コラム:細野真宏の試写室日記 - 第196回
2023年1月26日更新
映画はコケた、大ヒット、など、経済的な視点からも面白いコンテンツが少なくない。そこで「映画の経済的な意味を考えるコラム」を書く。それがこの日記の核です。
また、クリエイター目線で「さすがだな~」と感心する映画も、毎日見ていれば1~2週間に1本くらいは見つかる。本音で薦めたい作品があれば随時紹介します。
更新がないときは、別分野の仕事で忙しいときなのか、あるいは……?(笑)
試写室日記 第196回 「レジェンド&バタフライ」。総製作費20億円はいくら稼げば元が取れるのか?【後編】
いよいよ今週末の1月27日(金)から邦画実写では久しぶりの超大作映画である「レジェンド&バタフライ」が公開されます。
前回の【前編】では内容の面から考察したので、それを踏まえて、今回は製作費や興行収入という経済的な面を考えてみましょう。
最初に、「レジェンド&バタフライ」のポテンシャルから考えてみます。
木村拓哉主演の時代劇映画というくくりで考えると、2006年公開作品の「武士の一分」があります。
この作品は、山田洋次監督による「たそがれ清兵衛」(2002年)、「隠し剣 鬼の爪」(2004年)に続く“時代劇3部作”完結作にあたり、興行収入41.1億円という大ヒットを記録しています。
これは、前2作が12億円、9億700万円ということを考えると記録的な大ヒットであることが分かります。
実際に、この作品が当時の松竹の配給映画としては「歴代最高興行収入」を記録していたのです!
同作が象徴的ですが、木村拓哉主演作品は、基本的には「強い」という特徴があります。
一方、マイナスになり得るのは、タイトルでしょうか。「レジェンド&バタフライ」には、少々“分かりにくさ”があると思っています。つまり、今作が「織田信長と濃姫の物語」と連想しにくいということです。
そのため、「木村拓哉が織田信長を演じる作品」というのを、如何に印象付けられるのかが勝負と言えます。
ただ、このミッションは、昨年の11月6日(日)に岐阜県で行われた「岐阜市産業・農業祭 ぎふ信長まつり」というイベントにて、割と達成できたのではと思います。
まずはイベントに参加したい人の応募が殺到。それがニュースとなり大きな注目を集める中、木村拓哉がプレッシャーに打ち勝って映画さながらの堂々たる立ち振る舞いを見せました。その際の映像はインパクトが抜群で、かなり多くの媒体で使われることになるという、文字通り「伝説」(レジェンド)を生み出せたのです!
岐阜県出身の伊藤英明がこのイベントを実現させるために尽力し、映画さながらの「陰の立役者」として活躍していました。
このように考えると、映画自体のクオリティーは高いので、オリジナル映画としてのハンデがありますが、興行収入30億円は狙えるのではないでしょうか。
とは言え、「総製作費20億円」とされています。
この巨額な製作費は、どのくらいの興行収入を稼げば元が取れるのでしょうか?
そこで、採算ラインを試算してみようと思います。
なお、総製作費20億円というのは、映画を制作する際に必要となる「制作費」と、映画を宣伝したりする際に必要となる広告宣伝費「P&A費」をあわせたものです。
個人的な考えでは、本作は「総製作費20億円=制作費14億円、P&A費6億円」という関係になっていると想定しています。
まず、私たちが映画を見る際に映画館に支払う映画の入場料金は「興行収入」として、基本的には「映画館と製作者サイドで50%ずつ取得する」という形になります。
ただ、映画が大ヒットして、映画館の座席稼働率が高かった場合は、製作者サイドが受け取れる「歩率」という割合が高くなります。
具体的には、本作の場合は、映画館45%、製作者サイド55%くらいになると想定されます。
そこで、製作者サイドが受け取れる「歩率」を55%として計算してみます。
仮に本作の興行収入が「武士の一分」を超える45億円に到達したとしましょう。
すると、映画館は45億円の45%の20.25億円、製作者サイドは45億円の55%の24.75億円を受け取ることができます。
ただし、製作者サイドのお金からは、配給会社が仕事をした分の「配給手数料」(総額の20%)が引かれるという仕組みになっています。つまり、製作者サイドは、配給会社に支払う「配給手数料」の4.95億円を除いた19.8億円を受け取ることになります。
そのため、興行収入45億円を稼げれば、総製作費20億円の場合は、ほぼトントンとなります。
このように、総製作費20億円の作品の場合は、興行収入45億円が大まかな採算ラインと言えます。
とは言え、映画の収入というのは、映画館での上映による「興行収入」だけではありません。
劇場公開後は、「2次利用」としてDVDや配信などでも稼げます。本作の場合は、テレビ朝日が製作委員会に入っているため地上波放送も見込め大きな収入が期待できます。
さらには、映画のタイトルが示しているように海外での展開も視野に入れているはず。本作の規模感であれば2次利用で10億円程度の収入が見込めます。
もし2次利用で10億円が手に入ると、経費などを差し引くと5億円くらいを製作委員会が手にすることができます。
総製作費20億円の内の5億円が「2次利用で回収できる」という想定です。
そのため、映画の劇場公開の時点で製作者サイドは15億円超の収入があれば良いことになります。
これは、先ほどの計算式に当てはめると、大まかに興行収入35億円というラインから利益が出る水準になりそうです。
つまり、本作で注目したいのは、まずは興行収入35億円というラインを超えられるかどうかが焦点でしょう。
このところ日本の実写映画の勢いが失われてきていますが、日本を代表するスタッフと俳優陣で作り上げられた本作はどんな結果となるのか。大いに注目したいと思います!
筆者紹介
細野真宏(ほその・まさひろ)。経済のニュースをわかりやすく解説した「経済のニュースがよくわかる本『日本経済編』」(小学館)が経済本で日本初のミリオンセラーとなり、ビジネス書のベストセラーランキングで「123週ベスト10入り」(日販調べ)を記録。
首相直轄の「社会保障国民会議」などの委員も務め、「『未納が増えると年金が破綻する』って誰が言った?」(扶桑社新書) はAmazon.co.jpの年間ベストセラーランキング新書部門1位を獲得。映画と興行収入の関係を解説した「『ONE PIECE』と『相棒』でわかる!細野真宏の世界一わかりやすい投資講座」(文春新書)など累計800万部突破。エンタメ業界に造詣も深く「年間300本以上の試写を見る」を10年以上続けている。
発売以来15年連続で完売を記録している『家計ノート2025』(小学館)がバージョンアップし遂に発売! 2025年版では「全世代の年金額を初公開し、老後資金問題」を徹底解説!
Twitter:@masahi_hosono