コラム:若林ゆり 舞台.com - 第9回

2014年6月20日更新

若林ゆり 舞台.com

第9回:「オーシャンズ11」をたった1人で受けて立つ色悪・橋本さとしの男くささにシビレる!

演出の小池は、細部にまで妥協を許さないという厳しい演出ぶりで知られている。大人数が参加する稽古場は、刺激的だったという。

「ベネディクトは孤高の男ですけど、橋本さとしは案外さびしがりなんで(笑)、ベネディクトチームの役者さんたちと『がんばろうねー』なんて団結してました。小池先生はね、どれだけ感性のアンテナが張り巡らされているんだろう、っていうくらい見てますよね。しかも舞台に対して妥協しない! しぶとく僕らをつついて何かを出そうとする。出てきたものが違ったら『違う』ってハッキリ言ってくれる。エンターテインメントの鬼ですよ。でも、稽古を離れたときのすっごいお話好きな(笑)、かわいい感じが、“がんじがらめになってるー”という気分をふわっとやさしく溶かしてくれる。愛すべき天才。見事ですよね、お客さんがこうすれば喜びますよ、というツボの押し方! 役者としては、全面的に信じてやっています」

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橋本は大阪芸大のミュージカルコース(古田新太は1年先輩)で学んだ後、いのうえひでのり率いる劇団☆新感線に参加した。

「もともと劇団☆新感線はミュージカルが大好きな劇団で。でも歌にダンスに芝居と、すべてできないとやれないじゃないですか。自分にはできないけど、ただ素直に認めたくないっていうのがあって、タモリさん的な「目ぇキラキラさせて歌い出したー!」みたいなシニカルな目線をずっともってたんです。だからもう開き直って、タヌキのぬいぐるみを着ながら「ウエストサイド・ストーリー」を踊ろうと。『クールたぬー!』とかってパロディをやった(笑)。「ジーザス・クライスト・スーパースター」をオカマでやったりね(笑)。それは僕らなりのミュージカルへのオマージュというか、リスペクトの仕方だったんですけど。そんなふうにパロディとしてしかミュージカルをやってこなかった人間が「レ・ミゼラブル」だの「ミス・サイゴン」で真ん中に立たせてもらって、自分たちのいままで認めたくなかった部分のすごさ、奥深さを痛感しましたね」

そこからは必死でミュージカルに食らいついていった。「ジェーン・エア」のロチェスター、「アダムス・ファミリー」の家族ラブな幽霊ゴメスなど、橋本ならではの当たり役も多い。

「僕のなかでも「ジェーン・エア」は特別な作品です。それまで僕は笑いというのを武器にしていたんですけど、笑いを狙うということを一切、排除されて(笑)。傷ついた男の役でしたからね。ジョン・ケアードが非常に演劇的な演出家で、僕はすごく成長させていただきました。宝物ですよ。「アダムス・ファミリー」のゴメスは、コメディですけど今回のベネディクトと同じく、ラティーノでね。つながっているなと思います。映画でゴメスを演じたラウル・ジュリアは、ダメなおやじだけじゃなくて、どこか色気があったじゃないですか。それもヒントにしましたね」

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最後に、橋本は「僕には僕なりのミュージカル表現がある」という熱い思いを語った。

「僕のような小劇場出身の役者が、ミュージカルという世界でどれだけできるのか、やはり不安でした。ただ、僕なりに思っているのは、歌もすべてが言霊というか、音階のある台詞だと。歌をどれだけ台詞に近づけられるかということなんです。歌詞を研磨して研磨して、演技から歌へと移動するときにできるだけ差がないように。演技を乗せた歌というのを歌いたいという思いでやっています。ブロードウエイの方々が英語で、すごく自然に歌を歌っている世界に出来るだけ近づきたい。歌と芝居の境目をなくすなんて簡単じゃないですけど、そこを目指していきたいなと思っています」

オーシャンズ11」は7月8日までシアターオーブで上演中。以後、10月下旬に梅田芸術劇場 メインホールにて上演。

詳しい情報は公式サイトで。 http://www.oceanseleven.jp/

筆者紹介

若林ゆりのコラム

若林ゆり(わかばやし・ゆり)。映画ジャーナリスト。タランティーノとはマブダチ。「ブラピ」の通称を発明した張本人でもある。「BRUTUS」「GINZA」「ぴあ」等で執筆中。

Twitter:@qtyuriwaka

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