注目作が目白押しということで、今週の金曜日(7月26日)から公開される「ペット2」もその一つです。
まず、「ペット2」の出来ですが、私はとても面白かったですし、出来は良いと思います。
日本において、ハリウッドのアニメーション映画ではディズニー・ピクサーが圧倒的ですが、「ミニオンズ」「怪盗グルー」「SING シング」シリーズを手がけるイルミネーション・エンターテインメントも着実に浸透してきています。
イルミネーションの強さは、「先鋭化した作品」のシリーズ化にあると私は思っていて、「ミニオンズ」「怪盗グルー」「SING シング」あたりは、もうよほど脚本がおかしくない限り外さない気がしますし、本作の「ペット」シリーズも1作目は日本でも興行収入が42.38億円にも達しました。
ただ、気掛かりなのは、先行で公開されているアメリカでの成績がなぜか、思うほど振るっていないことです。
私は、正直なところ、前作の「ペット」はそこまで面白いとは感じませんでしたし、どんな作品だったのかすら忘れかけています…。でも、「ペット2」については、素直に面白かったです!
なので、「前作の呪い」のようなものなのかもしれませんね。
つまり、「ペット」がシリーズ化すべき先鋭だったのかは本作「ペット2」を見れば「正解」だと分かるのですが、果たして前作を見た人たちがどこまで見てくれるのか、が大きな分かれ目になりそうなのです。
ちなみに、Rotten Tomatoesでは、前作の「ペット」は、批評家の評価は73%で、一般層の評価は62%となっています。
そして、本作「ペット2」については、批評家の評価は59%で、一般層の評価は90%となっています。(すべて7月24日時点)
普段は、批評家の点数と、私の感覚はだいたい一致していますが、「ペット」シリーズに関しては、一般層に近いようです。
この一般層の評価のように「ペット2」は、実際に見てみれば出来が良く気軽に楽しめる作品であることが分かると思います。
「ペット2」を見て改めて思ったのが、この「ペット」シリーズというのは、「飼い主がいない間、ペットは何をしている?」というコンセプトからしてイルミネーション版の「トイ・ストーリー」シリーズなんだな、ということでした。
そして、「トイ・ストーリ」は“深さ”も追及している一方で、イルミネーションは、ひたすら“エンターテインメント”に徹しているのも両社の棲み分けができていて面白い点だと思います。
そろそろ、こういう「どの層も気楽に楽しめるエンターテインメント作品」が必要なタイミングだと思われるので、映画業界のカンフル剤になるかどうか注目ですね。
ちなみに、本作は多くの人が「トイ・ストーリー4」と同様に、クオリティーの高い「吹替版」で見ると思われますが、「字幕版」の方はハリソン・フォードがなかなか味わい深い渋さを出していました。
さて、肝心の興行収入ですが、正直、ここまで毎週のように注目作が公開されると、複雑化して見えにくくなっていますが、まずは景気良く興行収入20億円は突破してほしいところです。
前作は40億円を突破していますが、そもそも一般的には20億円突破でも十分ヒットではあるので。
果たしてどこまで興行収入が伸びるのでしょうか? 大きなカギとなるのは、イルミネーションと提携しているフジテレビの援護射撃でしょう。公開日の7月26日(金)には、前作「ペット」が20時から本編ノーカットで地上波初放送されるのです。
今回の「ペット2」は、前作「ペット」を見ているとより楽しめるようなので、前作をほぼ忘れかけている私も、もう一度冷静に見てみようかと思っています。
さらに、試写の段階では見られていませんが、今回の「ペット2」では“日本だけの完全独占上映”の形で新作短編映画「ミニオンのキャンプで爆笑大バトル」の同時公開が決定しています! これも確実にプラスに作用するように思われます。
このところ、実写映画でも犬や猫などが登場する作品が急激に増えましたが、ペットというファミリーの存在は、人を惹きつける重要なアイテム化しているのかもしれませんね。
筆者紹介
細野真宏(ほその・まさひろ)。経済のニュースをわかりやすく解説した「経済のニュースがよくわかる本『日本経済編』」(小学館)が経済本で日本初のミリオンセラーとなり、ビジネス書のベストセラーランキングで「123週ベスト10入り」(日販調べ)を記録。
首相直轄の「社会保障国民会議」などの委員も務め、「『未納が増えると年金が破綻する』って誰が言った?」(扶桑社新書) はAmazon.co.jpの年間ベストセラーランキング新書部門1位を獲得。映画と興行収入の関係を解説した「『ONE PIECE』と『相棒』でわかる!細野真宏の世界一わかりやすい投資講座」(文春新書)など累計800万部突破。エンタメ業界に造詣も深く「年間300本以上の試写を見る」を10年以上続けている。
発売以来15年連続で完売を記録している『家計ノート2025』(小学館)がバージョンアップし遂に発売! 2025年版では「全世代の年金額を初公開し、老後資金問題」を徹底解説!
Twitter:@masahi_hosono