炎のランナー

劇場公開日:

解説

1924年のパリ・オリンピックに出場した二人のイギリス青年を描く。実話の映画化。製作はデイヴィッド・パトナム、製作指揮はドディ・フェイド、監督はCM出身で、これが第一作になるヒュー・ハドソン。脚本はコリン・ウェランド、撮影はデイヴィッド・ワトキン、音楽はヴァンゲリスが担当。出演はベン・クロス、イアン・チャールソン、シェリル・キャンベル、アリス・クリージャ、イアン・ホルムなど。原題はウィリアム・ブレイクの詩『エルサレム』から取られている。

1981年製作/123分/イギリス
原題:Chariots of Fire
配給:20世紀フォックス
劇場公開日:1982年8月14日

ストーリー

1919年、ケンブリッジ大に入学したハロルド・エイブラハムズ(ベン・クロス)は、自分がユダヤ人であることを強く意識していた。アングロ・サクソンの有形無形の差別に反発し、その鬱憤を発散するため走った。同じ頃、スコットランドではエリック・リデル(イアン・チャールソン)が駿足を謳われていた。彼は宣教師の家庭に生まれ、彼も父の後を継ぐつもりだった。彼にとって、走ることは神の思寵をたたえることだったが、妹のジェニー(シェリル・キャンベル)は彼が一日も早く宣教の仕事を始めることを望んでいた。ケンブリッジでは、ハロルドを中心に、障害物のアンドリュー(ナイジェル・ヘイヴァース)、中距離のオーブリー(ニコラス・ファレル)とヘンリー(ダニエル・ジェロール)が活躍をし、24年のパリ・オリンピックを目指して練習を続けた。ハロルドはスコットランドまで行き、エリックが走るのを見学。ある夜、オペラ見物に出かけたハロルドは、歌手のシビル(アリス・クリージャ)に一目惚れし、早速デートに誘い出す。23年、ロンドンでの競技会で、エリックとハロルドは対決。わずかの差でエリックが勝つ。ハロルドはサム・ムサビーニ(イアン・ホルム)のコーチを受けることになった。そのためトリニティの学寮長(ジョン・ギールグッド)とキースの学寮長(リンゼイ・アンダーソン)に、アマチュア精神にもとると批難されたが、彼は昂然と反論した。オリンピック出場が決定したケンブリッジ四人組とエリックは、パリに向かう。百メートルの予選が日曜日と知ってエリックは出場を辞退する。日曜は神が定めた安息日だから、走れないというのだ。選手団長のバーケンヘッド卿(ナイジェル・ダヴェンポート)、皇太子(デイヴィッド・イエランド)、サザーランド公(ピーター・イーガン)の説得も効はなかった。アンドリューが四百メートルに出る権利をエリックに譲ると申し出る。百メートルではハロルドが、米国のパドック(デニス・クリストファー)、ショルツ(ブラッド・デイビス)を押えて優勝。競技場近くの宿に一人残っていたサムは、ハロルドの勝利を知り感涙にむせぶ。四百メートルでは、エリックが勝利をおさめた。帰国した選手たちに、イギリス国民は惜しみない賞賛を与えるのだった。

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スタッフ・キャスト

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受賞歴

第6回 日本アカデミー賞(1983年)

ノミネート

外国作品賞  

第39回 ゴールデングローブ賞(1982年)

受賞

最優秀外国語映画賞  

第34回 カンヌ国際映画祭(1981年)

受賞

コンペティション部門
助演男優賞 イアン・ホルム

出品

コンペティション部門
出品作品 ヒュー・ハドソン
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写真:Photofest/アフロ

映画レビュー

4.5東京オリンピックの前に是非チェックしておきたい陸上映画の傑作

2019年8月27日
PCから投稿
鑑賞方法:DVD/BD

東京オリンピックまであと残り1年を切った今、ぜひ見ておきたい一作。製作者デヴィッド・パットナムは当時、クールでエレガントな作品ばかりがひしめく英国映画の現状に反旗を翻し、逆に主人公の熱い情熱が伝わる作品を作ろうと努力を続けていた。そんな中で「安息日のレースへの出走を拒否した牧師ランナー」のエピソードを知り、これぞ映画にすべき題材と詳しく歴史を掘り起こし始めたのだという。
1920年のパリ・オリンピックにおける英国勢の活躍を描いた本作は、この布教のために走り続ける牧師ランナーを描くと同時に、ユダヤ人としての差別にも臆することなく誰よりも勝利を追い求めたもう一人のランナーにも焦点を当てる。いずれも史実として面白く、キャストの演技や体の動きも素晴らしい。そして何より、オリンピックという舞台が、様々な出自や宗教や文化を持った人間たちが一堂に集う場であることを教えてくれる傑作ヒューマンドラマである。

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牛津厚信

4.0あの場で「No」と言える精神力。…人は何のために何を成し遂げるのか。

2023年10月8日
PCから投稿
鑑賞方法:DVD/BD

単純

知的

難しい

観た気になっていたが、鑑賞したら、想像と全く違う映画。
 反芻するたびに、味わいが増してくる。

初見。
ケンブリッジ大を中心に、1920年代の上流階級の社会にうっとりさせられる。
 入学したその晩に催される晩餐会。新入生も皆タキシード。ろうそくの光に輝く、カトラリー。
 シビルを始めとする女性たちの衣装。
 ケンブリッジ大生たちの仕立てが良く、着心地がよさそうな衣装。

エリック・リデルの住まうスコットランドの風景。人を寄せ付けなさそうな、”豊かな”とは程遠い素朴さ。なぜか沁みる。
 あのようなフォームでは早く走れないだろうと思ったが、実在のリデル氏が天を仰いで飛ぶように走って「フライング・スコッツマン」と呼ばれたのだと、毎日新聞1993年10月10日の特集記事で知った。ラグビーの選手として、クロスカントリーやヒルレースが発達した故郷の地勢で、リデル氏の足腰を強化したのだろうと書いてあった。

そこに、青春を謳歌する若者たち。舞台はオリンピックへ。

映画の雰囲気を楽しむだけでもうっとりしてしまう。
ただ、要所要所は見ごたえのあるシーンなれど、クライマックスにかけての盛り上げ方はドラマチックではなく、想像していた物語とも違うこともあり、不完全燃焼の思いが残る。

けれど、見直すと。

長いものに巻かれろ的な私は、あの場で自分の思いを貫き通せるのだろうか。
彼らの信念の貫き方に圧倒されてしまう。

 ユダヤ人であることで、自分は”イギリス人”からは締め出されると主張するハロルド。映画では直接差別を描き出さない。描かれるのは、暗黙のルールを読めずに、浮き上がってしまうシーンのみ。PDDの方の戸惑いにも似ている。尤も、この場面では、周りの「しょうがないなあ」的な笑いでハロルドも笑いあって”仲間”になっていく。
 それでも、”一番”になれば、学校や国に利益をもたらせば、”イギリス人の仲間”として受け入れられると信じるハロルド。そのための努力を欠かさない。
 だが、それに”待った”がかかる。プロとアマの違いという。今では当たり前の、プロのコーチについてパフォーマンスを上げるというのが、アマの精神に反するというのだ。自分たちだって、教員のプロとして学生を教えているのではないかと反発したくなるのだが。
 というより、どんな手段を使っても”一番”になりたいという思いが、卑しいと問題なのだろう。自分さえよければというユダヤ主義(『ベニスの商人』に出てくるシャイロックがユダヤ金貸しの典型)。イギリスの支配階級・昔ながらの爵位制度、なれ合いの均衡で成り立っている勢力分布。誰かが、抜きん出ればその均衡が崩れる。組織の勢力争いにも似て…。
 手を借りるコーチがイギリス人でないというのも、自分たちのプライドを潰すのであろう。
 そんな彼が入りたいと望んでいる”社会”の暗黙のルールをちらつかせる先生方(≒上司)に「No」というハロルド。
 そして…。
 そして、彼が最終的に手にしたものは…。

 中国で生まれたスコットランド人であるエリック。神の使命に応えることが自分の役目と信じている。将来は宣教師。だから、安息日には走れない。
 あれだけのメンバーに囲まれて、民衆の期待も押し寄せて、それなのに「No」と言う。ここで「Yes」と言わなければ、イギリス国内での自分の居場所はなくなってしまいそうだ。今なら「国賊」という言葉がネットやワイドショーにばらまかれそうだ。
 オリンピックが終われば中国に行くつもりだから、神の方だけを向いていればいいのか。キリスト教の説く最後の審判が一番重要だから、それだけを見つめていればよいのか。目の前の権威を振りかざす人々の期待より、もっと自身にとって大事なものを守りたいエリック。
 そして…。

 そんな二人を中心に描いているが、アンドリューの生き方も面白い。
 爵位をやがて継ぐ身。スポーツは「遊び」と言い切る。ひょっとして人生はすべて遊び?ひっかきまわしておもしろがる部分と、余裕があり、手助けをする部分と。メダルより、将来の国王に自身を売り込むことも大切?とうがった見方もできる。メダリストとしての可能性に賭けるより、自己を犠牲にして国益に奉仕した博愛精神の持ち主となる方を選ぶアイデンティティ。”貴族”としてのあるべき姿。
 そして…。

この映画で、「犠牲亡くして忠誠はない」と”国”のために走れと迫る皇太子が、後年、自身の幸せのため、”国”を捨て、王位を放りだすのは、この時の影響か?と勘繰ってしまったり。

映画の最初の方で、”国”のために、第一次大戦で命を落とした生徒たちのエピソードが出てくる。
 ハロルドが入寮の時に言う言葉を反芻したくなる。
そして、この映画の数年後には、第二次世界大戦が始まる。

「国のために」
 オリンピックが、個人の力を競う場ではなく、”国”の威光を示す場になってしまってどのくらいたつのだろう。
 ”国”の威光を背負いきれなくなって、自死されたマラソン選手。
 組織的なドーピングによって体を壊す人々。

そんな世界的な潮流。世相に飲み込まれながら動いていく日々。その流れに乗ってしまった方が楽なのに、あえて、自分の信念を貫き通した男たちの物語。
 実話がベースというのだから、唸ってしまう。

何のために走るのか。何のための競技か。
何のために何を成し遂げるのか。
人々の期待と、自分の人生との折り合いをどうつけるのか。
そして、そんな自分を支えてくれる人々との関係。
反対にそんな期待をかけられてしまった人をどう支えられるのか。
見るたびに視点が変わり、考えてしまう。

ただ、イギリス社会を知らない身には、多少説明不足。
 アンドリューとオーブリーが、最期の最期に「彼(エリック)は勝ったんだ」というが、何に勝ったのかがわからない。
 Wikiや解説を読んで、イギリス社会で、イギリス人として要職に就いたことが、最初の目的である「イギリス社会に受け入れられ、立派なイギリス人になった」から”勝った”ということなのか。
 個人的には、人種・宗教を超えて、素敵な伴侶と人生を共にしたということであってほしいと思う。
 それが理解できたとき、この映画の本当の価値を理解できるのだろうと思う。

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とみいじょん

3.0期待したけど

2023年7月25日
PCから投稿
鑑賞方法:VOD

単純

萌える

実在の人々を描いてるせいなのか
ドラマとしての盛り上がりは少ない。

てっきり同期との、ライバル関係で
あつく感動する展開になるかと思いきや
そこまででも無い。

当時根深い人種差別や宗教観を乗り越えて
スポーツに賭ける姿は
素晴らしいものではあるが、
正直観終わっても
ああ、ふーんそーいう人がいたのね。
位の感想で終わってしまった。

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こまめぞう

2.5恵まれた人達のバブリーな物語。二枚看板の群像劇。

2023年4月15日
スマートフォンから投稿
鑑賞方法:DVD/BD

悲しい

楽しい

寝られる

内容は、実話を元にした1924パリ五輪を巡る二人ハロルド・ユダヤ人とリデル・宣教師を中心にケンブリッジ大学内に描かれた若者達の群像劇。印象的な台詞は『勝つのが怖い!勝利の虚しさを知る!』ハロルドの短距離走で優勝する前に語る言葉。勝負の厳しさ以外にも偏見や目立つ事への弊害や嫌悪感すら感じ始めた人間的にも成長した一言が良かったです。ノヴリスオブリージュの雰囲気と『お国の為だ、罪な話だ、その殺し文句で人格を抹殺するなんて』戦争に対する嫌悪感🪖がメッセージとして強く伝わってくる。『敵は、ユダヤ人である事』この一言も強く時代背景と偏見が分かる一言でした。印象的な場面は、時は1920年代ジャポニズムブームの舞台女優と恋に落ち食事の席で、いつものお任せ料理を女性が頼み同じ物をと行った後、ユダヤ教で禁厭とされている豚足🐖料理が出て来て二人で顔見合わせ笑う場面。一気に距離が縮まる場面は見ていて楽しかった。印象的な状況は、やはりヴァンゲリスの音楽と波の高い浜辺を走る若者達を固定したパン映像で追いかける映像の美しさと言ったらこれだけで感動物です。唯走ってるだけなのに音楽と合間って素晴らしい映像に生唾物です。ぐっと拳を握りたくなります。このオープニングとエンディングを見るだけで充分楽しめる映像の素晴らしさです。始めと最後の映像が違う事に意図した時間の流れを感じました。よく似てたけど同じだとダメだと言われてるみたいで深読みしてしまいます。全体的に恵まれた人達の葛藤が描かれた日本のバブル時期の大学生映画の様な乗りで親近感は抱きませんが、こういう世界もあったのだと勉強になります。

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共感した! 6件)
コバヤシマル
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