女性プロデューサーが語る日米アニメーションの制作とビジネス WIA代表マーガレット・M・ディーン&東映アニメーション関弘美が対談
2025年12月16日 19:00

名古屋市で開催中の「第1回あいち・なごやインターナショナル・アニメーション・フィルム・フェスティバル」アニメーション・カンファレンス2025部門で、アニメ業界における多様性と公平性の向上を目指すWomen in Animationの代表マーガレット・M・ディーン氏と、東映アニメーションで「デジモンアドベンチャー」シリーズ、「おジャ魔女どれみ」シリーズなどを手掛けた関弘美氏が対談した。
30年以上にわたり米国のアニメーション業界で仕事をしているディーン氏は、「制作現場からキャリアをスタートし、プロデューサーを経て、現在スタジオの立ち上げや構築、責任者として活動し、女性アニメーション制作者を支援する団体Women in Animationの代表も務めています」と自己紹介。
プロデューサーとして、日本のアニメーション業界の第一線で活躍する関氏も「自分で物語を作りたいという思いがあり、入社後、制作現場や企画部門を経験しながら、シリーズを通して、現場での判断やチームでの仕事、ビジネスとのバランスを学びました。現在は企画開発に加え、社内で若手プロデューサーを育成するための勉強会やノウハウ共有にも取り組んでいます」と話す。

ディーン氏は、もともとは映画監督になりたいと思っていたが、「自分が本当に作りたい作品を作るには資金が必要だと気づきました。そして、資金を集め、作品の方向性をコントロールできる立場がプロデューサーだと考えました。そこでプロデュースを学ぶため、UCLAのプログラムに進みました」と、キャリアの出発点を振り返る。
関氏は、「最初からお金を集める仕事だと自覚しているのが素晴らしい」とディーン氏に伝え、「日本のプロデューサーは、まず何を作るか、誰と作るか、を考えがちで、会社員がお金のことに本格的に向き合うのは、30代半ば以降になることが多いからです。日本では、会社の中で、中間管理職以上などある程度の役職になって、ようやくどこからお金を集めるかを考えるようになります。私自身は、自分が所属する会社から作品に出資してもらうことを重視しています。会社が出資することで、社内の理解やバックアップが得られるからです」と自身の経験を語った。

東映アニメーションでの関氏の立場を知ったディーン氏は「自分が属するシステムを理解し、その中でどう企画を通すかを知ることは、プロデューサーにとって不可欠なスキルだと思います。アメリカでは、選択肢があまりないとも言えます。資金へのアクセスが、クリエイティブな選択肢を大きく左右する。だからこそ、早い段階からビジネスとして考える必要があります。また、アメリカにはさまざまなタイプのプロデューサーがいます。資金を集める人、企画を生み出す人、制作を回す人など役割は多様です」と日本との違いを挙げた。
アメリカでは「カバレッジ」という、企画を通すために脚本や企画を要約・評価する訓練を学生時代から行うのか? とディーン氏に尋ねる関氏。「正式な授業としてある場合もありますが、業界に入ると誰もが身につけるスキルです。物語はすべての中心なので、脚本を短時間で読み、要点と評価をまとめる能力が求められます。これは私自身の仕事でも非常に重要でした。アメリカでは短時間で、誰にでも分かる形で作品の魅力を伝えなければなりません」と回答。
関氏は、クリエイターと、出資や配給に関わる側が同じ言語で企画を理解できるようになるためにも、簡潔で説得力のある企画書を書く訓練が重要であると実感しており、「私もアメリカのピッチバイブルを拝見したことがありますが、英語が得意でなくても理解できるほど簡潔で、非常に感動しました。日本でも取り入れるべき」と同調した。
次は、制作に入る際の具体的な流れの話題に。プロデューサーが最初決めることとして「まずは脚本家、次に監督、そしてラインプロデューサーです。特にラインプロデューサーは、予算・スケジュール・人材を管理し、作品の成否を大きく左右します。この役割は過小評価されがちですが、非常に重要です」とディーン氏。
関氏も大まかな仕事の流れを説明し、同時に「今、日本では、企画もお金もあるのに、それを形にしていく作り手が足りず、制作に踏み出せない状況が続いています。プロデューサーとして、これほどつらいことはありません」と吐露。また、東映アニメーションではフィリピンに同社が100%出資する制作会社を持ち、日本から演出スタッフを派遣しながら連携して制作を行っていること、同じグループ会社であることで、文化や制作意図の共有がしやすく、海外制作で起こりがちなトラブルも比較的少なく抑えられていると報告する。
ディーン氏は、ストリーミングサービスやAIの台頭の影響などで、アメリカでは仕事が減り、多くのアニメーション制作者が職を失っていると明かす。「キッズ向けコンテンツから撤退した影響が大きいです。実際、数年前にストリーマー各社がビジネスモデルを見直したことで、スタジオの閉鎖や解雇が相次ぎました」
関氏は「日本では少子化で国内市場は縮小していますが、アジアやヨーロッパに目を向けると子どもの人口は増えています。特にヨーロッパでは、イスラム圏を中心とした移民の増加によって、子どもの数が増えている国や地域もあります。そうした文化的・宗教的背景を理解した上で作品を作ることが、今後ますます重要になると感じています。一方で、日本は現在円安が進んでおり、海外のクリエイターに日本で働いてもらおうとすると、報酬面で不利になってしまう」と、現在の日本の状況を伝える。
学生時代にディズニーの「ファンタジア」やポール・グリモー「やぶにらみの暴君」から影響を受け、アニメーションを作りたいと考えた関氏。「アメリカやヨーロッパでは、オリジナル作品を作る文化が根付いている点が羨ましいです。日本では漫画文化が強く、オリジナル作品が軽視されがちな面があります。ただ、プロデューサーとして長く仕事をしてきて感じるのは、オリジナル作品こそがスタジオや作り手の力を育てるということです。原作ものももちろん素晴らしく、学ぶことも多いですが、ゼロから構築する経験は、次の世代に必ず還元されます」と強調する。

ディーン氏は、アメリカもリスク回避の傾向はあるが「最近は、YouTubeやSNSで発表された創作物がファンを獲得し、そこから作品化する新しい流れも生まれています。オリジナルであること自体がリスクなのではなく、どう育て、どう届けるかという設計が問われている」と話す。
ディーン氏は、自身が感銘を受けたアニメーション作品として宮崎駿監督の「となりのトトロ」を挙げる。「当時、私はシングルマザーとして二人の子どもを育てており、日々の生活に追われる中で、映画館で観ました。物語、音楽、感情表現、そのすべてが美しく、親として、そして一人の人間として強く心を動かされたのです。その体験を通して、アニメーションは子どもだけのものではなく、大人の人生にも深く作用する表現なのだと実感しました。アニメーションは、私にとってあらゆる表現を統合できる最高のメディアです」と力を込めると、関氏も「アニメーションが人生を変える力を持っていることを、改めて実感しました」と感激の面持ちで伝えた。
「第1回あいち・なごやインターナショナル・アニメーション・フィルム・フェスティバル」(ANIAFF)は12月17日まで、愛知県名古屋市で開催。チケットは公式サイト(https://aniaff.com/)で発売中。
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