コラム:若林ゆり 舞台.com - 第8回
2014年5月30日更新
第8回:創意と舞台表現の玉手箱! 15年以上も続く「ライオンキング」の魅力を、人気キャラの俳優コンビが徹底解説!
ディズニー・アニメのミュージカル化作品のなかでも、「ライオンキング」は特別だ。ミュージカル史における革命であり、奇跡と言っていい。なにしろアフリカの動物たちを描いたアニメ映画版には、人間は1人も出てこない。舞台はひたすら雄大な自然。これをどうやって舞台化するのか? この難題に嬉々として立ち向かったのが、舞台芸術家で映画監督(「フリーダ」「アクロス・ザ・ユニヴァース」)でもある天才、ジュリー・テイモアだった。ブロードウェイ・ミュージカルの常識をぶち壊し、日本の歌舞伎や文楽、インドネシアの仮面劇に影絵などといったアジアの伝統芸能を取り入れて、マスクやパペットを応用。それまで誰も見たことがなかった、新しいミュージカル表現を切り拓いたのだ。
劇団四季が日本で「ライオンキング」の幕を開けたのは、ブロードウェイでの初上演からわずか1年2カ月後の1998年12月。以来、実に15年以上にもわたって大ヒットロングランを続けている。これもまた、奇跡以外の何ものでもない。その大いなる魅力と秘密を探るべく、劇団四季でこの作品の人気キャラクター、ティモン&プンバァを演じている俳優、黒川輝と福島武臣に話を聞いた。
やんちゃなミーアキャットのティモンと丸々と太ったイボイノシシのプンバァは、王国を追われたライオンのシンバを助け、仲間となる愉快な名コンビだ。まずはティモンのパペットを間近で見せてもらおう。ティモンは体の小さなパペットと、それを操る俳優の両方が見える仕組み。日本の文楽を引用した形だ。黒川によればティモンはとくに「とてもデリケートで壊れやすい」とか。顔の部分はまるで生きているように表情がよく動く。いちばん驚いたのは、このパペットが扱う俳優ごとに微妙に違っているということだった。
「その俳優がこう動かしたいという好みに合わせて顔のつくりを調整していくから、構造が微妙に違ってくるんです。俳優の個性がパペットに出るんですね。僕は鼻や頬のあたりを柔らかく動かして、愛嬌のある表情を出したかった。こうしたい、という表情がちゃんと出せるようになるまで1年くらいかかりました」
なるほど、黒川のティモンと彼自身は顔つきがそっくり! まさに一心同体の相棒だ。
「そうでしょ(笑)。もう7年以上やっているから、似てないと困りますよ(笑)」
これを思うように操れるようになるには、どれくらいかかった?
「思うように動かせるまでに1年ぐらいはかかりましたね。僕はパペットをこういう角度でこう動かしたいというのを意識的にしたのではなくて、自分の動きと自然にシンクロできるようにしたいと思ったんですね。こっち(パペット)も生きてるって感じられるように。何の意識もせず、ティモンの腕のほうが自分の腕と思えて、自分が表現したいことがすぐその場で無意識にできるように。だから、パペットを付けたらもう、自然にこいつが動き出すんですよ」
お次はプンバァだ。これは大きな頭と下半身を別々に、体の前後に装着するように出来ている。「こいつはベンツの新車1台分くらいの値段なんですよ」と、福島が笑う。「全部のキャラクターの中でいちばん重い。頭だけで10キロくらい、全部で40キロくらいあります。これを付けて、せりふを言いながら動くとなると、そりゃもう毎回筋トレ状態ですよ(笑)。それでもこのパペットは最初もっと重かったものを、日本のスタッフがずいぶん軽く改良したんです。顔の表情は裏側から手を入れて動かすんですが、耳や目玉も動かせたり、舌を出せたりね。小さな後ろ足は、私の動きに合わせてびょん、って動きます。動物園でイボイノシシをよーく見ていると、耳とか後ろ足がぴくっ、ぴくっと動くんですよ。それを表現できるように工夫されている。よく考えられたデザインなんです」
コラム
筆者紹介
若林ゆり(わかばやし・ゆり)。映画ジャーナリスト。タランティーノとはマブダチ。「ブラピ」の通称を発明した張本人でもある。「BRUTUS」「GINZA」「ぴあ」等で執筆中。
Twitter:@qtyuriwaka