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原作は伊藤計劃の同タイトル小説。
監督に『閃光のハサウェイ』村瀬修功。
【ストーリー】
アメリカ情報軍特殊検索群i分遣隊に所属するクラヴィス・シェパードは、秘密作戦で世界各地を転戦していた。
10年前にサラエボで核兵器が使用されて以降、後進国では紛争が頻発していた。
くりかえされる戦闘と虐殺。
その裏には、"ジョン・ポール"という男の影が常にあった。
クラヴィスの部隊はジョン・ポールを暗殺すべく、最新鋭の兵器を使用し、みずからの脳すら改造し、その影を追う。
だが、先々でジョン・ポールは『仕事を終えた』との言葉をのこし、部隊が到達する直前に姿を消していた。
さいごにのこした足跡は、チェコ・プラハのショッピングセンター。
DIA(国防情報局)からの指令で、分遣隊は現地での潜入作戦を実行する。
夭折の天才作家、伊藤計劃です。
デビューしてたった2年後、2009年に亡くなられてます。
出版された長編小説は、たった三冊(うち一冊は円城塔との共著)。
はじめて読んで、その文章力にドギモをぬかれました。
冷たいハードボイルド文体に、アメリカ文学のごときガジェットやモチーフの象徴化、そして知性的な語り口と思考。
文章だけで惚れこんだ作家って、自分の人生では『EGコンバット』の秋山瑞人と、この『虐殺器官』の伊藤計劃だけです。次点で舞城王太郎。
ぐぬぬぼくもこんな文章書きたい。
中心にもってきたアイデアが、また善き。
細かいデータを大量にあびせ、
「人類には、虐殺をつかさどる器官がある」
っていうおぞましいアイデアを、説得力抜群に見せつけてくれます。
牽強付会?
それこそSFの最大のうまみじゃろて。
それ見たさに、ぼくらは小松左京とか平井和正とか谷甲州とかジェームズ・P・ホーガンとかグレッグ・ベアとかグレッグ・イーガンとかテッド・チャンを読むんじゃないですか。
そしてガジェットの魅力を口いっぱいにほおばるべく、大友克洋とか士郎正宗とか山下いくととかアンディ・ウィアーを読むんじゃないですか。
原作小説は、あらゆるアメリカ的消費物に、後進国から搾取する否定的イメージを見いだし、またそれらを無思考に摂取する主人公クラヴィス自身を、一人称文体なのに、距離をおいて語ります。つまり正しきハードボイルド文体ですね。
サブスクで無料の冒頭15分だけえんえん流される"プライベート・ライアン"、脳裏にひらめくキング原作の"キャリー"のポスター、50ミリ機関銃がマウントされた"フジワラというトウフ・ショップ"の日本車、ベートーベンの"月光"が流れるターゲットの館、生きたイルカから採取した部品を使う"侵入鞘"………。
膨大な具体物に押しつぶされつつ、処理できないデータに丸めこまされる、この圧倒的ダマされ感。
あー快感だ。
このアニメ映画はストーリーかいつまんだ内容ですけど、演出はスタイリッシュでスピード感もほどよし。
原作の苦苦ビターエンドにつながる途中で打ちきられて、ハリウッド風のトゥルーエンドにされてるのはちょっと残念ですが。
商業アニメならやむなし、かな。
でも、やっぱり原作を読んでほしいですね。
作品の魅力は、早逝の原因となった悪性腫瘍に、長く苦しめられた作者の、死を見つめる冷たい視点と、かいまみえる生への執念。
そしてそれをエンタメとして昇華する腕力。
「夢中になり、嫉妬して、ファンになりました」
——伊坂幸太郎
「繊細で、愛おしくて、恐ろしい」
——小島秀夫
「私には、3回生まれ変わっても書けない」
——宮部みゆき
文庫の帯だけで、これだけの作家が賞賛してんですからすごい。
アメリカ、韓国、中国、台湾、フランスでも翻訳刊行されてる本書。
最強のストーリーと最高の文体と、あの見事なラスト。
ハリウッドが実写の映像権を買って、例のごとくながーい制作準備期間に入ってます。
こっちも超お金つぎこんでの豪華映像化、首ながーくして待ってます。
興味をもたれたなら、ぜひぜひ読んでみてほしい、ゼロ年代最高の一冊です。