コラム:若林ゆり 舞台.com - 第76回
2019年3月4日更新
第76回:霧矢大夢がドイツ演劇の自由奔放なヒロイン役で客席を虜に!
「私は幼い頃からバレエを踊ることが好きで『舞台に立って表現する人になりたい』と思ったことがスタートでした。舞台俳優として表現することを職業にできる環境がたくさんある中で『ここでなら舞台表現のプロとして生きていける、自分のやりたいことができる』と思ったのが宝塚でした。宝塚は和ものから洋もの、現代ものから古代のものまで、いろいろなジャンルの作品を幅広くやるところで。そういう環境にどっぷり漬かれたことは幸せでしたね」
宝塚ではダンスに加え、歌や芝居の才能も開花。入団3年目にしてブロードウェイ・ミュージカル「ハウ・トゥー・サクシード」の新人公演主役に大抜擢され、三拍子揃った実力、生き生きとした演技で客席を魅了する。6年目の新人公演で主演したショー「ノバ・ボサ・ノバ」では「新人公演のレベルを超えた」と絶賛され、伝説を作った。
「新人時代って、恐いもの知らず。だから思いっきりやれたんだと思います。新人公演は、本公演より安いとはいえお金を払って見に来てくださるお客様がいるわけですから『発表会ではいけない。公演として成立するようなものでなくては』という気持ちでやっていました。『ノバ・ボサ・ノバ』はストーリーのあるショーで、本公演で演じたのはピエロ。声を発することがない役だったので、とにかく歌いたくてしかたがなかった。やっと新人公演で『思いっきり歌えたー!』ということもあり、すごく楽しかったです」
トップスターに登りつめた宝塚を卒業してからは、女優として幅広い作品、役柄に挑戦。なかでも「女優って生半可な覚悟でやっちゃいけないんだ」と衝撃を受けたというのが、一昨年の「この熱き私の激情」だ。
「7人7様の女優魂がぶつかり合う作品で、セクシャルな表現がすごく多くて。私はいままでまったくそこには触れない世界にいたので『うわぁ、どうしよう』と戸惑っていました。でもみなさんが女として、女優として自分をさらけ出し、掘り下げながら表現していく姿を見て『覚悟が足りなかった。もっと自分の殻を破らなくては』と思わされました。私のルーツは宝塚で、そこを捨てるわけではないのですが『そこに囚われていたな』と気づいて。いつも『ここからここは表現してはいけない』とストッパーをかけていた。そこを『そろそろそんなもん脱げよ!』と、ガツンと言われるような作品でしたね」
この経験が「LULU」でもものを言うはずだ。今後は6月開幕の「ピピン」(またしても誘惑者役)に続き、11月には川平慈英と夫婦役を演じた一昨年のヒット作「ビッグ・フィッシュ」の再演も待っている。
「私、宝塚の下級生時代『慈英さんに似てる』って言われたことがあるんです。たぶん、種類が一緒(笑)。『ハウ・トゥ・サクシード』のフィンチもそうですけど、コチョコチョ小器用にいろんなことに立ち回って『やったー!』みたいな単純明快さ、歌って踊って『イエー! エンターテインメントだぜー!』みたいなところに同じ匂いを感じる(笑)。実際にご一緒すると『私はあんなにサービス精神ないわ、あんなにエンターティナーじゃないわ』と思うんですけど、稽古場とかでいつもふざけて小道具で遊んでいらっしゃるところも似てますね。なので慈英さんとの共演は、お兄ちゃんとやっているみたいですごく楽しい。今年もまたご一緒させていただけると思うと楽しみです」
新たな魅力をどんどん広げていく、霧矢がいま抱いているビッグ・ドリームとは?
「私は宝塚で18年間も男を演じていたのが、女になって (笑)、人生、2度楽しんでいるって思っています。先輩たちがよく『同じ分量(期間)だけやらないと自然に女性をできるようにはならないよ』っておっしゃいます。ビッグな夢ではないかもしれませんが、男役と同じくらい、女優としてできるようになりたいというのが当面の目標です。いい年齢の重ね方をして、いい作品や役と出会って、いろいろな人と出会っていきたい。それが夢かな。この仕事って、ゴールがないでしょ? 宝塚には退団というゴールがありましたけど、いまはゴールのないレースを闘っているみたいなものなので。マイペースに楽しくいけたらいいですね」
「LULU」は2月28日~3月10日、赤坂RED/THEATERで上演中。詳しい情報は主催unratoの公式サイトへ。
http://ae-on.co.jp/unrato/
筆者紹介
若林ゆり(わかばやし・ゆり)。映画ジャーナリスト。タランティーノとはマブダチ。「ブラピ」の通称を発明した張本人でもある。「BRUTUS」「GINZA」「ぴあ」等で執筆中。
Twitter:@qtyuriwaka