コラム:若林ゆり 舞台.com - 第76回

若林ゆり 舞台.com

第76回:霧矢大夢がドイツ演劇の自由奔放なヒロイン役で客席を虜に!

ドイツの劇作家、フランク・ベデキントによるルル二部作(「地霊」「パンドラの箱」)は、不思議なヒロインを擁している。自由奔放に、意の赴くままに波乱の人生を生きるルルだ。彼女は周りの男性たちを(女性をも)虜にし、次々に破滅へと追いやっていく。それでいてどこかに童女のような、純粋さのようなものを感じさせるのだ。

G・W・パプスト監督の無声映画「パンドラの箱」では20年代ハリウッドのアイコン、ルイーズ・ブルックスが蠱惑的に演じたルルが、いままた現代に甦る。新たな「LULU」はドイツ演劇の上演でめきめきと評価を上げている演出家・小山ゆうなが上演台本と演出を手がけ、ルルを演じるのは元宝塚トップスターの霧矢大夢だ。

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稽古場に霧矢を訪ねたのは、初めての通し稽古が行われた日。一筋縄ではいかないヒロインを模索中の彼女は、「すごく難しい役です」と言いながら、確かな魅力を放っていた。つきあう男ごとに別の名前で呼ばれ、実体のない男目線の女性像とも言われるルル。霧矢はルルを、どんな女性と捉えているのだろう?

「ルルは不幸な生い立ちから波瀾万丈な人生を歩んでいくのですが、その都度その都度、自分の気持ちに正直に生きた女性なんですね。端から見ると奔放でわがままで、すごくしたたかな印象を持たれるかもしれませんが、何もかも本能でできてしまう。大事なのは、ルルというひとりの人間をピュアに表現するということなんだと思います。計算があったり策略があったり、そういう部分が見えすぎてもいけない。『明らかにお前から誘惑してるやろ!』とか『邪魔な人間を自分から排除していってるやん』ってツッコミたくもなるんですけど(笑)、それさえ嫌味じゃない。『あ、ルルならそうしちゃうよね』という説得力がある魅力的な人で、そう感じてもらえるように作りたいです」

説得力はバッチリだ。ベデキントによれば、ルルは「既成の概念にとらわれないために周囲の人間を危険にさらしてしまうだけ」。けっして悪女だとか魔性の女ではないという。だからこそ、女性的色気がムンムンというイメージではない(失礼!)霧矢が演じることで、その無邪気さや純粋な魅惑が際立つのだ。もちろん持ち味のクルクルとよく変わるチャーミングな表情、底抜けに明るい個性はフル活用、とはいかない。しかし宝塚卒業後の霧矢は「ラ・マンチャの男」のアルドンサや「この熱き私の激情」の血の部屋の女、「ナターシャ・ピエール・アンド・グレート・コメット・オブ・1812」のエレンなど、官能的な役柄とは縁がある。

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「女の性(さが)を体現するような役がたまたま続いているのは、『もっと“女”を勉強しなさいよ』ということなのかなと(笑)。絶世の美女や、誰もが魅了されてしまう役は、とってもやりにくいです。演じる側はプレッシャーですし、『そうでもないんですけど~』みたいな(笑)。もしそう見えたなら、周りの方々がそういう風に扱ってくださっているからこそ。みなさんの演技力の賜だと思います」

それにしても、ルルとかかわった男たちは、なんと簡単に滅んでいくのだろう! たたみかけるようなこのテンポも新鮮だ。

「男って単純だな、と思っちゃいますよね。原作では男性たちにもそれぞれ深いドラマがあるのですが、ここではアッサリとしか描かれていないので『ハイ、次の方。ハイ、次の方』って行ってしまう(笑)。展開が早くて、場面転換もすごく多いですからね。私はこの赤坂RED/THEATERではこれまで2作品に出演させていただいているのですが、夫婦を描いた『I DO! I DO!』は寝室のみ、フィッツジェラルドの妻ゼルダを描いた『THE LAST FLAPPER』は診療室の中のみと、場所がほぼ変わらず1カ所で展開する作品でした。今回は、ドイツからパリ、ロンドンと、場所がどんどん変わっていくので、見ている人はポカンとしてしまうかも。でも、こういうところにも演劇の醍醐味があると思います。ルルにしても、自分の隣にいたら『こわっ!』って思うけど、演劇で見るから成立するんですよね。演出の小山さんが、そこがいちばん描きたいところだとおっしゃっていて。19世紀末もいまも、つねに人間は混沌としていて、殺伐としている。そしてラストは『あなたはこの世の中をどう捉えますか?』という問いかけにつながる、面白い作りになっているんです」

霧矢大夢が宝塚歌劇団に入団したのは、宝塚ファンだったからではない。目指したのは表現者の道だった。

筆者紹介

若林ゆりのコラム

若林ゆり(わかばやし・ゆり)。映画ジャーナリスト。タランティーノとはマブダチ。「ブラピ」の通称を発明した張本人でもある。「BRUTUS」「GINZA」「ぴあ」等で執筆中。

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