コラム:若林ゆり 舞台.com - 第90回

2020年9月9日更新

若林ゆり 舞台.com

第90回:完全無比なミュージカル「ビリー・エリオット」は人生を変える!

「このミュージカルは、人生を変える」。これは舞台「ビリー・エリオット リトル・ダンサー」のキャッチコピーだ。そんな大げさな、と思うかもしれないが、これが真実だということは、観劇した人ならわかるはず。スティーブン・ダルドリー監督の映画「リトル・ダンサー」を、エルトン・ジョンの楽曲を得てダルドリー自らがミュージカル化した本作は、日本では2017年に初上演。文字通り多くの人々の人生を変えた(前回公演については、本コラム第57回を参照)。この素晴らしい舞台が、いよいよ再演の幕を開ける。

ビリー役を演じる川口調、利田太一、中村海琉、渡部出日寿(左から)
ビリー役を演じる川口調、利田太一、中村海琉、渡部出日寿(左から)

イングランド北部の炭鉱町を舞台に、「バレエダンサーになりたい」という夢を抱いた11歳の少年と、過酷な毎日を必死で生きながら彼の夢を支える人々の物語。3年ぶりの再演となる今回は、7月から東京公演が行われるはずだった。しかし、このコロナ禍で準備稽古がストップ、7~8月の公演は中止に。そして9月11日から、客席を半数にするなどの対策をした上で開幕することが決定したのだ。

初演に続き、今回もオールダー・ビリー(大人になったビリー)役を演じる大貫勇輔も、この作品に「人生を変えられた」と語るひとり。バレエダンサーからオールマイティの俳優へと進化し続ける大貫に、作品の魅力と自らの体験を語ってもらった。

「僕と『ビリー・エリオット』との出会いは、ロンドンの劇場でした。1幕最後にビリーが歌い踊る『アングリー・ダンス』を客席で見た時、立ち上がれなくなるくらい感動したんですよ。ひとりの少年が、踊りとお芝居と歌と、タップと器械体操すべてをやってのけながら、すべてを超えた、言葉にならないような表現をしている。その時は『こんなの日本じゃ絶対にできない』なんて思っていました。2017年に日本での上演が決まって、出演させてもらえることになっても正直不安だったけれど、製作発表でビリー(を演じる少年)たちがパフォーマンスしているのを見て、ロンドンで観劇した時と同じような感動に震えました。『日本人、すごい! できるんだ!』って(笑)」

そのときの感動は、稽古場に入ってからもっと増幅され、大貫を刺激し続けた。

「稽古場で実際にビリーたちを見ていると、できなかったことがどんどんできるようになっていく。その姿に心を打たれました。彼らがしてきた苦労、それを乗り越えようとする努力があったからこそ、この瞬間がある。その裏側をつぶさに見ているわけですからね」

大人になったビリーを演じる大貫勇輔
大人になったビリーを演じる大貫勇輔

同時に、自分自身についても「ハッ!」とさせられ、大きな変化をもたらされたと言う。

「僕は今まで、無意識に『自分はダンサーだから』という言い訳をしてきたんだと気づかされたんですよ。その当時、僕はお芝居や歌でもお客さんに感動してもらえるミュージカル俳優になりたいと思って、自分ではがんばっているつもりでした。でも、それは得意のダンスでカバーして、なんとなくできた気になっていたんですよね。ビリー役に選ばれた彼らは『なんとなく』では済まされません。全部ちゃんとできないと作品が成り立たなくなる。ものすごい責任感を背負って、日々『もうこれ以上はできない』という精一杯の努力をしていたんですね。それを感じたときに『僕はもっとできたのに、まだまだ努力が足りなかったんだ』と痛感した。以来、作品に対する取り組み方が根本から変わりました。それが、『僕の人生を変えた』ということなんです。その後、僕は『メリー・ポピンズ』で、歌やダンスなど非常に高い技術が要求されるバート役に挑戦したんですけど、ビリーたちのがんばりを思って『あの子たちにできたんだから、俺にできないはずはない!』と、めちゃめちゃがんばりましたね(笑)」

逆境に負けず、夢を叶える力を描いた作品は、今だからこそ訴えるものがある。

「コロナで困難な状況にあって、僕は人の悪いところや不信感に目を向けるんじゃなく、その人にとって何が幸せで、何をしたいと思っているのか、そういうところにみんなが目を向けられたらいいなと思うんです。思いやりをもって、深いところで人と人とが向き合うことが大切なんだよ、ということを、この作品は伝えている。今、この時代に必要なメッセージのあるミュージカルだと思います」

警官役(左から3人目)などのアンサンブルも演じている大貫
警官役(左から3人目)などのアンサンブルも演じている大貫

本作で大貫が演じるオールダー・ビリーは、映画版ではアダム・クーパーが演じ、映画のクライマックスを飾った。しかしミュージカル版では11歳のビリーが夢みる「未来の自分」として、ビリーとデュエット(ふたりで踊る)。舞台でしかできない表現で感動を呼ぶ、幻想的なバレエシーンになっている。

「ここでは『ああ、この子が将来、こういうふうになるかもしれないんだ』と、お客さんがビリーの夢を共有し、お父さんの気持ちを感じてもらうことによってその先の感動が増幅されるので、責任重大です。もう1つ大事なのが、ビリーとの関係性。言葉を超えた会話、身体のコミュニケーションがちゃんと見えないといけない。だから彼らに『今、バランスを崩しそうになったのを俺の手が支えたの、わかった? あれが一緒に踊るってことなんだよ。ひとりで全部がんばろうとしなくていいんだよ』とかね。そういうことを話していくうちに、言葉を超えた会話ができるようになってきたな、と感じています」

では、今回選ばれた4人のビリー、それぞれの魅力は?

「(川口)調はキャリアもあり、本当にプロだなぁと感じます。繊細なんですよね。丁寧に努力をして、確実に結果を出しています。バレエが得意な(利田)太一は、すごく人懐っこい性格で、ちゃんと人の心の中に入っていける子なんですよ。心も身体もすごく柔らかいんだな、と思います。(中村)海琉は4人の中ではバレエ経験が浅いんですが、日々上達していますし、お芝居が僕のイメージするビリーっぽい。悲しみのようなものを内包していて、それでいてどこかケロッとしていて。体操では『お、そんなエネルギーあるの?』という意外性も見せてくれます。(渡部)出日寿が持っているピルエットの超絶技巧ときたら、もう信じられないレベルです。国内外のバレエコンクールで優勝しているだけあってガッツがあり、自分のパフォーマンスに対する責任感が強い子です。本当に4人とも人懐っこい子たちで、やらなきゃいけないってガチガチになるんじゃなく、やりたいという意識で楽しんでいるのがいい。この作品は、ビリーを演じる子どもたちの成長がそのまま映し出されている“ドキュメンタリー・ミュージカル・ショー”みたいなところがあるんです。多様な“愛”が描かれていて多角的で、『本当によく作られている作品だなぁ』とつくづく思いますね」

次ページでは、4人のビリーたちの声をお届け!

筆者紹介

若林ゆりのコラム

若林ゆり(わかばやし・ゆり)。映画ジャーナリスト。タランティーノとはマブダチ。「ブラピ」の通称を発明した張本人でもある。「BRUTUS」「GINZA」「ぴあ」等で執筆中。

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