綾野剛が昭和の“男の性(さが)”を体現 「星と月は天の穴」1969年を再現した撮影風景写真公開
2025年12月2日 15:00
(C)2025「星と月は天の穴」製作委員会日本を代表する脚本家・荒井晴彦の監督最新作で、吉行淳之介の小説を綾野剛主演で映画化した「星と月は天の穴」の撮影風景撮影風景をとらえたメイキング写真6点が公開された。
荒井監督の長年の念願だった吉行淳之介氏による芸術選奨文部大臣受賞作品を映画化。過去の離婚経験から女を愛することを恐れる一方、愛されたい願望をこじらせる40代小説家の日常が、エロティシズムとペーソスを織り交ぜながら綴られている。
小説家の矢添は、妻に逃げられ結婚に失敗して以来、独身のまま40代を迎えていた。心に空いた穴を埋めるように 娼婦・千枝子と時折り体を交え、捨てられた過去を引きずりながらやり過ごしていた。そして彼には恋愛に尻込みするもう一つの理由があった。それは、誰にも知られたくない自身の“秘密”にコンプレックスを抱えているからだ。そんな矢添は、自身が執筆する恋愛小説の主人公に自分自身を投影することで「精神的な愛の可能性」を自問するように探求するのが日課だった。ところがある日、画廊で偶然出会った大学生の瀬川紀子と彼女の粗相をきっかけに奇妙な情事へと至り、矢添の日常と心が揺れ始める。
(C)2025「星と月は天の穴」製作委員会吉行氏の原作小説は1966年に上梓されている。当時10代だった荒井監督は矢添の心情と“男の性(さが)”にシンパシーを抱き、映画の仕事を始めて以来「いつか映画化したい」と思い続けてきたという。本作のプロデューサーの1人、清水真由美氏は「監督は『昭和40年代の小説だから古いかな』とおっしゃったんですけど、主人公の男は愛を拗らせ、逆にヒロインはそんな男にヅケヅケと踏み込んでいく。むしろすごく今っぽいと思いました」と原作の印象を語っている。
荒井監督は当初、時代設定を現代に移して書いてみたそうだが、原作当時の価値観やシチュエーション、セリフも「今」とそぐわず、物語そのものが成立しなくなると判断。時代を、(原作が書かれた)1966年に戻そうとしたが、「星と月は天の穴」というタイトルにオチを付けたかったこともあり、アポロ11号が月面着陸した1969年に設定、他は原作に忠実に描かれている。
(C)2025「星と月は天の穴」製作委員会本作は、その1969年という時代の空気や質感をスクリーンに転写したいという荒井監督の意図から全編モノクロで撮影。濃淡と陰影によって組成された画面は、単にノスタルジックなだけでなく、活字から文脈を読み取るごとく余白の美も映し出している。時折現れるパートカラーの赤は、吉行氏原作の映画「砂の上の植物群」へのオマージュ的な意図も含まれているのだという。
矢添の愛車BMW2002シリーズは吉行が実際に乗っていた車種である。車のみならず信号機なども昭和年代のものが稼働している地域まで素材を撮りに行くなど、ディテールへのこだわりは徹底。綾野が着用している衣装も、吉行氏が当時着用していたジャケットに近い生地で仕立て、当時のデザインを再現。部屋のレイアウトも69年ごろ、吉行氏が暮らしていた住居の間取りを参考に家具を配置するなど時代性が意識されている。
(C)2025「星と月は天の穴」製作委員会しかし一番難航したのは、矢添が住んでいる部屋のロケーションだったという。矢添の部屋の書斎の窓からブランコが設置された小さな公園が見える。ところがこの眺めを抱いた建物がなかなか見つからない。昭和の雰囲気があり、座ったまま窓から公園が見える部屋を探しても、公園には現代的な遊具が置かれているところが多く、荒井監督はマンションと公園をそれぞれ撮り分けることも考えたという。しかし助監督ら荒井組のスタッフが執念で遂に理想の部屋を発見、台本に忠実なシチュエーションを実現させた。
「星と月は天の穴」は、12月19日から東京・テアトル新宿ほかで公開。