コラム:細野真宏の試写室日記 - 第134回
2021年8月5日更新
映画はコケた、大ヒット、など、経済的な視点からも面白いコンテンツが少なくない。そこで「映画の経済的な意味を考えるコラム」を書く。それがこの日記の核です。
また、クリエイター目線で「さすがだな~」と感心する映画も、毎日見ていれば1~2週間に1本くらいは見つかる。本音で薦めたい作品があれば随時紹介します。
更新がないときは、別分野の仕事で忙しいときなのか、あるいは……?(笑)
試写室日記 第134回 「ワイルド・スピード ジェットブレイク」。本作は“ジェット”でどこまで行くのか?
まず、この「ワイルド・スピード」シリーズは、日本も含めて世界中で大ヒットをしていて、「ユニバーサル・ピクチャーズ作品で最も稼いでいるシリーズ」になっています。
それは、そもそも「ワイルド・スピード ジェットブレイク」で9本目となる(スピンオフは除く)ことに加えて、すでに20年という月日が流れていることも関係しています。
そのため、正直、本作の最大の痛さがあるとすると、「登場人物」が増えている面があります。
そこで、「ワイルド・スピード」シリーズの20年の歴史をざっくりと確認していきましょう。
この「ワイルド・スピード」シリーズは、実は当初、“違法なストリート・レース”を題材にした3部作という構想だったのです。
2001年に第1作目「ワイルド・スピード」が公開され、日本での興行収入は4億5000万円、世界的な評価ではRotten Tomatoesだと批評家は54%とやや厳しく、一般層は69%と何とか及第点、といった感じでした。
続く2003年の第2作目「ワイルド・スピードX2」は、日本での興行収入が7億円と少し伸びましたが、Rotten Tomatoesだと批評家は36%、一般層は50%と、かなり厳しくなりました。
そして、2006年の第3作目は、“車なら日本は外せない”ということで、日本が舞台の「ワイルド・スピードX3 TOKYO DRIFT」。第3作目では妻夫木聡や北川景子も出演し、日本での興行収入は10億円と少し伸びましたが、Rotten Tomatoesだと批評家は38%、一般層は69%と、多くの日本人から見ると「う~ん」な出来でしたが、評価は僅かに盛り返しています。(とは言え、世界興行収入は、シリーズで最悪な結果となっています)
また、この3作品を見ると分かりますが、実は主役のヴィン・ディーゼルが第2作目で脚本に難色を示して出演していなかったりと、製作も難航していたのです。
その一方で、ユニバーサル・ピクチャーズはヴィン・ディーゼルにこだわり続け、第3作目では「カメオ出演」に漕ぎ着けています。
同時に、他の大作映画が軒並みコケ続けてしまったヴィン・ディーゼル。彼にも心境の変化があったようで、ユニバーサル・ピクチャーズと合意に至り、「ワイルド・スピード」シリーズでの「主役ヴィン・ディーゼルの復帰」が決定。再始動を果たしたのです!
第4作目となる2009年「ワイルド・スピード MAX」では、ヴィン・ディーゼルは「主演」に加え「製作」としても参加。実に8年ぶりに、ドミニクが主人公となりました。
完成披露試写会で見る前の私の印象は、「もう終わった作品なのに」とテンションが低かったです。ただ、試写中には「アレ、何が起こった?」と驚くくらい出来は良くなっていて、伊達に日本のサブタイトルが「MAX」となっているわけではないな、と思いました。【とは言え、未だに「MAX」の意味は分かりませんが…(笑)】
ただ、日本での興行収入は9億5000万円と前作の痛手を引きずっています。そして、Rotten Tomatoesだと批評家は28%、一般層は67%と、批評家の評価は厳しいものでしたが、やはり「ワイルド・スピード MAX」で世界興行収入は一気にアップしています!
この第4作目以降の大きな変化は、“違法なストリート・レース”がオマケ要素のようになり、本格的な「カーアクション映画」となっていることです。
2011年の第5作目「ワイルド・スピード MEGA MAX」では、日本の興行収入は14.4億円と伸びています。Rotten Tomatoesだと批評家は77%、一般層は83%と作品の評価も上がっていき、世界興行収入が倍近くにまで上がっています。
作品の出来も、日本のサブタイトルが「MAX」からレベルアップして「MEGA MAX」となっているだけのことはありました。
例えば、巨大金庫の強奪のシーンでは、リハーサルの段階で本物の車を190台規模で破壊していくという力の入れ様です。
さらに、2013年の第6作目「ワイルド・スピード EURO MISSION」では、日本での興行収入が20.2億円と、ようやく20億円コンテンツに。Rotten Tomatoesだと批評家は71%、一般層は84%と作品の評価は安定し、世界興行収入はさらに上がっています。
ちなみに、この「EURO MISSION」では、「車VS飛行機」といったところまで「カーアクション映画」が加速しています。
ところが、2015年の第7作目「ワイルド・スピード SKY MISSION」で、大きな転機が訪れます。
このシリーズをヴィン・ディーゼルと共に引っ張ってきたポール・ウォーカー(第1作目、第2作目の主役、第4作目からも)が撮影期間中、プライベートで自動車事故に巻き込まれて亡くなってしまったのです…。
作品の完成さえ危ぶまれましたが、何とかポール・ウォーカーの家族の協力もあり無事に完成したのです。
この「SKY MISSION」では、車が中東の超高層ビルから超高層ビルへとダイブを繰り返すなど、まさに「SKY MISSION」でした。
「ワイルド・スピード SKY MISSION」の完成度はシリーズを通して圧倒的で、個人的にもシリーズで唯一Blu-rayを買っている作品です。
日本での興行収入は35.4億円と跳ね上がり、Rotten Tomatoesだと批評家は82%、一般層は82%と批評家の評価も高く、「世界興行収入はシリーズ最高」を記録しています!
そして、2017年の第8作目「ワイルド・スピード ICE BREAK」では、シャーリーズ・セロンが演じる、かなりの強敵である“サイバー攻撃を仕掛ける頭脳派”のサイファーが登場します。
日本での興行収入は40.5億円と、前作の好評によって40億円コンテンツにまでなっています。この作品は、脚本にやや大きめなツッコミどころがあり、Rotten Tomatoesだと批評家は67%、一般層は72%と作品の評価は下がってしまっています。
この「ICE BREAK」でもカーアクションは健在で、アイスランドの氷湖で「車VS原子力潜水艦」といったシチュエーションまで描いています。
筆者紹介
細野真宏(ほその・まさひろ)。経済のニュースをわかりやすく解説した「経済のニュースがよくわかる本『日本経済編』」(小学館)が経済本で日本初のミリオンセラーとなり、ビジネス書のベストセラーランキングで「123週ベスト10入り」(日販調べ)を記録。
首相直轄の「社会保障国民会議」などの委員も務め、「『未納が増えると年金が破綻する』って誰が言った?」(扶桑社新書) はAmazon.co.jpの年間ベストセラーランキング新書部門1位を獲得。映画と興行収入の関係を解説した「『ONE PIECE』と『相棒』でわかる!細野真宏の世界一わかりやすい投資講座」(文春新書)など累計800万部突破。エンタメ業界に造詣も深く「年間300本以上の試写を見る」を10年以上続けている。
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Twitter:@masahi_hosono