コラム:細野真宏の試写室日記 - 第241回
2024年5月30日更新
映画はコケた、大ヒット、など、経済的な視点からも面白いコンテンツが少なくない。そこで「映画の経済的な意味を考えるコラム」を書く。それがこの日記の核です。
また、クリエイター目線で「さすがだな~」と感心する映画も、毎日見ていれば1~2週間に1本くらいは見つかる。本音で薦めたい作品があれば随時紹介します。
更新がないときは、別分野の仕事で忙しいときなのか、あるいは……?(笑)
試写室日記 第241回 「マッドマックス」は合わないと思っていたのに最新作「マッドマックス フュリオサ」が面白かった理由とは?
今週末2024年5月31日(金)から「マッドマックス フュリオサ」が劇場公開されます。
タイトルにある「フュリオサ」とは、前作「マッドマックス 怒りのデス・ロード」に登場するヒロインの女戦士(演:シャーリーズ・セロン)の名前で、本作は「フュリオサ」の若き日を描く前日譚となっています。
私自身は「マッドマックス」シリーズと言われても正直なところピンと来なくて、思い入れの無いシリーズでした。
「マッドマックス」 (1979年)、「マッドマックス2」(1981年)、「マッドマックス サンダードーム」(1985年)と40年を超える歴史があり、これまで見たことがあったのかもしれませんが、思い出せないくらいの認識でした。
そんな中、30年ぶりの2015年に「マッドマックス 怒りのデス・ロード」 が公開されましたが、「名のあるシリーズ作品なので、きっと何か深いモノがあるのだろう」と考え、試写を見ました。
ただ、結果は、「良さがよくわからない」といったものでした。
普通の映画であれば、これで話は終わりになるのですが、「マッドマックス 怒りのデス・ロード」に関しては明らかな違いがありました。
2015年に、映画関連の仕事をしていない一般の人と映画の話をする際に、「最近見て面白かった映画の話」になると、ほぼすべての人が「マッドマックス 怒りのデス・ロード」を挙げていたのです…!
そこで、私は素直に「え、あれのどこがどのように面白かったの?」と質問をすると、基本的に「頭を空っぽにして、ただただ映画の世界観に入り込むと、ハチャメチャな迫力のある世界に興奮しました」といった返答でした。
その段階では「ふ~ん、そうなんだ」と思っていただけでしたが、アクション主体の映画にもかかわらず「本来であれば縁遠いはずのアカデミー賞」にて、「作品賞」も含め10部門もノミネートされたのです!
そして、最終的には第88回アカデミー賞では「最多の6部門を受賞」しました。
ここまでの状況になると、単なる趣味嗜好の違いではなく、私の「マッドマックス 怒りのデス・ロード」の見方が間違っているように感じました。
ただ、普段は新しい映画が次々に登場し、別の分野の仕事も忙しく、結局「マッドマックス 怒りのデス・ロード」を試写以降に見直す機会を持てないまま最新作「マッドマックス フュリオサ」の試写を見る状況になってしまいました。
「また面白さがわからなかったら嫌だな~」と不安を感じながら見始めましたが、その際に前作の段階で多くの人が口にしていた「頭を空っぽにして、ただただ映画の世界観に入り込む」ということを心がけました。
まず、舞台は「核兵器による大量殺戮戦争勃発後、生活環境が汚染され、生存者達は物資と資源を武力で奪い合い、文明社会が壊滅した世界」となっています。
つまり、「世紀末」で、日本人としては「北斗の拳」の世界観でしょうか。
そこで、「北斗の拳の実写化を何も考えずに見る」といったスタンスで見始めました。
すると、全く退屈せずに148分を見終えることができたのです!
個人的には、前作「マッドマックス 怒りのデス・ロード」を見た際には、「何か不気味で気持ち悪いな」と感じたりしていましたが、そういう人こそ本作「マッドマックス フュリオサ」から見始めてみてください。
まさに「前日譚」という言葉通り、全ての必然性を的確に与えていて、これを踏まえてであれば、「マッドマックス 怒りのデス・ロード」の世界感にも上手くハマれると思います。
当初の私は、「名のあるシリーズ作品なので、きっと何か深いモノがあるのだろう」と考えていたのが間違いで、あくまで「頭を空っぽにして、ただただ映画の世界観に入り込む」というのが正解でした。
作品の見方で大幅に評価が変わった作品も珍しく、例えば、このような見方を通じて、作品の世界感を楽しんでほしいです。
さて、本作の興行収入ですが、前作「マッドマックス 怒りのデス・ロード」は興行収入18.1億円も稼いでいたことに改めて驚きました。
今や洋画不振の状況に陥っているため、興行収入10億円を突破すれば凄いのですが、特に本作の場合は、前作の見方を間違えたりするなど様々な「トラップ」があります。
そこで、本作が成功するためには、いかに今回解説したような「トラップ」に引っかからないようにするのかがポイントで、上手くそれらをクリアして前作並の興行収入を叩き出せるのか注目したいと思います!
筆者紹介
細野真宏(ほその・まさひろ)。経済のニュースをわかりやすく解説した「経済のニュースがよくわかる本『日本経済編』」(小学館)が経済本で日本初のミリオンセラーとなり、ビジネス書のベストセラーランキングで「123週ベスト10入り」(日販調べ)を記録。
首相直轄の「社会保障国民会議」などの委員も務め、「『未納が増えると年金が破綻する』って誰が言った?」(扶桑社新書) はAmazon.co.jpの年間ベストセラーランキング新書部門1位を獲得。映画と興行収入の関係を解説した「『ONE PIECE』と『相棒』でわかる!細野真宏の世界一わかりやすい投資講座」(文春新書)など累計800万部突破。エンタメ業界に造詣も深く「年間300本以上の試写を見る」を10年以上続けている。
発売以来15年連続で完売を記録している『家計ノート2025』(小学館)がバージョンアップし遂に発売! 2025年版では「全世代の年金額を初公開し、老後資金問題」を徹底解説!
Twitter:@masahi_hosono