コラム:細野真宏の試写室日記 - 第289回

2025年9月5日更新

細野真宏の試写室日記

映画はコケた、大ヒット、など、経済的な視点からも面白いコンテンツが少なくない。そこで「映画の経済的な意味を考えるコラム」を書く。それがこの日記の核です。

また、クリエイター目線で「さすがだな~」と感心する映画も、毎日見ていれば1~2週間に1本くらいは見つかる。本音で薦めたい作品があれば随時紹介します。

更新がないときは、別分野の仕事で忙しいときなのか、あるいは……?(笑)


試写室日記 第289回 「ヒックとドラゴン」“アニメVS実写”勝つのはどっちか?

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今週末9月5日(金)から映画「ヒックとドラゴン」が公開されました。

この作品で注目されるのは、世界的に大ヒットしたアニメーション映画「ヒックとドラゴン(2010)」の実写映画という点です。

ただ、残念ながら日本でアニメーション映画「ヒックとドラゴン(2010)」と聞いて、すぐに反応できる人はそれほど多くはない、という現実もあります。

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そこで、まずはアニメーション映画「ヒックとドラゴン(2010)」について、知っておきたい映画業界の動きを簡単に解説します。

アニメーション映画「ヒックとドラゴン(2010)」は「ドリームワークス・アニメーション作品」。ですが、日本では「シュレック」シリーズ、「マダガスカル」シリーズ、「カンフー・パンダ」シリーズはヒットしたものの、他の作品は概して苦戦しています。

ただ、その「ドリームワークス・アニメーション」が、2016年に「NBCユニバーサル」に買収され、その影響によって変化が起こりつつあります。

例えば、「ミニオンズ」などで有名な「イルミネーション」も「NBCユニバーサル」関連のスタジオですが、「ドリームワークス・アニメーション」は「イルミネーション」のノウハウによって制作費を上手く抑えられるようになるなど着実に相乗効果が表れています。

アメリカの「ドリームワークス・アニメーション」本体の資本関係の変化によって配給会社が代わり続けています。もちろん、その影響は日本でも同様で、日本における「ドリームワークス・アニメーション作品」の配給会社も代わり続けていました。

まさに、その影響を大きく受けた作品に「ヒックとドラゴン」シリーズがあるのです。

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アニメーション映画の1作目「ヒックとドラゴン(2010)」は、日本では2010年8月7日から夏休み映画の期待作として公開されました。この時の配給元は、日米ともに「パラマウント・ピクチャーズ」でした。

そして興行収入は、やや伸び悩み9億円。

2作目の「ヒックとドラゴン2」は、アメリカでは配給元が「20世紀フォックス映画」で2014年に公開されました。

ただ、残念ながら日本では、一般的な劇場公開が実現しなかったのです。

3作目の「ヒックとドラゴン 聖地への冒険」は、アメリカでは配給元が「ユニバーサル・ピクチャーズ」で2019年に公開されました。

日本では、前作と同様に劇場公開がスルーされてもおかしくありませんでしたが、次のような動きが出て、奇跡的に大規模公開が行われたのです。

まず、「ギャガ」がアメリカの「ドリームワークス・アニメーション」と契約して、2019年以降の「ドリームワークス・アニメーション作品」の日本における配給権を得ました。

その一方で、2016年に「ドリームワークス・アニメーション」は「NBCユニバーサル」に買収されたので作品は「ユニバーサル映画」となるため、配給元は日本では「東宝東和」の担当となります。

その結果、2019年以降の「ドリームワークス・アニメーション作品」の日本での配給元は「東宝東和とギャガの共同配給」になったわけです。

このような枠組みの変更によって、「ヒックとドラゴン 聖地への冒険」が日本でも2019年に異例とも言える劇場公開となったのです!

とは言え、例えば私の場合は、未だに2作目を見ていないですし、1作目から9年も経っていたので1作目の内容も忘れているような状況で作品を見ることになっていたのです。

そして、多くの人も同じような状況だと仮定すると、「劇場公開という英断が功を奏するのか?」というと、現実は厳しそうな予感がありました。

結果は、興行収入2.63億円で終わっています。

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ここまでがアニメーション版について知っておきたい映画業界の動きですが、最も重要な点は以下なのかもしれません。

それは、1作目の「ヒックとドラゴン(2010)」は、とても面白い作品である、ということ。

思えば、2010年の夏休み時期に、地上波の生放送で注目の夏休み映画を3作品選んで解説する際に、「ヒックとドラゴン(2010)」を取り上げました。

それは、純粋に「面白い作品」だったからです。

日本の興行収入は9億円でしたが、「ヒックとドラゴン(2010)」の出来の良さを感じている人は世界的に少なくないと思います。

厳し目の評価で有名な「Rotten Tomatoes」を改めて見てみると、批評家は99%と驚異的な数字になっていました。一般の評価も91%と非常に高いのです。

まさに、このような世界的な評価が後押しをして、今回の実写版「ヒックとドラゴン」につながったのでしょう。

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今回の実写版は、15年前のアニメーション版の内容を全く覚えていなくても問題なく楽しめるのは大きなメリットと言えます。

実際に、実写版「ヒックとドラゴン」は、どのアニメーション版「ヒックとドラゴン」シリーズよりも世界興行収入が上回って大ヒットしているのです!

つまり、アニメーション版を知っている人は、より楽しめて、アニメーション版を知らない人でも予備知識ゼロの状態から「ヒックとドラゴン」を楽しむことができるようになっているため、新規参入も含めて世界興行収入でシリーズトップとなる大ヒットをしているのでしょう。

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さて、本作の興行収入ですが、さすがにアニメ版の3作目のようにはならないかと思いますが、今はライバル作品が強いので果たしてどのくらいの存在感を日本で示すことができるのかは未知数が大きいです。

そのため、同じく1作目のアニメーション版「ヒックとドラゴン(2010)」の9億円を超えられるのかどうかが最初の関門でしょうか。ただ、すでに続編も決まっている大作映画なので興行収入10億円は突破しておきたいところです。

ちなみに、本作はドリームワークス・アニメーション作品がベースになっていますが、あくまで実写映画なので配給元は「東宝東和」単独になっています。

ハリウッド映画は、たまに吹替が「う〜ん」と思う作品があったりしますが、本作では吹替が非常に良く出来ていたので、映像や展開に意外とスピード感があることを踏まえると、私は吹替を推します。

近年は“アニメVS実写”では、圧倒的にアニメが有利になっていますが、果たして本作の場合はどうなるのかに注目です。

筆者紹介

細野真宏のコラム

細野真宏(ほその・まさひろ)。経済のニュースをわかりやすく解説した「経済のニュースがよくわかる本『日本経済編』」(小学館)が経済本で日本初のミリオンセラーとなり、ビジネス書のベストセラーランキングで「123週ベスト10入り」(日販調べ)を記録。

首相直轄の「社会保障国民会議」などの委員も務め、「『未納が増えると年金が破綻する』って誰が言った?」(扶桑社新書) はAmazon.co.jpの年間ベストセラーランキング新書部門1位を獲得。映画と興行収入の関係を解説した「『ONE PIECE』と『相棒』でわかる!細野真宏の世界一わかりやすい投資講座」(文春新書)など累計800万部突破。エンタメ業界に造詣も深く「年間300本以上の試写を見る」を10年以上続けている。

発売以来15年連続で完売を記録している『家計ノート2025』(小学館)がバージョンアップし遂に発売! 2025年版では「全世代の年金額を初公開し、老後資金問題」を徹底解説!

Twitter:@masahi_hosono

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