中村登監督生誕100年特集上映で息子が語る巨匠との思い出
2013年11月28日 12:25
[映画.com ニュース] 東京・有楽町で開催中の「第14回東京フィルメックス」の特集上映企画「生誕100年 中村登」で、「父、中村登を語る」と題したトークイベントが11月27日開催され、中村登監督の息子の中村好夫氏が父の思い出を語った。
1941年の「結婚の理想」で監督デビュー後、松竹の看板監督として生涯に82本の劇映画を残した中村監督は、大船調のホームドラマで優れた演出ぶりを発揮、とりわけ文芸映画では高い評価を得て「古都」(63)と「智恵子抄」(67)で2度、アカデミー賞外国語映画賞にノミネートされている。
今年9月の第70回べネチア国際映画祭クラシック部門で上映され絶賛されたカラー作品「夜の片鱗」(64)について好夫氏は、「この作品の頃は松竹ヌーベルバーグで新しいことをやっていた時代で、父もそういう意識があった。伝統の松竹調の中で新しい波ができないかと模索してできた1本では」と分析する。
当時監督にはキャスティング権が与えられていなかったそうだが、多くの女優、俳優の新たな魅力を引き出す手腕には定評があり、後に「紀ノ川」(66)で映画賞を総なめにした東宝の看板女優だった司葉子が、「自分は大根女優だ」と自虐的に語ったことを中村監督が叱咤したというエピソードを挙げ「決まった枠の中から何かをひっぱりだしていきたかったのだろう」と話す。
勉強熱心で真面目な監督として知られていたが、趣味のゴルフでも「真面目すぎて毎日練習に行って、肋骨を痛めてクラブを投げ出しました。隠し撮りの撮影の際に『隠し撮り、よーいスタート!』と大声で叫んだという話もありますから」という逸話を披露。また、売れっ子監督だったことから、全盛期は年に3本もの新作を手掛けていたそうで「家庭は母親任せ。母と妹と私の方からロケ先の父親を訪ねるということもあった。松竹が作る映画のようなアットホームな家庭ではなかった」と振り返った。
好夫氏は映画業界には進まず、大手広告代理店に勤務したそう。「父と私との重要な会話として『就職どうするんだ。映画界は斜陽なので松竹に入ったら、中村家は共倒れだよ』と言われ、博報堂に入りました(笑)」と明かし会場を笑わせていた。
再評価が高まる中村監督の作品は、来年2月開催のベルリン国際映画祭のフォーラム部門で「夜の片鱗」「我が家は楽し」(51)、「土砂降り」(57)の招待上映も決定している。
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