コラム:若林ゆり 舞台.com - 第36回

2015年10月19日更新

若林ゆり 舞台.com

第36回:宝塚退団直後、ブロードウェイの大スターたちと共演する柚希礼音をニューヨークで直撃!

秋とはいえまだ蒸し暑さの残る9月末、柚希礼音(ゆずきれおん)は世界が憧れるショウビズの本場・ニューヨークにおける、3カ月にわたる武者修行の仕上げに入っていた。2014年には宝塚歌劇団100周年の顔として絶大な人気を集め、“宝塚のレジェンド”と呼ばれる男役トップスターだった柚希が宝塚を退団したのは今年5月のこと。その彼女が休む間もなく、新たなスタートを切る作品として選んだのは「プリンス・オブ・ブロードウェイ」。数々の名作ミュージカルを生みだしてきた“ブロードウェイのレジェンド”、ハロルド・プリンスが自らの人生をミュージカル・ショーに仕立てた極上の一作である。しかも初演の幕を開けるのは日本、共同演出・振付を「プロデューサーズ」のスーザン・ストローマンが手がけ、出演陣はいまをときめくブロードウェイの現役トップスターたち。その中で、唯一の日本人キャストとして歌い踊るのが柚希なのだ。語学の習得や準備のために7月から単身ニューヨークへ乗り込み、稽古も終盤を迎えた柚希を直撃すべく、いざニューヨークへ。

撮影:若林ゆり、スタイリスト:Lisa Jarvis
撮影:若林ゆり、スタイリスト:Lisa Jarvis

ヘラルドスクエアにほど近い稽古場で、まずは通し稽古を見せてもらう。ウォーミングアップを終えた柚希は、通訳に頼ることなくほかのキャストとなごやかに談笑し、“愛されキャラ”を発揮している様子。とっても微笑ましい光景だ。しかし、いざ稽古が始まると、想像を絶するゴージャスさに大興奮!

なんといっても「レ・ミゼラブル」でつい先日までジャン・バルジャンを演じていたラミン・カリムルーや「オン・ザ・タウン」のトニー・ヤズベックら、トニー賞の受賞者や候補者、いつ獲ってもおかしくない実力者たちによる本気のパフォーマンスがすぐ目の前で展開しているのだ。もう、瞬きもできない。誰もが強烈な個性を発揮、圧倒的なソング&ダンス&演技を見せる中、我らが柚希も負けてはいなかった。ダイナミックなダンス、ハスキーな歌声、コケティッシュな表情。柚希礼音ならでは、柚希礼音にしかできないパフォーマンスを堂々披露。日本人として誇らしく、涙が出そうになるほどだったのだ。

そんな柚希も稽古が始まってすぐのころは「あまりの衝撃に立ち往生して、押しつぶされそうになった」時期があったという。

「あまりにも共演者のみなさんがすごすぎて、最初の1、2週間は心が折れそうでした。焦ってしまって。私が宝塚にいたときは、稽古場で稽古を重ねていくうちにだんだん上達していくという感じだったんですね。でもこちらの方々は初日に譜面をもらって歌稽古を始めたときから、もうCDを聴いているみたいなレベル。完璧に歌いこなしているんですよ! 音取りも早いし毎回作り込んできていて、それを稽古場で出し切ったらさっと終わらせる。居残りなんてしない(笑)。そんな方々から取り残されないようについていかなきゃ、って必死でしたね。それでガチガチになっていたとき、ボイストレーナーの先生に『トニー賞を獲ったような人たちの中で、自分は大丈夫かなとか心配してるんじゃない?』と言われたんです。『うわ、なんで歌を聴いただけなのにバレたんだろ?』と思ったんですが、図星(笑)。そのときその先生が『みんなだってレオンみたいに踊りたいって絶対思ってる。あなたにはあなたにしかできない何かがきっとあるよ』と言ってくださって。そこからちょっと、前向きにがんばろうと思えるようになりました」

撮影:若林ゆり、スタイリスト:Lisa Jarvis
撮影:若林ゆり、スタイリスト:Lisa Jarvis

そんな柚希にとって大きな助けになったのが、世界の頂点に立つ超一流スターたちのやさしさだった。

「本当に、出演者1人1人がものすごく親切にしてくれたんです。自分のことでも必死なのに、つねに誰かが『レオン、大丈夫?』って気遣ってくれて。誰1人嫌な人はいないし、誰もが芸に夢中で、それぞれのやさしさを感じます。もし私たち日本人の中に1人だけ外国の方がいたら、自分ならここまでやさしくしてあげられたかな? と思うくらい。ブロードウェイの第一線ってどうなんだろうって想像したときは、もっとピリピリとした厳しい雰囲気かと思ってたんですけど、本当に第一線の方々こそお互いをリスペクトし合って、どんどん高め合っていくんですね」

そんなスターたちが次々と究極のパフォーマンスを見せる中、1幕での柚希の見せ場は「くたばれ!ヤンキース」のローラ役。野球のユニフォームドレスをダンスの途中でバッと脱ぎ去ると……、あとは見てのお楽しみ。

「とりあえず宝塚ファンのみなさんは衝撃を受けると思います。お色気系だったらどうしようって不安なようなので (笑)、やっぱりチャーミングに見せたいですね。映画版でもそうですが、やっている内容がすっごくかわいいから、見たあとで『ポップでかわいい場面だったな』って思ってもらえるようにしたいですね」

筆者紹介

若林ゆりのコラム

若林ゆり(わかばやし・ゆり)。映画ジャーナリスト。タランティーノとはマブダチ。「ブラピ」の通称を発明した張本人でもある。「BRUTUS」「GINZA」「ぴあ」等で執筆中。

Twitter:@qtyuriwaka

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