コラム:若林ゆり 舞台.com - 第51回
2016年12月27日更新
第51回:『新春浅草歌舞伎』で男の色気を発揮する若手二枚目、尾上松也の勢いがすごい!
もちろん歌舞伎俳優の道を究めながら、映画ファンとしての映画館通い、DVD鑑賞はずっと続けているという松也。好きな映画は?
「僕が映画好きになったのは『スタンド・バイ・ミー』がきっかけだったんです。その後、『ゴッドファーザー』や『スター・ウォーズ』が好きになって。アメコミ映画もよく見ますね。ジャンルはバラバラですが、“男の子要素”として憧れる世界なんですよ。同じ理由で、アメリカ大恐慌時代のマフィア映画が好きなんです。『アンタッチャブル』とか、時代は違いますけど『スカーフェイス』とか。男たちが魅力的で、カッコいいなぁと思いますね。あのマフィアたちって、どこか感覚が戦国武将と似ているんですよ。生き死にに対して壁がないというか。友情と裏切りとがつねに表裏で重なり合っていて。僕は織田信長から徳川家康までの戦国時代が好きなんですが、禁酒法時代のマフィアの抗争って、陰謀と裏切りと策略が渦巻いて残酷なところが、まさに戦国の世と同じだなって思うんです」
歌舞伎、映画とともに、松也が愛してやまないもうひとつのエンターテインメントがミュージカルだ。
「最初は僕が10代のころ、(市川)猿之助さんが『ミュージカルはすごくいいよ』と勧めてくださって。『そんなにおっしゃるんだったら一度、観せていただこうかな』って(笑)、軽い気持ちで見に行ったのが劇団四季の『ライオンキング』。観劇後には『いいなあミュージカル!』と思うようになったんです。で、その後さらにハマるきっかけとなったのが『RENT』という映画でした。僕はそれがミュージカルだとは知らなくて。ロザリオ・ドーソンという女優さんを見たいというだけだったんですが、もう引き込まれて……、映画館に何回見に行ったかわかりません。ちょうど父が亡くなった後だったので、よけい生と死というテーマに思い入れてしまったのかもしれないんですが、とにかくハマって。日本人キャストでも上演したことがあると知って、『こういう作品に出たいな』と思うようになりました。そのころカラオケで僕の歌を聴いた友達から『それだけ歌えるならミュージカルに出られるよ!』と言われて、その気になったというのもありますね(笑)」
ミュージカルでの経験も自らの糧にした松也は、いまやとどまるところを知らぬ勢い。この12月の歌舞伎座では、前年に南座で大好評を博した新作歌舞伎「あらしのよるに」で、オオカミのがぶ(中村獅童)と友達になるかわいらしいヤギのめい役を演じ、話題をさらっている。20代半ばまで女方(女性の役)をしてきた経験を生かした好演だ。
「めいは敢えて、男の子なのか女の子なのかわからない、という方向性で演じさせていただいているんです。僕自身が原作や映画で見たときに『どっちなんだろう?』って思いましたので。明らかに男の子だったら普通に友情ということでまとまってしまいますが、そうではない部分があるのがこの2人の友情の面白いところ。もし友情以上の恋だったとしても、種族の壁があるので結ばれることは絶対にないという切なさもあります。見方によって、いろいろな感じ方をしていただけたらいいですね」
歌舞伎がすごいなぁと思うのは、前月歌舞伎座に出演していた俳優が稽古期間も短く休みもおかず、翌月の公演(松也は「新春浅草歌舞伎」)に出演するのが当たり前というところ! 歌舞伎俳優は超人!?
「僕たち歌舞伎俳優なら、浅草で上演する演目は知っていて当たり前。共通認識があって何をすべきかはわかっているので、役者同士で共有しやすいんですよ。だからこそ、そういった演目であれば、千穐楽から次の初日までの5日間で芝居を作り上げます。だからこそ僕たち若手は日々の勉強を疎かにはできません。『あらしのよるに』の初演のときも短い稽古期間でしたが、みんなで集中してアイデアを出し合って、それがテンションやモチベーションを高めて良い結果に繋がりました」
歌舞伎を見たことがない、興味がなかったという人も、新春の浅草で、勢いのある若手による日本固有のエンターテインメントをぜひ味わってみてほしい。
「若い世代のお客様にも楽しんでいただくために何ができるかを、歌舞伎俳優はみんな考えています。同時に思うのは、古典もすべて、最初は新作だったはずということですよね。それが作品として優秀であり人気を博したからこそ、いま僕たちが継承すべき古典となっている。それならば僕たちの世代も、そういう作品を残していきたい。たとえば何10年後かの『浅草歌舞伎』で『あらしのよるに 出会いの場』という演目が上演されたら、素晴らしく夢のあることだと思うんです」
「新春浅草歌舞伎」は1月2~26日、浅草公会堂で上演される。詳しい情報は公式サイトへ。
http://www.asakusakabuki.com
筆者紹介
若林ゆり(わかばやし・ゆり)。映画ジャーナリスト。タランティーノとはマブダチ。「ブラピ」の通称を発明した張本人でもある。「BRUTUS」「GINZA」「ぴあ」等で執筆中。
Twitter:@qtyuriwaka