【「バードマン」映画ファンの疑問(1)】奇跡の全編ワンカット撮影はどう実現したのか?
2015年4月10日 20:10
[映画.com ニュース] 第87回アカデミー賞で作品賞、監督賞を含む4部門に輝いた「バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)」が公開された。本作を見た映画ファンなら例外なしに驚くポイントは、この映画が、冒頭と最終盤の数カットを除いて、全編のほとんどが超絶長回しのワンカットで撮影されていることだろう。およそ2時間に渡り、カットなしのワンカメ映像が延々続くのだ。これは奇跡と言っていい。いや、魔術と言った方が正しいか。
正直、100年を超える映画の歴史の中でも、こんなにも長いワンカットは他に見たことも聞いたこともない。しかも本作のその超絶ワンカットは、ステディカム(手持ちカメラ)による移動撮影なのである。実際に本編を見ると、ステディカムは自在に動いている。部屋にいる主人公を映しているかと思えば、振り返ってドアを向き、ドアから部屋に入ってくるマネージャーをとらえる。2人が会話をしている画を映した次の瞬間、カメラはマネージャーを追って部屋から出て行く。
少しでも映画の撮影について知識がある方なら、この撮影がどんなにチャレンジングなものか理解できるだろう。そして、一体どうすれば可能になるのかと疑問を抱くに違いない。そんな魔術的なカメラワークがどうして実現したのか。映画.comが、特別映像やアレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ監督のコメントを手がかりにその疑問に答えたい。
その長回しのショット群は、イニャリトゥ監督がすべての瞬間、すべての段階で、俳優の顔の向きや動作さえも事前に決めて1発勝負で撮影するという方法で実現している。実際のワンカットは数分間、ものによっては10分以上のカットもあるだろう。これらの長いカットを編集で切れ目のないよう巧みにつなぎ、全編がワンカットの(ような)映画が出来上がったのだ。
と、言葉で表現するといかにも簡単なように感じるかもしれないが、これは想像を絶する冒険だ。過去に誰も挑戦していないし、そもそも、そんな発想すら普通は思いつかないだろう。しかし、イニャリトゥ監督はこの前代未聞の撮影と編集方法を思いつき、見事実現してしまう。今回、撮影監督に指名されたのはエマニュエル・ルベツキだ。昨年「ゼロ・グラビティ」における宇宙空間での超絶長回しで世界を驚かせた男だ。
イニャリトゥは「照明もカメラワークも、相当な技術と経験が必要だった。エマニュエル・ルベツキでなければできなかったと思う」とその仕事を賞賛している。ルベツキは、本作で見事2年連続のアカデミー撮影賞を受賞した。映画を見れば、受賞は当然だと誰もが思うはず。
出演者のエドワード・ノートンは「イニャリトゥ監督ほど大胆で天才的な監督はいない。監督の視覚的な試みは連続した映像を作り出したことだ」と絶賛。一方、監督は「この撮影方法には綿密な準備が必要だった。カメラの動きや俳優の一挙手一投足に至るまで全部リハーサルしたよ」と述懐し、「全編が連続した映像だ。主人公がたどる迷路を観客にも通ってほしい」と訴えている。
そう、全編ワンカットにした意図がここにある。映画は終始、主人公の視点で描かれているのだ。彼のたどる道は迷路のごとく、そして彼の心がたどるのもまた迷路のようだ。揺れ動くステディカムの映像が、主人公の心象風景をこれでもかと吐き出していく。
本作のメガホンをとったことを「今までで一番難しく楽しい仕事だった」と話すイニャリトゥ監督は同時に、「あの撮影は恐ろしくて、無責任な実験だったよ」と吐露する。確かに、これまで「バベル」「21グラム」など時空間を断片化させて描く作品を手がけてきた監督にとって、本作の撮影は180度異なるものだったはずだ。「コンマやピリオドをつけずに文章を書くようなもので、シーンを分断しないと、内在するリズムや調和、つながりが見つけにくくなる。すべてを事前に計画し、頭に入れた上で撮影したよ」と語る監督。「俳優たちのその場の感情や臨場感を伝えたかった」という言葉通り、本作では実力派俳優たちの1秒のズレもない圧巻の演技を堪能できる。
「バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)」は公開中。必見ポイントのひとつは「撮影」である。
PR
©2024 Disney and its related entities
関連ニュース
映画.com注目特集をチェック
【推しの子】 The Final Act NEW
【忖度なし本音レビュー】原作ガチファン&原作未見が観たら…想像以上の“観るべき良作”だった――!
提供:東映
物語が超・面白い! NEW
大物マフィアが左遷され、独自に犯罪組織を設立…どうなる!? 年末年始にオススメ“大絶品”
提供:Paramount+
外道の歌 NEW
強姦、児童虐待殺人、一家洗脳殺人…地上波では絶対に流せない“狂刺激作”【鑑賞は自己責任で】
提供:DMM TV
全「ロード・オブ・ザ・リング」ファン必見の超重要作 NEW
【伝説的一作】ファン大歓喜、大興奮、大満足――あれもこれも登場し、感動すら覚える極上体験
提供:ワーナー・ブラザース映画
ライオン・キング ムファサ
【全世界史上最高ヒット“エンタメの王”】この“超実写”は何がすごい? 魂揺さぶる究極映画体験!
提供:ディズニー
映画.com編集部もドハマリ中
【人生の楽しみが一個、増えた】半端ない中毒性と自由度の“尖った映画”…期間限定で公開中
提供:ローソンエンタテインメント
【衝撃】映画を500円で観る“裏ワザ”
【知って得する】「2000円は高い」というあなただけに…“超安くなる裏ワザ”こっそり教えます
提供:KDDI
モアナと伝説の海2
【モアナが歴代No.1の人が観てきた】神曲揃いで超刺さった!!超オススメだからぜひ、ぜひ観て!!
提供:ディズニー
関連コンテンツをチェック
シネマ映画.comで今すぐ見る
内容のあまりの過激さに世界各国で上映の際に多くのシーンがカット、ないしは上映そのものが禁止されるなど物議をかもしたセルビア製ゴアスリラー。元ポルノ男優のミロシュは、怪しげな大作ポルノ映画への出演を依頼され、高額なギャラにひかれて話を引き受ける。ある豪邸につれていかれ、そこに現れたビクミルと名乗る謎の男から「大金持ちのクライアントの嗜好を満たす芸術的なポルノ映画が撮りたい」と諭されたミロシュは、具体的な内容の説明も聞かぬうちに契約書にサインしてしまうが……。日本では2012年にノーカット版で劇場公開。2022年には4Kデジタルリマスター化&無修正の「4Kリマスター完全版」で公開。※本作品はHD画質での配信となります。予め、ご了承くださいませ。
ギリシャ・クレタ島のリゾート地を舞台に、10代の少女たちの友情や恋愛やセックスが絡み合う夏休みをいきいきと描いた青春ドラマ。 タラ、スカイ、エムの親友3人組は卒業旅行の締めくくりとして、パーティが盛んなクレタ島のリゾート地マリアへやって来る。3人の中で自分だけがバージンのタラはこの地で初体験を果たすべく焦りを募らせるが、スカイとエムはお節介な混乱を招いてばかり。バーやナイトクラブが立ち並ぶ雑踏を、酒に酔ってひとりさまようタラ。やがて彼女はホテルの隣室の青年たちと出会い、思い出に残る夏の日々への期待を抱くが……。 主人公タラ役に、ドラマ「ヴァンパイア・アカデミー」のミア・マッケンナ=ブルース。「SCRAPPER スクラッパー」などの作品で撮影監督として活躍してきたモリー・マニング・ウォーカーが長編初監督・脚本を手がけ、2023年・第76回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門グランプリをはじめ世界各地の映画祭で高く評価された。
父親と2人で過ごした夏休みを、20年後、その時の父親と同じ年齢になった娘の視点からつづり、当時は知らなかった父親の新たな一面を見いだしていく姿を描いたヒューマンドラマ。 11歳の夏休み、思春期のソフィは、離れて暮らす31歳の父親カラムとともにトルコのひなびたリゾート地にやってきた。まぶしい太陽の下、カラムが入手したビデオカメラを互いに向け合い、2人は親密な時間を過ごす。20年後、当時のカラムと同じ年齢になったソフィは、その時に撮影した懐かしい映像を振り返り、大好きだった父との記憶をよみがえらてゆく。 テレビドラマ「ノーマル・ピープル」でブレイクしたポール・メスカルが愛情深くも繊細な父親カラムを演じ、第95回アカデミー主演男優賞にノミネート。ソフィ役はオーディションで選ばれた新人フランキー・コリオ。監督・脚本はこれが長編デビューとなる、スコットランド出身の新星シャーロット・ウェルズ。
奔放な美少女に翻弄される男の姿をつづった谷崎潤一郎の長編小説「痴人の愛」を、現代に舞台を置き換えて主人公ふたりの性別を逆転させるなど大胆なアレンジを加えて映画化。 教師のなおみは、捨て猫のように道端に座り込んでいた青年ゆずるを放っておくことができず、広い家に引っ越して一緒に暮らし始める。ゆずるとの間に体の関係はなく、なおみは彼の成長を見守るだけのはずだった。しかし、ゆずるの自由奔放な行動に振り回されるうちに、その蠱惑的な魅力の虜になっていき……。 2022年の映画「鍵」でも谷崎作品のヒロインを務めた桝田幸希が主人公なおみ、「ロストサマー」「ブルーイマジン」の林裕太がゆずるを演じ、「青春ジャック 止められるか、俺たちを2」の碧木愛莉、「きのう生まれたわけじゃない」の守屋文雄が共演。「家政夫のミタゾノ」などテレビドラマの演出を中心に手がけてきた宝来忠昭が監督・脚本を担当。
文豪・谷崎潤一郎が同性愛や不倫に溺れる男女の破滅的な情愛を赤裸々につづった長編小説「卍」を、現代に舞台を置き換えて登場人物の性別を逆にするなど大胆なアレンジを加えて映画化。 画家になる夢を諦めきれず、サラリーマンを辞めて美術学校に通う園田。家庭では弁護士の妻・弥生が生計を支えていた。そんな中、園田は学校で見かけた美しい青年・光を目で追うようになり、デッサンのモデルとして自宅に招く。園田と光は自然に体を重ね、その後も逢瀬を繰り返していく。弥生からの誘いを断って光との情事に溺れる園田だったが、光には香織という婚約者がいることが発覚し……。 「クロガラス0」の中﨑絵梨奈が弥生役を体当たりで演じ、「ヘタな二人の恋の話」の鈴木志遠、「モダンかアナーキー」の門間航が共演。監督・脚本は「家政夫のミタゾノ」「孤独のグルメ」などテレビドラマの演出を中心に手がけてきた宝来忠昭。
「苦役列車」「まなみ100%」の脚本や「れいこいるか」などの監督作で知られるいまおかしんじ監督が、突然体が入れ替わってしまった男女を主人公に、セックスもジェンダーも超えた恋の形をユーモラスにつづった奇想天外なラブストーリー。 39歳の小説家・辺見たかしと24歳の美容師・横澤サトミは、街で衝突して一緒に階段から転げ落ちたことをきっかけに、体が入れ替わってしまう。お互いになりきってそれぞれの生活を送り始める2人だったが、たかしの妻・由莉奈には別の男の影があり、レズビアンのサトミは同棲中の真紀から男の恋人ができたことを理由に別れを告げられる。たかしとサトミはお互いの人生を好転させるため、周囲の人々を巻き込みながら奮闘を続けるが……。 小説家たかしを小出恵介、たかしと体が入れ替わってしまう美容師サトミをグラビアアイドルの風吹ケイ、たかしの妻・由莉奈を新藤まなみ、たかしとサトミを見守るゲイのバー店主を田中幸太朗が演じた。