コラム:細野真宏の試写室日記 - 第124回
2021年5月20日更新
映画はコケた、大ヒット、など、経済的な視点からも面白いコンテンツが少なくない。そこで「映画の経済的な意味を考えるコラム」を書く。それがこの日記の核です。
また、クリエイター目線で「さすがだな~」と感心する映画も、毎日見ていれば1~2週間に1本くらいは見つかる。本音で薦めたい作品があれば随時紹介します。
更新がないときは、別分野の仕事で忙しいときなのか、あるいは……?(笑)
試写室日記 第124回 「地獄の花園」。「閃光のハサウェイ」延期と、バカリズム映画はどれだけヒットし得るのか?
今週末公開予定作品で規模の大きな作品には、「地獄の花園」「いのちの停車場」「機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ」がありました。
ただ、想定通り、「機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ」については、(3度目の)公開延期となってしまいました。
「機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ」は、公開時にコラムで紹介する予定ですが、映画館でBlu-rayを同時に発売するなど、通常と変わった形式となっています。
(そのため、通常のヒット映画とは異なり「短期決戦型」の公開方式になるのでは、と思われます)
そして、製作委員会はサンライズ一社で、配給の松竹が入っていません。
そうなると、緊急事態宣言の影響で210館規模のうち東京と大阪で40館規模もの大きめの映画館は休業中で上映できないため興行収入が厳しくなり配給収入も減り配給会社のメリットが小さくなります。同時に、製作委員会にとっても大きな商機を逃すことになるので、やむを得ない判断なのでは、と私も同意します。
しかも、個人的な印象だと、「機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ」は、映画「機動戦士ガンダム」シリーズ史上、最も力を入れている作品とすら感じるので、緊急事態宣言が過ぎ去るのを待つのが正解だと思われます。
ちなみに、「機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ」はドルビーシネマでの公開が合っていて、公開と同時に多くの(単価が高めな)ドルビーシネマのスクリーンを確保すると推察されます。
その結果、「劇場版『鬼滅の刃』無限列車編」用のドルビーシネマのスクリーンが減る方向に進みます。
つまり、今回の公開延期によって、「劇場版『鬼滅の刃』無限列車編」が今週末に前人未到の興行収入400億円を突破する「追い風」が生まれる面もあるのです。
さて、そんな中、「地獄の花園」と「いのちの停車場」については、試写段階から聞いていたように公開延期をせずに5月21日(金)からの公開に踏み切ります。
この2作品については、元々の全国公開規模が300館以上と大きいので、東京と大阪がしばらく機能しなくても何とか踏みとどまれるのかもしれません。
吉永小百合主演の「いのちの停車場」については、コア層の年齢が高めだと思われますが、安定はする興行だと思われます。
一方の「地獄の花園」ですが、こちらは未知数すぎます…(笑)。
そこで今回は、異色の映画「地獄の花園」について考察してみます。
まず、「地獄の花園」の最大の特徴は「バカリズム脚本映画」ということでしょう。
バカリズムと言えば、私はフジテレビ系列の土曜プレミアムで不定期に放送される「IPPONグランプリ」での印象が強いです。
突然、出された写真に台詞をつける「写真で一言」など、かなりの破壊力のある発想を出せるのがバカリズムの魅力で、テレビをつけ「IPPONグランプリ」がやっていると、ついつい最後まで見てしまいます。
そんなバカリズムは、2014年にフジテレビ系列の「素敵な選TAXI」で連続ドラマの脚本を初めて担当してから、脚本家としても活躍しています。
直近での映画に、深夜の連続ドラマから派生した2020年2月28日公開の「架空OL日記」がありました。
この作品は公開規模も小さめだったので、そんなに存在が知られていないのかもしれません。
バカリズム原作・脚本に加え、自らOLに扮し主演している作品です。
作風としては、何気ないOLたちの日常を描いていて、バカリズムが「女性役」で夏帆ら銀行員の同僚と自然なOLトークをするという感じでした。この「架空OL日記」の私の感想は、「普通に面白い」です。
「普通に面白い」という感想は、「時間があれば見ても損にはならないと思います」というくらいの意味合いですが、映画館にまで見に行くハードルをクリアするのかは、人それぞれかもしれません。
ちなみに、この「架空OL日記」は50館規模で興行収入1億円となっています。
ただ、本作「地獄の花園」は、公開規模が300館以上で、文字通りの大作映画なので、これまでと脚本のスケールが違います!
しかも、今まで見たことがないような設定のバイオレンス映画になっています。
具体的には、バカリズムらしく「バカバカしい設定」を求め、定番の「男子高校生のバイオレンス映画」ではなく、「OLのバイオレンス映画」となっているのです。
これは、人を引き付けるような非常に面白い設定だと思います。
ただ、本作は原作が無いオリジナル作品のため、この映画がヒットするのかどうかは、「ギャグシーン」と「バイオレンスシーン」がどこまで観客に響くのかがカギかもしれません。
まず、「ギャグシーン」は、独特なテイストなので、ハードルを上げ過ぎずに見るのがいいと思います。
そして、「バイオレンスシーン」は、これまで音楽の世界で数々の有名アーティストのミュージックビデオを作ってきた関和亮監督なので、凝ったカットがあったりします。
特にオープニングの入りがカッコ良かったりと、バカリズムの脚本を上手く映像化できていると思います。
また、エンディングテーマ曲が、「鬼滅の刃」でブレイク中のLiSAによる「Another Great Day !!」となっています。
しかも、曲を作ったのはB'zの松本孝弘で、まさに「劇場版『鬼滅の刃』無限列車編」がメガヒットしている2020年11月にオファーされ、「炎」「紅蓮華」などを聞いてから作った楽曲です。
正直、試写で最初に見た時は、聞き流していましたが、いま宣伝等で耳にすると、「鬼滅の刃」が被り、耳に残る曲へと変わってきています。
果たして、この楽曲が、どのような化学反応を生むのか非常に興味深いです。
主演の永野芽郁が「続編を作りたい!」と訴えていましたが、見終えると、なるほど、確かに見たい気もします。
一般的に続編を作るには興行収入10億円くらいは行きたいところですが、この緊急事態宣言下というアウェイではなかなかハードルが高いのかもしれません。
この独特なバカリズム脚本映画が大規模公開でどうなるのか。今後の映画業界に新たな有力脚本家が生まれる瞬間となるのか注目したいと思います。
筆者紹介
細野真宏(ほその・まさひろ)。経済のニュースをわかりやすく解説した「経済のニュースがよくわかる本『日本経済編』」(小学館)が経済本で日本初のミリオンセラーとなり、ビジネス書のベストセラーランキングで「123週ベスト10入り」(日販調べ)を記録。
首相直轄の「社会保障国民会議」などの委員も務め、「『未納が増えると年金が破綻する』って誰が言った?」(扶桑社新書) はAmazon.co.jpの年間ベストセラーランキング新書部門1位を獲得。映画と興行収入の関係を解説した「『ONE PIECE』と『相棒』でわかる!細野真宏の世界一わかりやすい投資講座」(文春新書)など累計800万部突破。エンタメ業界に造詣も深く「年間300本以上の試写を見る」を10年以上続けている。
発売以来15年連続で完売を記録している『家計ノート2025』(小学館)がバージョンアップし遂に発売! 2025年版では「全世代の年金額を初公開し、老後資金問題」を徹底解説!
Twitter:@masahi_hosono