「エンディングノート」 家族の死が涙と笑いありの新感覚ドキュメンタリーに
2011年9月30日 14:25

[映画.com ニュース] がん宣告を受けた父親が病気に向き合い、最期の日までを前向きに生きる姿を記録した、砂田麻美監督のドキュメンタリー映画「エンディングノート」が、10月1日に公開される。家族の死という悲しくも普遍的なテーマを、ユーモアを交えて描く希有なドキュメンタリーだ。本作が監督デビュー作となる、砂田監督に話を聞いた。
主人公は、高度経済成長期の日本を背負ってきた会社ひと筋の熱血サラリーマン・砂田知昭さん。退職後、第2の人生を楽しもうとした矢先、進行した胃がんが発見される。段取り命の営業マンだった知昭さんは、残される家族と、自身の人生を総括するため、死の段取りと自分の思いや願望を書き残す“エンディングノート”を作成する。
幼いころからカメラに興味を持ち、日常的に家族を撮影していたという砂田監督。実父の6カ月の闘病生活にカメラを回すことは、やはり大きな葛藤(かっとう)があった。
「撮っている最中よりも、撮ろうっていう決心がつくまでの方がつらかったです。単純に娘と父親という関係ではなくなってしまうので、そこまでして撮ることはないだろうという気持ちがありました。誰に頼まれたわけでもないので、そんなことをする必要はないとも思いましたが、でもどこかで残しておきたいという気持ちがあって。そこを乗り切るまで、父親が撮られたくなさそうな時は絶対に撮らないと決めた上で再びカメラを回し始めるまでの葛藤が一番大きかったです」
家族の死というもっともプライベートな出来事を、映画として世に出そうと決意したのは、砂田監督がフリーの監督助手として作品に携わってきた、是枝裕和監督のひと言だった。「きっかけは、編集したものを是枝さんに見せた際の『これは映画になると思うよ』っていう言葉です。それまで、これがどうなるかっていうのはあまり考えていなくて、とにかく作りたいという気持ちの方が強くて。もちろん家族も含めて誰かに見てもらいたいという気持ちももちろんありましたが、それが何人なのかっていうのは全く想定していませんでした」。

出演者は知昭さんを含め、砂田監督の家族がほとんどだ。その家族の一員でもある監督自身は、父親の死に直面し、冷静な視点を持ち続けることは難しくはなかったのだろうか。
「父親の人生を描きたかったわけではなかったからだと思います。その先にあるもの、生きていた人間が命を終えていくことの不思議さや悲しさを描きたかった。私の家族という登場人物を通してですが、普遍的なものを感じてほしいという思いがあったからです」
映し出されるのは、悲壮感ある闘病記ではなく、持ち前の明るさで、家族とともに病と向き合う知昭さんの姿。そして、砂田監督自身が飄々(ひょうひょう)とした語り口で知昭さんの心の声をナレーションすることによって、最後までユーモアある仕上がりとなっており、これまで行われた試写でも、その部分の手ごたえは感じている。「思ったより笑ってもらっていたのはよかったなと思いました。ユーモアは映画の中にずっと入れたかったし、涙よりも笑顔になってほしかったので」。
監督デビュー作で、自身の家族とともに、誰もが共感できる新感覚のドキュメンタリーを作り上げた砂田監督。今後の作品の方向性は決まっているのだろうか。「次はゼロに戻って、また一からの出発だと思っています。前に引っ張られることなく、本当に自分が描きたいものは何なのかっていうところを、流されないで追及していければ。今度はフィクションを撮りたいと思っています」。
「エンディングノート」は10月1日から新宿ピカデリーほかで公開。
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