コラム:若林ゆり 舞台.com - 第48回
2016年10月4日更新
第48回:若手実力派、佐津川愛美がくだらなさ炸裂のサスペンス風コメディに決死の挑戦!
なぜ佐津川がここまでプレッシャーを感じているかといえば、その根底には舞台へ、そしてコメディへの苦手意識があるようだ。
「私、舞台をやると98%くらい、心が舞台に向いちゃうから、自分がよくわからなくなっちゃう。生活のすべてが舞台になっちゃうんです。それがいいほうに行けばいいんだけど、悪いほうに行くとすごくしんどくて。今回のコメディというのも、得意分野ではないからアウェイ感がすごいんです。『娼年』は苦手分野ではなかったから。なのでこっちの方がすごい挑戦ですよ、私にとってはどう考えても!(笑)」
17歳のとき「蝉しぐれ」で映画デビューをしてからずっと、自分の居場所があると思えるのは映画なのだという。
「最初に『蝉しぐれ』という映画を経験させてもらって『役者になりたいな』って思わせてもらいました。だから映画に育ててもらったという気持ちがあるんです。舞台も、初めて本谷有希子さんの『来来来来来』をやらせてもらったとき、それが楽しかったからまたやりたいって思ったんですけど、そのあとしんどいことがあって。でもいま、その最初にやったあと『またやりたい』って思えた気持ちを、少し取り戻せているんです。それは『娼年』で直接、カーテンコールでのお客さんたちの表情を見られたからかな。あれだけできたら、もう恐いものはないなという気持ちにもならせてもらえたし、役者としての自分にちょっと自信をもたせてもらえたなっていうところがあると思います。だから今回は、初心に返りたいと思っています」
実は、筆者は佐津川が20歳を迎えた誕生日のお祝いに立ち会っていた。映画「鈍獣」の現場だ。それから8年。「もう私アラサーですよー! 早く30代になりたいんです!」と笑う彼女は少女のような透明感と素直さ、かわいらしさはそのままだけれど、ますます演技派へと成長したなぁ、と思う。ごく最近も「ヒメアノ~ル」や「だれかの木琴」などで好演、いまや映画界になくてはならない存在になった。そして思い出したのは「鈍獣」の現場で佐津川が、いつもスタッフと仲よくしていたこと!
「そうなんです、どの現場でもスタッフさんとすごく仲よくなります。舞台でもそう。『娼年』をやっていたときに、『みんなで舞台に立っているな』とすごく思ったんです。スタッフさんたちがタイミングとかをいろいろ調整して、力を合わせてがんばってくれて初めて、私たち役者が舞台に立てているんだって感じました。みんなで創りあげるというのが好きなんです」
今回のカンパニーもまさに「みんなで創りあげる」ことが好きな人たちの集まり。プレッシャーをはねのけて、くだらなくて救い難い演劇を面白がり、楽しんでほしい。演技巧者の佐津川が「くだらない」という新たな引き出しを得られれば、きっと百人力!
ジョンソン&ジャクソン「夜にて」は10月20~30日 CBGKシブゲキ!!で上演される(以後、盛岡、いわき公演あり)。詳しい情報は以下のサイトへ。
http://cubeinc.co.jp/stage/info/jj2016.html
筆者紹介
若林ゆり(わかばやし・ゆり)。映画ジャーナリスト。タランティーノとはマブダチ。「ブラピ」の通称を発明した張本人でもある。「BRUTUS」「GINZA」「ぴあ」等で執筆中。
Twitter:@qtyuriwaka