コラム:映画食べ歩き日記 - 第1回
2019年10月25日更新
「映画館を超えたい」という情熱を持つ槙原さんは、もともとヴィレッジヴァンガードで8年間勤務し、「バック・トゥ・ザ・フューチャー完全大図鑑」を日本で1番売り上げたという異色の経歴の持ち主。そんな槙原さんが店長を務めていた店舗で、ある小さな男の子との出会いがあったという。
「5歳くらいの小さい男の子が、週1で(売り場で流れていた)映画を見に来るんですよ。毎週1箱、映画のトレーディングカードを買っていくんですよね。そして、その子が自分用の誕生日プレゼントとして、ドリュー・ストルーゼンの画集を買ったんです。聞いたら、別にお父さんの趣味でもないし、誰かに勧められたわけでもないし……店で見て『かっこいい!』って衝撃を受けたらしくて。その年のクリスマスには、1万円もするデロリアンのフィギュアを買って、満面の笑みを浮かべていましたね。(その経験から)『映画って人の人生を変えられるんだな』と思った」
「映画は人生を変えられる」という発見に加え、25歳の頃には1000本を超えていたというDVD、趣味が高じて購入した大きなテレビやスピーカーを揃えていくうちに、「コレクションを良い音、良い映像で見てもらいたい」という思いが膨らんでいった。さらに、映画ファンが「インプットしたものをアウトプットできる場」を作りたいと考えるようになった。
「自分が『映画を見た後に話せる場がないなあ』と思っていたので、良い雰囲気の場所で、映画に詳しい店員がお客さんをつなぐ橋渡しになれるような店があったらいいなと思って作りました。映画好きは休みの日に5本とか10本とか、めちゃくちゃ見ているんですよ。映画館には行かないけど、(配信作品などを見て)知識を蓄えているような人たちにも、話すような場があったらいいなと思って。映画好きって、共通言語がたくさんあると思うので」
物件探しを始めた頃はクエンティン・タランティーノや、ギレルモ・デル・トロが来日時に訪れるというサブカルチャーの聖地・中野も検討していたが、駅前商店街のBGMがなぜか「シェイプ・オブ・ウォーター」「グレイテスト・ショーマン」など映画のサウンドトラックだった高円寺に注目。「コネなし、金なし、技術なし」と振り返るゼロからのスタートにも関わらず、DIY技術を駆使して内装を手掛け、「BIG FISH」の空間を作り上げていった。
そんな槙原さんのお店へのこだわりは、「80年代テイスト」「音と映像」「コミュニケーション」。1人で来店しても、隣に座った人との会話が弾むような空間になってほしいという思いから「コミュニケーション」を挙げたそうで、会話の糸口はお店で出しているカクテル、お客さんが着ている映画Tシャツなど様々。さらに、映画好きをつなぐ存在でありたいと考え、看板メニュー・タコスをつまみながら映画トークを楽しめる定期開催のイベント「タコパ」や、様々なオフ会も企画している。
「少し前にレンタルスペースで、『ショーン・オブ・ザ・デッド』のイベントをやりました。映画を上映しながら劇中のカクテルとスナックを出して、ゾンビメイクをしている人がシーンを再現したりもして。100人くらい集まりましたね。お店発信のものだけではなくて、お客さんが主催するファンイベントもあります。主催者さんって、場所を借りて、料理やカクテルを用意して、装飾して、クイズやビンゴの景品を用意して……本当に準備が大変なんですよ。だから『夢を120%叶える』というコンセプトを掲げて、完全に主催者さんにお任せするのではなく、打ち合わせをじっくり重ねて、一緒に開催するようなイメージでお手伝いしています」
最後に、映画人生の中で印象的だった「映画の中の食」エピソードを聞いてみた。
「『バットマン リターンズ』のビシソワーズですかね。ブルース・ウェインが調べ物をしている時にアルフレッドが出してくれるんですけど。ブルースはスープを飲んで、冷たさに驚いて吹き出してしまう。それでアルフレッドが『ビシソワーズ、冷製スープですよ』と説明して、ブルースは再び口をつける。そのシーンはそれで終わりで、伏線でも何でもない。10年くらい『あのシーン、必要?』って不思議に思ってます(笑)。本当に謎ですよね」
今後は「キングスマン」シリーズのお酒を充実させたいと語る槙原さんは、キングスマンのメンバーが、仲間が任務で殉職した時に哀悼の意を表して飲むブランデー「グレンドロナック」を仕入れるのが夢だそう。映画ファンなら誰しもが胸を熱くするアイテムがちりばめられ、フードやドリンクで世界観にどっぷりと浸りながら、最高の音響&映像で作品を鑑賞することができる「Cafe & Bar BIG FISH」。オーナーの映画愛が随所にあふれる、映画ファンに捧げられた非日常空間を、是非訪れてみてほしい。
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