コラム:若林ゆり 舞台.com - 第73回
2018年11月22日更新
第73回:三谷幸喜のミューズ、シルビア・グラブが新作ミュージカルであの人物に!?
三谷幸喜と言えば、俳優の持ち味を生かしながら、独特の調理法で意外な面白さを引き出す、“あて書きの帝王”。シルビアは初めて三谷作品に参加した「国民の映画」でツァラー・レアンダー役を演じたとき、三谷流の“観察”を体験した。
「稽古初日には台本が20ページくらいしかなかったんじゃないかな。三谷さんが初めて一緒に仕事をする人が多かったから、様子を見ながら書きたかったみたいで。だから稽古合間のオフの時間でも、観察がすごかった。遠くから目線をビシバシ感じるわけですよ(笑)。オフの時間もずーっと。けっこう目立つんです、あのメガネ(笑)。三谷さんは、役者によってどういうワードがハマるのかというのを、仕事していく上で掴んでいくんですね。最初はわからないから『どうやったらこの子を生かせるのかな』というのを探っていた。ちょいちょい、映画とか女優さんの好みを聞き出しに来たりして。それで『なるほど、こっちから攻めた方がいいのか』とわかってきたらしく、本番直前の舞台稽古でいきなり、いままでのキャラ設定と全然違う『キャロル・チャニングでお願いします』と言われて(笑)。『そこかぁー!!』って方向転換して、あのツァラーが生まれたんです」
シルビアが「お芝居に少し自信がもてるようになりました」と言うこの作品で、三谷には「シルビアの個性を生かせた」という自負が生まれたようだ。照れ屋だから直接ほめ言葉をかけてくるようなことはないそうだが、行動には明確に出た。
「『国民の映画』の本番中、私が歌うシーンになると三谷さんはいつも袖にいて、当時はまだスマホじゃなくてガラケーで、めっちゃ写メ撮ってました(笑)。“カシャッ”って音が聞こえるわけですよ、舞台まで。『え? 誰か写真撮ってるんだけど……三谷さんっ!?』(笑)。そこはリハーサルのときにも客席で必ず見ていて、振りも覚えようとしてましたね。『そこのステップどうやるの?』って聞いてきましたから(笑)。ミュージカルの『NINE』で私を見てオファーしてくださったみたいなんですけど、やはり歌ったり踊ったりしているところを気に入ってくださったのかな? 『ショーガール』はもちろん、映像作品の『真田丸』や『ギャラクシー街道』にチラッと出させていただいたときも、私、絶対踊らされているんです。ジェイさんもそうですけど、『自分にはない、不思議な動きをする人たち』って思われているのかも(笑)」
ここで「シルビア・グラブの歴史」についても語ってもらおう。その始まり、女優を目指したのはいつのこと?
「子どものころから歌ったり踊ったりするのが好きで、幼稚園の頃に母親が先生から『この子は舞台に立つ人になりますね』って言われているんです。すごく引っ込み思案だったんですけど、音楽が鳴り出すと人前に出られた。『レ・ミゼラブル』の初演のときには、一般公募でオーディションを受けたんですよ。リトル・コゼットにはちょっと大きかったこともあって、ダメだったんですけど。その当時は『ちびっ子歌謡大賞』みたいな番組にも出ていて、歌手になるって言い出す前にはバレリーナになりたかった。家の8トラックで『サウンド・オブ・ミュージック』のサントラを聴いていたり、母が単館リバイバルの『ウエスト・サイド・ストーリー』を見に連れて行ってくれたりしてミュージカルには馴染んでいたんですね。7、8歳の頃ジャズダンスの発表会で使った曲が、ライザ・ミネリの『ニューヨーク、ニューヨーク』で。ダンスだから歌わなくていいのに、私は歌いながら踊っちゃってました(笑)。その頃からライザ・ミネリが憧れだったんです」
アメリカの大学を卒業後、帰国したシルビアは『ジェリーズ・ガール』というショー作品で舞台デビュー。いまやミュージカル界を牽引する存在に成長した。
「宮本亜門さん演出の『アイ・ガット・マーマン』でお芝居することが好きになりました。それまでは日本語の台詞を言うのが恐かったんです。そして『国民の映画』で、演劇的な視野を広げていただいたと思っています。『日本の歴史』も自分にとってエポック・メイキングになればいいなと思いますけど、もうたいへんすぎて。私、1幕だけで14回も着替えるんですよ! 初めて通した後は、もう、疲れすぎてどんより(笑)。これからが勝負ですね。ミュージカルは私にとって、絶対に必要なもの。見るのもやるのもいちばん好きな趣味でもあって、なかったら死んでしまいます(笑)。動いていないと死んでしまうマグロみたいと言われましたがその通りで(笑)、これからもできる限りやっていきたい。そのためにも今回、がんばらなきゃなと思っています」
ミュージカル「日本の歴史」は12月4~28日 世田谷パブリックシアター、2019年1月6~13日 梅田芸術劇場 シアター・ドラマシティで上演される。詳しい情報は公式サイトへ。
http://www.siscompany.com/mitani/
筆者紹介
若林ゆり(わかばやし・ゆり)。映画ジャーナリスト。タランティーノとはマブダチ。「ブラピ」の通称を発明した張本人でもある。「BRUTUS」「GINZA」「ぴあ」等で執筆中。
Twitter:@qtyuriwaka